藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
阿佐ヶ谷住宅のセミナー
d0039955_1454753.jpg6月3日、第1回成田地域まちづくりセミナー「建築家・前川國男と阿佐ヶ谷住宅」に参加しました。講師は松隈洋さん。京都工芸繊維大学助教授で、元・前川國男建築設計事務所の所員。前川國男研究の第一人者です。

当初予定されていた集会所が急遽使えなくなり、主催者の住まいが会場になりました。阿佐ヶ谷住宅テラスハウスの一室です。40名近く集まりずいぶん窮屈でしたが、前川國男設計の住宅の中で、その歴史を第一人者から聴くことができるという素晴らしい機会になりました。
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前川國男がル・コルビュジエのもとで「最小限住宅案」を担当し、1929年CIAM(国際近代建築家会議)でコルビュジエの代わりに発表したという話に始まり、第二次大戦中上海で手がけた集合住宅、戦後のプレファブ工業化住宅「プレモス」や晴海高層アパートの話となり、前川が標準設計を手がけた阿佐ヶ谷住宅テラスハウス(1958年竣工)に至ります。この設計が生まれるまでの経緯と背景がきちんと整理され、建築関係以外の聴き手にもこの住宅の歴史的な重要さが伝わる内容だったと思います。
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最後に前川の功績だけでなく、当時、日本住宅公団に勤め、阿佐ヶ谷住宅の全体計画を手がけられた津端修一さんの話になりました。「前川の標準設計も大きな要因ですが、その住戸がどう配置されたかという計画がこの阿佐ヶ谷住宅の素晴らしい点です」

津端さんは「コモン」という概念を阿佐ヶ谷住宅で試みたというのです。コモンとは共有スペースです。が、国や自治体が管理する道路や公園とは違います。「個人のものでもない、かといってパブリックな場所でもない、得体の知れない緑地のようなものを、市民たちがどのようなかたちで団地の中で共有することになるのか、それがテーマだったのです」。松隈さんは、『住宅建築』1996年4月号にある津端さんの言葉を引用されました。

当時、公団の住宅には一戸あたり13坪という上限があったそうです。しかし阿佐ヶ谷住宅では庭を含めて20坪。しかもコモンの緑地がゆったり配置されている。役所のさまざまなしがらみやノルマをかいくぐり、津端さんはこの理想にこだわり、実現に漕ぎつけたといいます。松隈さんは最後にこう締めくくりました。「こうした先達たちが作り上げたかけがいのないものを、私たちはつまらないことで失おうとしている。このことに気づけるかどうか、今問われているのだと思います」
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コモンって個と公の間の波打ち際なのかもしれないと僕は思いました。干潟ような波打ち際は、海でもなく陸でもなく、光と大気と水と大地が混じり、微生物から鳥や魚などさまざまな命が育まれる豊穣な空間です。個と公の境目にコモンという「緑の波打ち際」を作ったのが阿佐ヶ谷住宅です。そこで子どもたちが遊び、大人たちが声を掛け合う。

現在の敷地いっぱいまで建てられた住宅や要塞のようなマンションって、護岸工事して砂浜を失ってしまった海岸のようです。干潟を守る必要があるように、再開発計画の持ち上がっているこの住宅地を守る必要がある。

経済性の論理だけでは「コモン」という発想は生まれません。日本は自由主義経済の国家ですが、それ以上に民主主義の国家です。が、最近はそれが逆転している。阿佐ヶ谷住宅は戦後、先達が民主主義社会の新しい個と公の関係を実験的に空間へ置き換えたものです。「資本主義のかたち」ばかりになりつつある日本で、すっかり忘れかけている「民主主義のかたち」を私たちは次の世代へ語り継ぐ責務があるように思います。
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昨年6/14当ブログに書いた阿佐ヶ谷住宅の記事

【関連リンク】
成田地域まちづくり協議会。阿佐ヶ谷住宅の再開発を考える杉並区民による協議会。

講談社BOX『舞台は阿佐ヶ谷住宅』近藤光(リンク追加:09年10/13)
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-06-04 15:05 | コモン | Comments(2)
Commented by hana-abe at 2008-08-04 02:46
2005年6月14日の記事、勝手ながら、私のブログにて、リンクさせていただきました。とても興味深い記事で、私のおぼろげな記憶が、はっきりとしてきました。ありがとうございます。
Commented by cabanon at 2008-08-09 19:01
>hana-abeさん
リンク、有り難うございます!
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藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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