藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
マイ・アーキテクト
「マイ・アーキテクト ルイス・カーンを探して」を観に行きました。いい映画です。渋谷の円山町ラブホ街に新しくできたQ-AXシネマという映画館へ。金曜の晩は満員でした。10分前に映画館に着いたのですが、最前列と隅の席しか残っていませんでした。

『Casa BRUTUS』のルイス・カーン特集の時に字幕なしのものを観ていましたが、ようやく字幕版でディテールまで理解できてモヤモヤが晴れました。

ルイス・カーンは20世紀アメリカを代表する建築家です。20世紀、フランク・ロイド・ライト以降のアメリカ人建築家といえばカーン。バルト3国のひとつエストニアから移民で、フィラデルフィアを拠点に活動しました。キンベル美術館やソーク生物学研究所、バングラデシュ国会議事堂などの代表作があります。

監督のナサニエル・カーンは、ルイス・カーンの息子です。彼は“3番目の家族”に生まれたため、週に一度しか父に会うことができませんでした。カーンには本妻がいて娘がいました。愛人がいてそこにも娘がいました。で、もう一人の愛人がナサニエルの母だったのです。

カーンはナサニエルが11歳の時、1974年ニューヨークのペンシルヴァニア駅のトイレで心臓発作で急逝します。建築プロジェクトを手がけていたインド、バングラデシュから帰りでした。父は何者だったのか? 何をなさんとしていたのか? 11歳の少年はまだ理解していませんでした。ただ認知されない家族の複雑な思いだけを残して逝ってしまう。

だから、父探しの旅に出るのです。

フィリップ・ジョンソンやフランク O. ゲーリー、I.M.ペイなど著名な建築家がインタビューに答えてます。フィリップ・ジョンソンが「コルビュジエは陰険じゃよ」と答えると、観客が笑います。お客の建築家率はかなり高いです。

モントリオールのアビタ67を設計したモシェ・サフディや、情報建築家として名高いリチャード・ソール・ワーマン(字幕ではウルマンになってましたが)など渋い面々も登場します。二人ともカーンの弟子です。俳優ケビン・ベーコンの父、元フィラデルフィア都市開発委員長エドマンド・ベーコンの熱弁は、息子の演技をはるかに超えた迫力です。

だけど見せ場は有名建築家ではありません。“2番目のパートナー”のアン・ティン、そして“3番目のパートナー”のハリエットへのインタビューは圧巻です。気丈なアン・ティン、信じるハリエット。不倫の後ろめたさなどなく、むしろ誇りさえ感じられます。
カーンの住宅の傑作フィッシャー邸では、ナサニエルとそれぞれ母の違う2人の姉が出会います。3人の心の重なりとすれ違いに、フィッシャー邸が震えます。そしてインド、バングラデシュへ……。

特に建築関係の方々は今、観たほうがいい映画です。姉歯とかで笑えない建築家事情ばかりが世の中を覆い尽くしている現在、ああ、やっぱり建築をやってきて良かったな、と再認識できるでしょう。きっと建築家としての使命感に火がつくはずです。
もちろん建築家以外の人たちも心動かされるでしょう。ナサニエルの視線は、建築家のそれじゃないですから。

カーンはユダヤ人です。その話がこの映画のサブテーマになっています。
カーン没後に完成したバングラデシュの国会議事堂。つまり、ユダヤ人が設計したイスラム国家の議事堂です。モスクも併設されています。現代の抱える大きな問題の答えがあるように思います。建築が世界に道を指し示しています。今、私たちが絶対残さなければならない20世紀建築をひとつ挙げろと言われたら、僕は迷わずこの建築を選びます。

そう僕はあの奇跡の建築に行ったんです。2年前に。幸せもんだな。
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*Link / 映画「My Architect」の公式HP
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-02-11 12:52
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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