藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
スタイルとテイスト
前投稿の最後あたりの話、スタイルとテイストの話を補足する。

スタイリングデザインは行き過ぎた様式化で、見た目で売ろうという意思が見え見えの誠実さに欠いたデザインとして、否定的なニュアンスで使われることが多い。

メーカーやデザイナーの態度として、上げ底パッケージのようなデザインは確かに問題がある。が、僕がスタイリングデザインを語るときに非常に問題だと感じるのは、テイストの問題までスタイルの問題として語ってしまうことだ。

テイストは受け手の趣味の問題だ。見た目重視でもかっこよければいいじゃん、ボロさが味じゃんという人たちの趣向は、誰も否定できない。

たとえば、59年型キャデラックといえば、スタイリングデザインの象徴的存在だ。59年だけで実に15種類ものキャデラックを製造しているが、なかでも59年型キャデラック・エルドラドは最も華麗なアメ車の最高峰だ。

ゴージャスだけどデザインはやり過ぎ。ガソリンは食う。テールフィンは走行上の機能的な意味がない。40年代から50年代の、必要以上に大型化し、過剰にスピード感を強調したアメ車の外観デザインは、機能性や誠実さを尊ぶデザイナーから強く非難された。しかし、古き良き時代のアメリカ、強くて豊かなアメリカを愛する人が、テールフィンやクロームメッキがピカピカ光る巨大なボディを愛することを、誰が否定できるだろうか。

『ピンク・キャデラック』という映画がある。クリント・イーストウッド主演の1989年のアメリカ映画だが、ピンクの59年型キャデラック(シリーズ62)が準主役級で登場している。

映画の冒頭に、フォルクスワーゲンの追走をいとも簡単に振り切るというシーンがある。フォルクスワーゲン・ビートルがアメリカ市場を席巻し大型車の時代が終わっていくという歴史を知っているアメリカ人にとって、このシーンは実に痛快に映ったはずだ。フォルクスワーゲン・ビートルといえば誠実なデザインのシンボルのようなクルマである。

キャデラックは、スタイリングが繰り返し行われたせいで、スタイルが分裂し錯乱し爆発した結果、あの奇形的なクルマのフォルムが生まれる。ガソリンを食う無駄な、外観優先の穀潰しなカーデザイン──表現する側の態度としては不誠実きわまりない。しかしテイストとしては最強のクルマとして生き残る。

今アキバやウラハラでは、テイストが力を持ってスタイル化している。現在のデザインブームも、ミニマムでシンプルなデザインを愛する「デザイナーズテイスト」がマーケット側に先に生まれてた結果である。ポストモダンデザインの時のように、思想や運動が先にあったわけではない。現在のミニマリズムにはイズムとしての中身がない。

テイスト先導のデザインスタイルが悪いなどと主張するつもりはない。むしろ自然な現象である。受け手が作り手に育っていくわけだから。問題はテイストを、スタイルを評する時のようにグッド/バッドの判断基準で語ることだ。デザイナーが作り手の論理として定めた善悪の規準によってテイストを判断すると、レス・イズ・モアがお好みの「デザイナーズテイスト」しか生き残らなくなる。それは欺瞞である。

デザインの社会性を考えるときグッド/バッドを語ることは必要だが、かつてのように作り手が決めた善悪を世の中に啓蒙するという一方通行的な姿勢では済まなくなってきている。テイストとスタイルの違いに敏感にならないと、価値観の多様性を損ねることになりかねない。僕はそう思う。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2005-07-04 00:42 | Comments(1)
Commented by yamashita at 2005-07-05 00:34 x
なるほど、解説ありがとうございます。
混同してしまっていましたが、確かに受け手の感性は自由であり、
それに送り手が意見するのは欺瞞ですね。
さらに、民族的な要素が入ったりするのも面白い。
これを機に、価値観の多様性には注目してみようと思います。
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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