藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
騎馬像と黒電話
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上の2つは、作者が同じです。

JR分倍河原駅前にある新田義貞像と、4号自動式卓上電話機──。
この4月11日、92歳で亡くなった彫刻家、富永直樹氏が手がけたものです。先日取材で元某社デザイン部長のN氏にお話をうかがっていたら、富永氏の話になりました。

N氏は60年代三洋電機にデザイナーとして入社し、その後会社を移るのですが、N氏の短い三洋電機在職中、当時、工業意匠部長だった富永氏にお世話になったといいます。富永氏は三洋電機のデザイン部門を統括し、常務取締役まで務めました。

しかし本業は彫刻家でした。写実的な男性像を得意とし、日展理事長を務め、日本芸術院会員となり、89年には文化勲章を受けています。N氏は一度アトリエにうかがったことがあるそうです。その時は富永氏の彫刻家としての仕事をあまり知らなかったので、制作中の楠木正成の大きな彫刻を見て驚いたとか。

富永氏のデザイナーとしての代表的な仕事がこの4号自動式卓上電話機です。1950年に世に出たもの。富永氏が沖電気の工業意匠の顧問だった頃に手がけた仕事です。日本電気、沖電気、富士通、日立の共同開発で、各社が提案したデザインから富永案が採用されました。

そんな話をN氏から聞いて、4号電話機が見たくなって、古道具屋を探しました。いろいろ歩いて近所の店で発見。値札は8000円。店主が「4000円にしとくよ」と言うので欲しくなる。「3000円にならないですか?」と訊くと、店主はムッとした表情になり、で、4000円で買いました。

まだ使えるみたいです。しかし変換コネクターがないので、いまは玄関の飾りです。曲面が見飽きません。ダルマという愛称があったそうです。丸っこいけど締まりがある。受話器が本体より明らかに大きく見えるけど、かえって安定感がある。ギリギリのバランスです。本体のマッシブなフォルムも絶妙。

さすが彫刻家の仕事!と言いたいところですが、富永氏にとってこれはあくまで工業製品のデザイン。『ニッポン・プロダクト—デザイナーの証言、50年! 』(美術出版社)によると、1回で型抜きできることや、ダイヤルしやすいように前面の傾斜角度を考えて、この形が生まれたとのこと。

一般に黒電話と言えば、600型電話機(1962年)です。4号電話機のひとつ後の世代前のもの。サザエさんちも600型です。4号電話機に比べると、600型のデザインは、よく言えばスマート、悪く言えば平べったくて淡泊。僕は愛嬌のある4号電話機が好きです。

ネットで調べたら、富永直樹作の楠木正成像は見つかりませんでした。しかし、新田義貞像はヒットしました。で、分倍河原まで行ってきました。1986年の作品。晩年の作品なので、たぶんN氏がアトリエで見たものとは違うと思います。

この新田義貞像の勇ましさと、4号電話のモダンさは一見、全く結びつきません。しかしじっくり眺めると、ともに中身に力が充満して外へ膨らんで形が生まれているように見える。周囲の情景を巻き込む力も共通しています。騎馬像は天と大地を意識させます。電話機のぽってり型の下半身は、机や台の水平面に吸い付くようです。

抽象とか写実とか、アートとかデザインとか、そうした境界線上を軽やかに行き来できる「かたちの達人」っているんですね。そう考えると、今ってデザインという職能が専門化しすぎて、画家や彫刻家や建築家やエンジニアを兼ねるマルチな才能が減っているような気がするのだけれど、どうなんでしょ?
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-05-09 19:24 | Comments(3)
Commented at 2006-05-10 23:45
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by スーパーカブ774 at 2010-12-04 22:43 x
私も600形より4号が好きです。
4号を入手して、4号の為にダイヤルパルス回線を引きました。
ちなみに当方は17歳です(笑)
Commented by cabanon at 2010-12-05 18:18
>スーパーカブ774
若さとか関係ないよ。
4号を愛するというのは。形の美を読みとる感性があるわけで。
しかも「実際に使えるようにする」というのは、
形の美を愛する情熱がある。感服。
僕も研究室で、いろいろ工夫して使ってみようと、思いました。
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藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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