藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
うぶ毛の理由
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堺雅人が大写しになったソフトバンクのポスターで、オヤッ?と思った。毛だらけなのだ。もしこれが女性ならコンピュータで加工して、うぶ毛も毛穴もシワも消し去って艶やかな肌にしてしまうだろうが、このポスターではライティングで頬の輪郭のうぶ毛を光らせて、一本一本毛羽立っている様がわかるようにしている。毛穴も生えかかったヒゲもわざと目立たせている。

堺雅人の肌は白くてツルツルというイメージを勝手に抱いたし、男性でさえ肌をツルツル加工した広告を見慣れていたせいか、今時うぶ毛全開とはすごいな、と思ったわけである。

ま、よく考えれば、ソフトバンクはツルツル肌の堺雅人のイメージが欲しかったのではなく、組織に飼い馴らされず正義を貫く、半沢直樹という野生の銀行員というイメージを欲しかったわけで、ドコモがようやくiPhoneを扱って「巻き返し」を図っているが、昨日までツートップだとか言っていたモバイル通信界の巨人の「手のひら返し」に、こちらこそ「倍返し」だ、と言いたいのだろう。

広告に現れるお肌ツルツルは個性ではない。シワは醜い、肌荒れは悪、お肌のケアをしないことはだらしないこと、若さを保つ努力や健康管理は現代人の義務という国民的刷り込みの表現である。

そうした意味では、顔毛の表出は広告界の暗黙の了解への掟破りのようにも思えるが、ソフトバンクの広告には以前から毛だらけ顔の主役がいる。
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白い犬のお父さん──。ソフトバンクの白戸家シリーズの広告キャンペーンは、家族全員ソフトバンク、親戚もお友達も宇宙人もみんなでソフトバンク、というのが基本的なメッセージである。白い犬はホワイトキャンペーンだからというだけなら、あのキャンペーンはこれほど長く続かない。あるべき家族像という刷り込みが描いているから次々と新作が可能になる。

父が犬という設定の理不尽さは、父の理不尽さの「裏返し」であり、さらにいえばエディプスコンプレックスの「裏返し」である。父が権威と言葉をとおして、母と子の初源的結びつきを断ち、子どもたちは無意識の中に抑圧をかかえるというのがエディプスコンプレックスの構造である。

それは子どもが大人になることでもある。子どもは社会のルールを知らない。だから父に何を怒られているかわからない。だから子どもにとって社会のルールを強要する父の命令は本質的に理不尽である。

しかし広告が描くのは、現代の理想の父である。もはや星一徹や小林亜星の「ちゃぶ台返し」の理不尽さは、あるべき父の姿とはほど遠い。やさしくて、話がわかって、空気が読める、多少のわがままなら暖かく見つめて許してくれる家族の保護者──そういう父をどうやって描くか。そこで理不尽な父を描くのでなく、父の存在自体を理不尽なものにしてしまうウルトラC的発想を使ったのがソフトバンクの白戸家の広告キャンペーンである。

半沢直樹は理不尽と闘う銀行員である。本来なら父親=犬という理不尽は、半沢にとって100倍返しで土下座ものである。しかし逆にいえば、白戸家の世界では理不尽さと闘う半沢の存在自体が理不尽である。それゆえ、おいおいオマエは上戸彩と夫婦じゃなかったけ、とかツッコミを入れてもらうために迫真のリアリティを演じる。

だからうぶ毛だらけの顔になる。白い柴犬が流行ったように、これからセクシー&ワイルドなうぶ毛が街を賑わすようになるのも近いかもしれない。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2013-12-02 15:26 | Comments(0)
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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