藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
メモしやすい話
d0039955_0334859.jpgAXISギャラリーで行われた佐藤可士和さんのトークを聴きに行きました。佐藤さんは一度も取材したことがありません。面識もありません。ここ数年間、広告やグラフィック関連の取材から離れていたせいもありますが、佐藤さんの活躍は雑誌やテレビを通して知るだけでした。

大学や専門学校でデザイン概論とかデザイン文化論という講義を受けもっているのですが、成績評価のためのレポートのテーマはこのところずっと「今あなたが最も注目するデザイナー・建築家」というものです。

これは僕にとってのマーケティング調査です。今学生に誰が一番人気があるのか? 注目のデザイナーは? そういったことを知るために利用させてもらっています。ファッションとか僕の弱いジャンルの知識を補うのにとても役に立っています。

最も学生(1年生)に人気のデザイナーは、深澤直人さん、佐藤可士和さんです。次に続くのが野田凪さん。建築家なら安藤忠雄さん。意外に海外のデザイナーが少なく、シャネルやコルビュジエなどの歴史的な巨匠は毎回多くもなく少なくもなくという感じ。昨年はCasaで丹下健三特集があったから丹下さんのレポートが増えたりと、展覧会や雑誌の特集などで順位は変動します。

概してメディアへの露出度に比例する結果になります。しかし、それにしても、深澤直人さんと佐藤可士和さんの人気度は目を見張るものがあります。

昨年は、深澤さんと佐藤可士和さんは取り上げる人が多すぎて読み飽きるから中途半端な気持ちなら書くなよ、学生に伝えたくらいです。でも、ここ数年で、唯一の100点レポートは、昨年(というか今年1月提出)の深澤さんとオリエンタルラジオの相似関係を取り上げたH大の学生のものでした。この二人に対しては学生の思いも篤いのです。

で、やっぱり、佐藤可士和さんについて、僕自身ちゃんと語れないといけないと思い、今回のトークに参加申し込みしたわけです。

17頁もメモしました。デザイナーが自分の仕事をスライドやPowerPointで語るのって、通常話があっちこっちに飛び、散漫で、僕は好きじゃないんです。メモをしていても面倒くさくなる。しかし佐藤可士和さんの話は最後までメモをとりました。
話は理路整然──。すべてのデザインに言葉で語れる理由があります。

佐藤さんはよく自分の仕事を医者にたとえると言っていましたが、クライアントの話をじっくり聞いて、問診して、病名を探り当て、解決すべき課題を設定するという制作姿勢を貫いているから、デザインの話がいつの間にかクライアントのユニークなキャラの話になっていき聴衆を惹きつけていきます。「作品」を語るというよりは「臨床例」を語るといった感じなのです。モノで語るのでなく人で語るってわけです。

どの臨床例の話も基本は、何が課題で、それに対してどういうコンセプトを立てて、どんなシンボルマークを作って、どう展開したか、といった内容です。マーケティング用語を多用して簡単な話を難しそうに語ることは決してありません。

ロゴの微妙なバランスが生むカッコよさとか、線や色でどうカワイらしさを演出したか、といった、最も言語化しにくい感性や情動の話もほとんどありません。この部分を語り出してしまうとディテールだけの退屈な話になってしまう。そこはビジュアルに語らせればいいわけです。

ということで、何が話のポイントかが明確だから、メモしやすい。余談や注釈の多い話では、こうはいきません。

プレゼンの時に、聞く相手がメモしやすい話をするって、きっともの凄く大切なことです。メモをとりながら、相手はウンウンと理解してくれるのですから。

伝わるのです。思いが受け手に──。

「僕はコミュニケーションをデザインしているんです」と語っていましたが、その言葉をちゃんとこのトークの場で証明しているのはさすがです。

今回のトークのテーマは「教育とアートディレクション」。明治学院大学のブランディングやふじようちえんの話などです。

「明学のシズルをつかむデザイン──シズルをつかむとは、明学らしさをつかむことですね」って語っていたのが印象的でした。シズル感って、もはや「らしさ」であり「本質」なんだと。

最後は「教育」から離れ、最近の仕事ということで、NYのソーホーに1000坪のショップをこの秋開店するユニクロの仕事の話になりました。グローバル展開するブランディングを手がけているそうです。Webデザインは中村勇吾さん。いろいろ凄そう。ユニクロ、変わりそうですね。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-05-30 00:35 | Comments(8)
Commented by toshi at 2006-05-31 00:46 x
懐かしいです、僕はロン・アラッドをレポートしました。
もう二年前になりますが、友人は可士和さんをやっていました。

書きやすいかそうでないかに左右され、
いかにwebや雑誌で情報を集められるか、
そこを焦点に人物を決めている人が多かったです。

後は〝憧れ〟ですね。
将来の自分を重ねる、だから日本人が多いのかもしれません。
Commented by cabanon at 2006-05-31 09:52
>toshiさん

憧れ、か──そういえば久しく誰かに憧れるということがない。
年をくっても、憧れを抱くことを忘れちゃいけないかもしれませんね。
Commented by Takahashi at 2006-05-31 13:30 x
AXIS、行ってきました。良かったですね。
印象的だったのが、プレゼンの際のスライドのシンプルさ。
可士和さんのプレゼンだから、どんなものが飛び出すんだろうと思ってましたが、書体、色使いなどホントにシンプル。
今回だけなのか、いつもと変わらないのか、行き着く所はシンプルなのか、どうなんでしょうか?

話はズレますが、講演会では最後の方に質疑応答の時間がだいたい用意されています。
私は質疑応答の時間というのは、色んな意味でチャンスの場だと思っています。ですが、いつも話の最後の方になってくると、どんな質問をしようかと、興奮と緊張でそわそわしてきて話もおろそかに。なんだか気持ち悪くなってしまいます。
今回は懇親会が予定されていたので、質疑応答は多分ないかな?と思ったら案の定ありませんでした・・・気持ち悪くなって損しました・・・

その懇親会では可士和さんと名刺交換するための長い列が。
列に加わり、お知り合いになりたいのは勿論なのですが、あのような場で顔を覚えてもらうのはまず無理だし、結局はミーハーな感じで終わってしまうんだろうと、列に加わるのはやめました。
(置いてあった極生はちゃっかり頂きましたが・・・)。

Commented by cabanon at 2006-05-31 23:16
>Takahashiさま
プレゼンのPowerPointのデザインはシンプルが一番だと思います。
かつて見た深澤さんの講演のパワポも
黒バック文字白抜き、文章少なめ、と、とてもシンプルだったし。

ブルーバックでグラデーションを付けて、書体も色を使いすぎて、高校生が物理とか生物の教科書を蛍光マーカーでカラフルにするみたいな、プレゼンは見ててしんどいです。

2,3質疑応答があればよかったのに、とは思いました。たまに、とてもいい質問する人がいて、答えてて発見があるんですよね。そういう意味では、あのトークはきわめてプレゼン的。最初から最後まで予定通りという感じでした。後に懇親会が控えていたし、時間が押していたというのが、質疑応答がなかった原因なのでしょうが。
Commented by designer_in_usa at 2006-06-01 05:59 x
ということは、ユニクロのアメリカでのビジネスうまくいってるということですね。NJの店、いつもガラガラで心配してました。
Commented by cabanon at 2006-06-01 14:13
>designer_in_usaさん
日本では下げ止まりの状況、海外展開も、うまくいっているとは言い難い状況なので、新たにグローバル戦略を打ち出して、世界に打って出る、というニュアンスでした。ここで大勝負に出ないとこの先は、、、いう危機感からの、佐藤さんや中村さん、片山正通さん(NY店インテリア)の起用だと思います。
Commented by onishi at 2006-06-07 01:19 x
うーん・・です。
「教育とアートディレクション」、とっても聞きたかった。いや、聞くべきでした、本当に。教育についてどのように、どこまで考えているのか聞いてみたかったです。また、明学をどのように解釈しておられるのか卒業した今でも気になっています。
ブランディングの学生スタッフ(佐藤可士和さんと一緒になにかできる!?)の応募が学内であったようなのですが、相当な人気だったそうです。学級崩壊みたいな講義があるなかでブランディングに興味を持つ人が多いというのはどういうことなのだろう?デザインの知識・技術がなくても自分のキャンパスを想う気持ちは学生の方が強く持っていて欲しいです。いくら相手が有名であっても、です。
Commented by cabanon at 2006-06-09 10:29
>onishiさん
佐藤さんはアメフト部やチアリーディング部とか野球部のユニホームまでデザインしているそうです。各クラブは学生主体の組織のため、大学側がユニホームを変えるのを強制できないので、募集を募ったとのこと。

応募してきたクラブは、佐藤さんと直接やりとりしてデザインを決めていったそうです。チアリーディング部の女性たちは「痩せて見えるようにしてほしい」とか無理難題があったと会場の笑いを誘っていましたが、こういう体験が、学生にはものすごく将来の糧になるのだと思います。

教育をアートディレクションするだけでなく、アートディレクションをしながら教育をする、そんな視点のある仕事だから、面白いのだと思います。
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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