藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
こちら機長
d0039955_259184.jpgローリー・アンダーソンのアーティスト・トークに行ってました。ICCで開催中の彼女の日本初の回顧展に併せて催されたものです。内容は断片的にして覚えていません。なぜって彼女の透き通った声に聞き惚れていたからなんです。言葉が弦楽器のように空間に響き、抑揚が耳に心地よい。最近の仕事をとりとめもなく話しているだけなのですが、トークがもうパフォーマンスとなっていました。

ローリーの初来日公演の記憶が生々しく蘇ってきました。1984年(えっそんな前だったけ、大学4年か)。会場はラフォーレ飯倉(なんか自分が場違いのオシャレな場所に思えたなあ)。パフォーマンスの名は「ミスター・ハートブレイク」(今でもこの公演に併せて発表された同名のアルバムを聴き続けてる。名盤です)。

ローリーは21年前より美しかったです。お世辞じゃありません。創造活動に生きる充実感が、身体から漲っているのが分かるのです。鳥のさえずりを聞いているような気分で、NASA初のアーティスト・イン・レジデンスに招待されたことや愛知万博での仕事、ギリシアの旅の話などに耳を傾けていると、突然、その瞬間がやって来ました。

講演中に地震が──。すごく揺れました。震度5ですから。会場は4階とはいえ、オペラシティ自体が超高層ビルのせいでしょう、ぐらーりぐらーりと今まで体験したことないほどの振幅で大きく揺れます。

会場は騒然としました。が、ローリーはしゃべり続けます。慌てることはありません。「あら、飛行機が(気流で)揺れてるみたいね」と言って、両手を広げて翼が揺れているような身振りをした後、こう続けました。

“This is your captain.”

声をグッと低くして「こちら機長」と──。まだ揺れはおさまりませんでしたが、みんなの心はおさまります。僕の隣に座った白人は手を叩いて喜んでいました。

その瞬間、今起こった出来事と21年前の記憶がピタッと重なり合いました。“This is your captain.”と発した男性のような低音の声が、「ミスター・ハートブレイク」の時にローリーが発した声のようだったのです。

一瞬の機知が、観客の不安を笑いに変えました。そして予感に変わります。
予感とはこうです。将来きっとこの地震は何らかの形で彼女の作品の題材になるであろう──。多くの観客はそう感じたはずです。だって彼女は地震に全く物怖じせず、好奇心すら示していたのですから。

「私、初めて地震を体験したわ」

観客は、ローリーにとっての特別な出来事を、今この瞬間いっしょに共有できてよかったと思ってしまうわけです。

「場を作る」という表現は、まやかしみたいな部分があります。美術評論家に「アーティストのパフォーマンスが場を創出する」とか言われれば、そうかもしれないと思うけれど、本当にそこに特別な“場”があったかなど誰も証明できません。だけどローリーが地震を呑み込んだ瞬間に、ローリー・アンダーソンというアーティストが放つ強烈な磁場を肌で実感できたのです。パフォーマンスとは何ぞや?という問いの回答を、21年目にして彼女から直接教えてもらったような気がしました。

で、講演会が終わり、1時間ばかり展覧会を観て新宿駅へ。京王線は動いてましたが、JRは全線運休。復旧のメドが立たないとのこと。新宿駅は人でごった返していました。ローリーのおかげで、たいした地震じゃないような気になっていたので、そんなにすごい地震だったのと改めて実感。メシ食って映画観て時間潰してやっと家路に。ま、とにかく僕にとっては、21年の前の過去と現在をぐらぐらッと共振させる特別な地震体験だったわけです。

【関連リンク】
・7月22日〜10月2日 東京・初台のICC(NTTインターコミュニケーション・センター)で行われるローリー・アンダーソン『時間の記憶』展
Laurie Anderson.com 最近更新されていないようです。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2005-07-24 01:38 | Comments(0)
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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