藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
オモサンヒルズ
表参道ヒルズに行ってきました。内覧会でしたが入場するのに200〜300メートルの行列。中も人がわんさかでした。
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安藤忠雄さんらしくない。これが感想です。

巨大な吹き抜けのアトリウムがあります。真ん中に大階段。近つ飛鳥博物館の階段屋根を思い起こさせます。アトリウムの周りはゆるい傾斜のあるスロープが囲みます。フランク・ロイド・ライトのNYのグッゲンハイム美術館のスロープのように上から下へ一本道でつながっています。ライトのそれはスロープがスパイラル状になっていて上下がつながっているのは一目瞭然ですが、表参道のスロープはパッ見だと一本道には見えません。歩いてみて初めて動線がつながっていると分かる。傾斜の具合がなんとなく直島の地中美術館のようだと思う人もいるでしょう。

巨大な吹き抜けがあるにもかかわらずその回遊スロープには閉塞感があります。スロープの天井高が低く幅も狭い。しかし、狭いと感じることは安藤建築では当たり前のことです。キャナルシティや六本木ヒルズのジョン・ジャーディも閉塞感を巧みに使っている。安藤さんもジャーディも狭いなと思わせておいて広い空間に出るといった手法が得意です。安藤さんの場合は、開放的な空間が広いだけでなく虚無の空間だったりするから魅力が深まる。
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だけど、この表参道ヒルズには虚無の空間がありません。ヴォイドも虚無じゃない。隅々まで空間が有効活用されています。
そんなところが安藤さんらしくないと感じた理由です。スロープもエスカレーターもエレベーターも階段も大小取り揃えてあるので、お好きな手段をどうぞ、とえらく親切です。行き止まりとか、あれ?屋根がない、雨んときどうすんのとか、また階段かよ、ああしんど、思うところはありません。利便性が空間を覆い尽くしています。
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同潤館からの眺め。

ギャラリーなどの入った「同潤館」には確かに古い同潤会アパートの記憶が残っています。しかしアトリウムのある「本館」のほうは、そこにいればいるほど、ここが同潤会アパートのあった敷地であったこと、いやここが表参道であることさえ忘れていきます。安藤建築にいるというより、森さんの新しいホニャララヒルズにいるんだなと思うだけです。
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これは違うぞ、と思って表参道ヒルズを出て、246を渡り、根津美術館方面へ。フロム・ファーストの向かいにある、安藤さん設計のコレッツィオーネに行きました。1989年竣工の商業ビルです。見比べたかったんです。その迷宮と。
そこには行き止まりがあり、暗がりがあり、なんでここにこんなデカい階段あるんだという階段ががあり、余白のような使われてない空間があり、虚無のコンクリート壁があります。明と暗、閉塞と開放のリズムがしっかり刻まれています。「集客装置」としての大きさが、安藤建築からそうした迷宮的非合理性を奪い去ったのでしょう。実際コレッツィオーネではスポーツクラブに行く客数人と、デジカメ片手に建築見学に来た若い外国人一人しか見ませんでしたから。
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上2点は青山のコレッツィオーネ


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表参道ヒルズに話を戻しましょう。最も美しいのは乳白色のガラス面に映るケヤキの影でした。リヒターの絵画のよう。余白なき無駄なき建築で、外壁に映った影だけがうつろうこの世のはかなさを映し出していました。
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text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-02-09 22:05 | Comments(6)
Commented by Rin at 2006-02-09 23:13 x
あちこちの表参道ヒルズの写真や記事を拝見するたび、うらやましくてしかたない・・・です。
(近いうちに必ず訪れて、わたしなりの記事を書こうと、心に誓うのでした。(大げさですね、あはは))

数日前、NHKのTV番組で、安藤氏がビデオカメラを持って中を撮影しながら説明なさっているものを、偶然拝見しました。妙にうれしかった安藤ファンです。
そのときのお話では、あのスロープは表参道の傾斜をそのまま、施設内にも引き込んだのだということでした。高さも表参道の並木より高くならないように抑え、同潤会アパートの記憶を残したい想いが強かったということでした。(あちこちの雑誌などにもすでに書かれているので、すでにご存知のことと思いますが。)
同潤会アパートを本当に残して、リノベーションする方法を取りたかったようでしたが、住民の方で理屈じゃなく建て替えてほしいのだと強く言い切る方もいて、一棟だけ再現する形で建てたということでした。残したいと願う人もいれば、そうでない人もいる。
なんとなく、阿佐ヶ谷住宅のお話にも繋がる気がしました。

らしくないのでしょうか。そうですか・・・。そのあたりも踏まえて観に行きたいです。
Commented by Yanagimoto at 2006-02-09 23:52 x
藤崎さん結構早くに行かれたんですね。私が行った7時くらいはピーク状態で、ラフォーレまで列になっていてイルミネーション時期の混雑を思い出しました。藤崎さんがリヒターと称したガラスには暗くなるとジュリアン・オピーの映像が流れています。中へ入ると藤崎さんと同じく“狭っ!”と叫んでしまいました。奥行きが無い分回廊に閉鎖感があるのでしょうか?回廊はグッゲンハイムのようで、吹き抜けの大階段はTATEっぽくもありました。同潤館は当時表参道に建った時はこんな真新しかったんだろうなあと想像しました。 それよりも何よりもここじゃなくても・・・というお店の多い事。70年代〜80年代にあった原宿の個性は見つかりませんでした。
Commented by FORM at 2006-02-10 02:48 x
藤崎様。今回もなんとも羨ましいお話です。行かれたのですね、表参道ヒルズ。同潤会は80年代に建築家の松山巌氏の著書『乱歩と東京』を片手に幾度も見て廻ったものです。次々と同潤会の建物が取り壊されて行く中、どの建物でも保存か取り壊しかの議論が取り交わされて来た事は承知しています。取り壊し賛成派はおしなべて実際に住まわれている方々で、反対派は決まって私のようなセンチメンタルな建築好きで。でも結局はどの同潤会の立替問題も、まず優先すべきは長くそこに住まわれてきた方々のこれからの暮らしであって、その切実な生活の前では感傷的な感情なんてどうでもいいのかもしれません。最近やっとそう思えるようになってきました。表参道は安藤忠雄さんが後を引き継ぐと聞いて、このお方ならなんてとても期待しています。私が実際に目にするまで私自身の判断は差し控えたいと思います(同じ同潤会の江戸川橋アパートの立替は稀に成功した例ではないでしょうか)。悪い評判しか耳に入ってこない同潤館についても、Yanagimoto様のおっしゃる視点から見れば悪い先入観なく見ることが出来そうです。ちなみに同潤館脇の小道と公衆トイレには関心しました。
Commented by cabanon at 2006-02-10 13:09
Yanagimotoさんの書かれた「同潤館は当時表参道に建った時はこんな真新しかったんだろうなあ」というのに、ふむふむ、そうか、と妙に納得してしまいました。確かに同潤館には、戦前の建築雑誌のモノクロ写真で見るモダン建築の清潔感みたいなものがありますね。

FORMさんと同じく小径と公衆トイレは印象に残りました。ガラスの噴水、そこから流れる小さな水路が多分夏だともっと清涼感を演出しそうですね。同潤館には大谷石のブロックもこっそり残っているし。あのあたりは小技がきいてます。あの公衆トイレ、さすが有名建築家が建てた公衆トイレだけあって、撮影しようとカメラを向けていたら、ひっきりなしに人が出入りしてました。

建て替えの問題は難しいですよね。ただ名建築を壊すときは、それなりの礼を尽くして、壊してもらいたい。安藤さんが知恵を絞って後を引き継いだ同潤会アパートは幸せだと思います。

Rinさん。表参道ヒルズの記事、ぜひ書いて下さい。
Commented by romi at 2006-05-04 19:28 x
初めまして、romiと申します。
私もおととい表参道ヒルズに行きましたが、藤崎さんと全く同じ感想を持ちました。このHPは偶然にも拝見されていただいたのですが、同じ考えの方がいることに非常にびっくりし、おもわずコメントを書かせていただきました。
率直に言うと、安藤忠雄の建築らしくありません。更に付け加えるのなら、ここまで人が入ると想定して設計したのかが疑問です。人があってこその建築ですね。
とはいえ、建築美術的な観点から言えば、シックなモダン調のインテリアが好きです。

これから表参道ヒルズが社会的にどう作用していくかが気になりますね。
Commented by cabanon at 2006-05-08 03:11
>romiさん
コメントありがとうございます。10年後20年後の表参道ヒルズがどうなっているか、が楽しみです。代官山のヒルサイドテラスみたいにどんどん拡張していって、周囲に安藤建築が増えていくのとかだと面白い。10年20年経ったときにきっと、本当にあの建築があれで良かったかが分かるのだと思います。
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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