藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
エンツォ・マーリの杉の家具HIDA
d0039955_6372354.jpg東京・青山のスパイラルガーデンへ、エンツォ・マーリが岐阜県の飛騨産業のためにデザインした家具の展覧会を見に行ってきた(31日まで)。良かったです。

地場産業の活性化を図るため、内外の有名デザイナーを起用してプロトタイプを発表する展覧会はもう何度も見てきた。『domus』掲載用のフォトジェニックな作品は仕上がったが、結局話題づくりだけで終わってしまったプロジェクトは山ほどある。

正直、今回も期待していなかった。が、いやいや、これはかなりガチンコ勝負。イタリアの巨匠の本気度がヒシヒシと伝わる。親善試合気分のデザインじゃない。

ブランド名はHIDA。今年のミラノサローネで発表されたもので、テーブルやイス、収納家具など20点あまりが展示されている。開発に1年半を要したという。2年前、マーリが岐阜県高山市に講演に訪れた際、飛騨産業の岡田贊三社長が、杉材を使った家具デザインの共同プロジェクトを持ちかけた。

杉は戦後の過剰の植林で、昨今は花粉症の原因として世間から悪者扱いされている。建材としてはコストがかかって輸入材に押され、家具材としては柔らかすぎ、節(ふし)が多くて見た目が悪い。飛騨産業は、杉を家具材に使えるようにプレス加工する技術を開発。それを活かし、マーリはこの逆境の素材を自在に使いこなした。
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ピンクの大理石の天板の上の花瓶も素焼きの皿もマーリの名品

ある時は大理石やガラスなど異素材と組み合わせ、ある時は白木のようなきめの細かい表面仕上げを施し、ある時は材木のような粗い仕上げまま使い、ある時は強い木目や大きな節をそのまま活かす。
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そして家具が造形的に美しい。ソファの脚の傾き微妙な具合や、テーブルの脚の滑らかなカーブなどは、マーリだからこそ出来たもの。プロポーションや輪郭や面を決定するセンスは、それが高いレベルになればなるほど、持って生まれた才能と、生まれ育った土地の文化に帰するものという指摘する以外、論評のしようがないものだ。まさにその天賦のマーリの造形センスが飛騨産業の技術を通していかんなく発揮されている。

ローテーブルの天板にはクジラの尾の絵柄が配されていた。マーリは政治的な意見をはっきりと主張するデザイナーだ。おそらく捕鯨へのメッセージだろう。こんなところの隠し味も実にマーリらしい。
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傑作とか名品とか煽って、買い手の優越感を刺激して売るプロダクトではない。作り手の意識は売り場でなく生活の中に向いている。使う中で良質さが味わえる製品のような気がした(使ってないから、あくまでそういう気がしただけだが)。

写真じゃ分からない良さがあるので、日曜日までだけど、興味がある人はぜひその眼で確かめるべきでしょう。

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【関連リンク】
・このプロジェクトや飛騨産業に関してはHIDA
・「エンツォ・マーリが取り組む100万の1万倍もの日本の杉の木」展  7月27日〜31日 11:00-20:00 会場に関してはスパイラル

【おまけ】
エンツォ・マーリの略歴
Enzo Mari 1932〜
1932年イタリア・ノヴァラ生まれ。ミラノのブレラ芸術アカデミーを卒業。1950年代初頭から視覚心理学を研究。その後デザインに関心をもちはじめ、ダネーゼではブルーノ・ムナーリと並ぶ看板デザイナーとして日用品や遊具、アートオブジェを制作。生み出した作品は1600点を超える。近年ではドリアデ、ザノッタ、カルテル、マジス、ロボッツ、無印良品、復活したダネーゼと幅広い活動を展開。長崎の波佐見焼や岐阜・高山の飛騨産業など、日本の地場産業とのコラボレーションも積極的に進めている。
まさにデザインの鬼。強欲が生む理不尽で軽薄な世界には般若のごとく怒り、無垢な子どもや共に闘う者にはやさしく真剣に進むべき道を示してくれる。(初出『BRUTUS』2005年4月15日号・一部改変)
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2005-07-30 06:26 | Comments(2)
Commented by okphex at 2005-07-30 06:31
こんにちは。
貴重なお知らせ、ありがとうございました!
美しい家具は、写真だけではなく、ぜひとも実際に見て、手で触ってその良さを体感したいですね。
場所的に、展覧会に行くのは難しそうだけど、機会があれば是非こういった展覧会を訪れてみたいものです!
Commented by cabanon at 2005-07-30 14:43
>okphexさん
コメント有り難うございます。
木の家具は特に触ってみないと分からないですよね。
材質や仕上げによって肌触りが全然違うから。
微妙な触感を視覚的に再現してしまうのがプロの写真家の仕事。
写真も深いですよね。
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藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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