藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
やる切る力だけじゃダメ
やり切る──この言葉が藝大デザイン科で作品評価にしばしば使われるのを聞いて、最初かなりの違和感をおぼえました。何のコンテクストとも絡まず、コンセプトも空っぽの作品が「やり切ってる」と評価される──チラシを編んで兜や鎧を作っている作品をみて、確かにそこまでやるのはすごいけど、で、何なの?どうしたいの? やり切った私を褒めてほしいの?「やり切った」ってここでは評価されてるけど、大学を出たらタバコのパッケージで五重塔とか作るの一緒の評価しかもらえないよって思ったものでした。
5年半もいるとだいぶ大学に染まってきて、今では僕も「ま、やり切ってるから、いいじゃない」とか言ってしまうようになっていますが……。
たしかに多くの藝大生は高い「やり切る力」をもっています。学生たちが、最後に3日、最後の1時間に、作品のクオリティをググッと上昇させる局面を何度も見てきました。やり切る力とは「集中力」と「粘り」と「いいものを作りたいという欲」の総合力です。それは社会に出れば彼ら・彼女らの強みになるはずです。
しかし、仕事では「やり切る」ことは当たり前です。「やり切ってる」ってことだけで高評価が与えられることはありません。やり切る力だけでは試合に勝てないのです。相手を研究したり、状況を分析したり、目の前の敵と駆け引きしたり、仲間の持ち味を引き出したり……。千本ノックの達人だが、試合に出ていない。朝から晩まで素振りをしているけど、変化球が打てない。「やり切る」だけを評価していると、リフティングしか出来ないサッカー選手を育てることになる。やり切る力は基礎、コンテクストに絡む力が実践力。世の中にさまざまな形で流れているコンテクストに絡むには知性(野性的知性でもいい)と教養がどうしても必要。そのことにやり切る力をもつ者たちが目覚めてほしい。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2015-10-30 07:59 | Comments(0)
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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