藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
高松伸2題@京都
1980年代の高松伸、好きです。いろいろ言われるけど、このデザインは誰も真似のできない。キレキレです。

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ARK  1983年。歯医者さんです。
駅舎に妙にマッチしていました。場所は京都南郊、宇治近く。京阪宇治線桃山南口駅前。京都駅から乗り換え2回で約30分くらいです。
メンテナンス中で足場が組まれていて最初ガッカリでしたが、よく見るとその姿がカッコイイ。

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織陣Ⅲ 1986年
かなりメトロポリスですが、黒と赤がなんだか妙に京都っぽい。こういうのをとんでも建築とかバカ建築という人の見識を疑います。左右のマンションのほうがずっと景観を壊す、無節操・無美学な建築です。
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この頃の高松建築には強烈な異化効果があります。しかし京都の景観を壊したなどというのは間違い。バブル期に粗悪な模倣の建築が現れて、こんなのばっかり増えたら大変だという恐怖感が募りはじめ、こうした建築がまるごと一括りにされてしまった。斬新で濃密なデザインか、中身のない物まねのコテコテかを問われませんでした。一切合切が否定されたのです。
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実際この眼で見てみると、この2つの建築は周囲の景観など全く壊していません。特に歯科医院のARKのほうは、鉄骨の構造物や電線が剥き出しに使われている鉄道駅周辺の景観を完全に計算に入れて、エンジンのタービンのような姿がデザインされています。

無個性なマンションや建て売り住宅のような、質の悪いものに同化するだけの建築のほうが罪悪です。今の日本では、共存、共生、調和が尊ばれていますが、下のレベルに合わせる共存、共生、調和は劣化だという認識が欠けています。なあなあのうちに行われる同化に対する危機意識がないのです。糾弾すべきは“劣化同化”のほうだと思う。
良質の異化効果は新しい調和をもたらす。
それに京都は広いんです。町屋建築や寺社建築ばかりあるわけじゃありません。

そういえば高松伸の心斎橋のキリンプラザ大阪(1987年)も、異化効果があるのと同時に、あの猥雑な場所にあの光の塔のようなデザインが非常にマッチしています。スタルクの浅草のスーパードライホールなども異化効果が景観にハマった例でしょう。

織陣では、ビルのオーナーであるテキスタイルショップのスタッフの方が親切にしてくれて中まで見せてもらいました。雨漏りとかするそうです。でも、そんなのいいです。直せばいいんだし。
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中を見せていただいて、一番心に残ったのは空間構成などではありません。シルクの畳。元・茶室の部屋にあるもので、この畳が高松伸の意向かオーナーの意向によるものかはわかりません。
靴を脱いで、足を踏み入れると、シルクの優しさと繊細さが足の裏に伝わります。これぞ足の裏の最高の贅沢。靴下を脱いで素足で感触を確かめてくればよかったと後悔しています。こうした足の裏で踏んで感じる触感のデザインって、もっとあってもいいと思う。

【関連リンク】
高松伸建築設計事務所の公式HP
織陣のテキスタイルメーカー&ショップFactory Museum Shop SUNMOON 京都本店。親切にしてもらったからというわけじゃなく、いい商品がたくさんありました。お金があれば買ったんだけど。自由が丘にショップがあるんで今度見に行こ。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2005-06-22 02:49
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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