藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
川崎和男のRON
この3月、ある雑誌のために川崎和男氏をインタビューした際、お土産にもらった。「RON」という名のドーナツ型キッチンスポンジ。川崎氏がデザインディレクターを務めた製品で、2003年度のグッドデザイン中小企業庁長官特別賞を獲得したもの。が、現在市販されていない。製造に非常に手間にかかり値段が1000円くらいになりそうで販路の確保が難しい。いま市販に向けて動いているので、使ってみて意見を聞かせてほしい、とのことだった。

えっそんなに高価なスポンジ、それは是非使ってみようと、わが家の主戦スポンジとして3月半ばにキッチンの最前線に投入。そして丸4か月が経った──。
で、これがいいんです、使い勝手が。
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「RON」には二種類あって、ウレタンフォームだけのものと、しつこい汚れを落とすための不織布が付いたものがある。ともに円形で真ん中に穴が開いているが、前者がドーナツだとすると、後者はシフォンケーキ。底が平らで不織布が張られている。

僕がもらったのはドーナツ型のほう。形は断然こちらのほうが美しい。鍋にこびりついたような汚れには向かないが、それは金タワシとか使えばいいこと。ふだんの食器洗いには問題がない。真ん中に開いた穴のおかげで、無理なく形がさまざまに変わるので、コップやカップ洗いに重宝する。毎日私、食器洗いやってますから。
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RONに付いているパンフレットより

しかも丈夫だ。安価なスポンジだとすぐに破けてボロボロになるが、いまだに傷なし。まっ、高いから粗末な扱い方をしていないってこともある。包丁やフォークを洗う時は慎重にやってるし。

インターネットで調べてみた。何処かで売られていないかと。けど発見できず。製造元の会社のホームページは見つけることができた。キクロン株式会社。和歌山県海南郡(当時)でタワシ製造から始まった会社で、1960年からスポンジタワシを手がけている。

キクロンに電話してみた。
──販売の予定はないのでしょうか?
「9月から我が社のホームページだけで販売する予定です」
──いくらぐらいになるのですか?
「2000円くらいですね。正式にはまだ決まってないですが」
──えっ、そんなに…。1000円くらいと聞いてたのですが?
「ひとつひとつ作ってますから。機械も使いますが手作りみたいなものですし。問屋のことなど考えると市価はこの値段になってしまう」
──うちで使ってますけど、いや実に丈夫ですね?
「最高級のウレタンフォームを使っていますからね」
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Yahoo!のネットショップでは亀の子タワシが38円から売られている。100円ショップではスポンジタワシが2、3個パックで売られている。そんな時代に2000円のスポンジタワシって。けど、だからモノが大事に使えるのではないか。

ドーナツは正面から見た輪郭は真円。穴も真円。リングの断面も真円。それを一個一個丁寧に工場の人たちがカットして研磨する。この円にこだわったフォルムに、現代のデザインと無名のクラフツマンシップの理想的な融合の姿が秘められている。
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2000円(予価ですよ)が高いか適正かは、あと2か月、せめて半年使いつづけて判断しないといけないと思ったが、こういうデザインは支持したい。フォルムがきれいでインテリア性が高いとか薄っぺらの理由じゃない。

鍋とか包丁とか調理家電とか料理を作る道具には、デザイナーが知恵を込めた製品は結構ある。フォークとか皿とか食べる道具は、これでもかというくらい作家物とかデザイナープロダクトがある。だけど食器洗いの際に、道具の大切さを使いながら味わえるデザインなど皆無だった。

イヤな後処理は使い捨ての安価な道具でサッサと片づける。出来れば他の人に任せたい。そういった発想では高価なキッチンスポンジなど使えない。洗い物は料理のうち、後片付けはホスピタリティのうちという発想が必要になる。家に友達を呼んでパーティーする時も後片付けを手伝ってもらうことも多いのだから。

美しく整えられた真円のドーナツが、後片付けという行為の質を変えてくれる。食器洗いという日陰の仕事に品格をもたらすわけだ。これこそデザインの力。僕はそう思う。


【関連リンク】
キクロン株式会社。このサイトの中の「キクちゃん堂ストア」だけで9月頃から販売される予定とだとか。このホームページはデザインはちょっと……。要再デザイン。
・2003年度グッドデザイン中小企業庁長官特別賞を獲ったときの製品概要紹介や審査委員評
・川崎和男氏が主宰するouzak design。市場向けのプロダクトの仕事はこちらにまとまっている。
・川崎和男氏の名古屋市立大学大学院の研究室のHP、Kz-design。人工心臓や小型原発などの最先端の仕事はこちらで見られる。
・キクロン婦人の謎?
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2005-07-15 00:38 | Comments(2)
Commented by 中山マコト at 2005-07-17 10:13 x
いや、このドーナッツも素敵ですね。
川崎イズム炸裂!って感じです。
中山はデザイナでもないし、デザインのセンスも全くありません。
この自覚は「正しい」です。
でも、使う側の方をキチンと向いている商品(デザイン)は分かります。
直感的に「良い」と感じます。
そんな「直感力」をまだまだ磨きたいですね。
また遊びに来ます!失礼しました。
Commented by cabanon at 2005-07-17 17:50
わざわざ訪問して下さってコメントまで残していただき有り難うございます。

そうそう、「使う側の方をきちんと向いているデザイン」ですよね。
いい言葉です。マーケティングの専門家の方の言葉は分かりやすくて強い。

写真やお店の中でだけ、いい顔して、家で使っているとなんかずっとこっちを見ないで目を背けっぱなしって感じる商品でありますよね。使う人の目を見て話せるデザインって意外と少ないかもしれない。そう思いました。
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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