藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
名無しの海
なぜ、名無しの模倣者たちは模倣を嫌うのか。

匿名のネットの住民たちは、どんなに必死に書き込みをしようとも、一人ひとりにオリジナリティがないことを彼ら・彼女ら自身が一番認識しているのではないか。

他の匿名者の書き込みを加速させる意見のみにすり寄っていくだけ。敵を叩くためなら誹謗中傷やコピペはやり放題。正義をかざして正義じゃないことをやっていることも認識している。

彼ら・彼女らはただそういうカタチでしか世に意見を言えない。そういうやり方でしか世の中を動かすドライブ感を得られない。名無しの無法の模倣者であることから脱け出すことができない。居心地のよいその立場から脱け出す必要もない。

それを自覚しているからこそ、名無しの模倣者たちは、有名人や権威のある組織に属する者が、自分たちと同じ無法な模倣というで方法で金儲けしたりスターになっていくことを許さない。

模倣をするなら私たち模倣者の仲間になれ、パクってんだったらオレたちと同じ境遇になれ、と名無しの海に必死に引きずり込もうとする。そこにあるのはとてつもなく強烈な同調圧力である。

近代以前の名無しの海は清浄の海である。模倣に合法も非合法もなく、無名の個性や無名のオリジナリティが模倣を繰り返すことで生まれる豊穣の海であった。近代以前の優れた民衆芸術やアノニマスデザインが生まれた世界である。

しかし近代以降、スターを製造することで成長した著作物ビジネスが、本来は創造者の権利を守るために作られた著作権を根拠にして、名無しの海を非合法で取るに足らないものに見えるようしてしまった。

行き場を失っていた無名の個性はネットに集った。無名の個性はネットに集合知を形成する場をつくりだし、クリエイティブコモンズやWikipediaなど優れた成果も生み出し、豊穣な名無しの海は一部では復活している。

しかし復活したのはまだごく一部で、多くの無名の個性たちは汚れた海で,叩くべき敵を次々と替えながら、自分たちの主張をコピペや汚い言葉を交えながら脊髄反射的に発している。

こうして匿名のネット民はもはや個のオリジナリティを求めて模倣を繰り返すのでなく、彼ら・彼女らにとっての悪事を叩くために模倣を繰り返す。模倣者が著作権などを盾にして模倣を徹底的に叩く事態は、結局名無しの海の貧困なものにして、無名の個性が育ちにくい状況を生み出すことになるのではないか。

ネットで並列化しながらパクリを徹底追及し模倣者を名無しの海へ引きずり込もうとする同調圧力は、“個としての知”として自立して生きていけない、もしくは名無しの海に居場所を見出した人びとの恨みや嫉妬や抗いの心が複雑に絡みあった集合知のネガティブ面である。それがパクリを詮索し模倣を叩く名無しの模倣者たちのエネルギー源となっているのだと思う。


追記:もともとこのテーマは、最近CATVで再放送していた攻殻機動隊S.A.C.の笑い男事件の話のたまたま見てたとき、ネットで並列化された模倣者たちがパクリを糾弾する今の状況ってスタンド・アローン・コンプレックスという考え方的にはどうなんだろう? いまのネット民は模倣者なのか? もしそうだとしたら模倣者が模倣に敏感な事態をどう読みとったらいいのか? ということを考え始めたことがきっかけです。Twitterである方からの指摘のおかげで、ネット上の個性やオリジナリティのことを改めて考え直して何度も書き直してました。上から目線的な物言いは、僕の性格かもしれませんし、少し草薙素子的な思考に近づこうと思ったからかしれません。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2015-09-03 11:46
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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