藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
昭和のくらし博物館へ
d0039955_3531985.jpg図書館でこの本を見つけて「この博物館、ウチの近くだわ」と思い、先週水曜日に訪ねてみました。大田区南久が原にある「昭和のくらし博物館」。最寄り駅は東急池上線・久が原駅か東急多摩川線・下丸子駅。僕は下丸子駅から歩きました。環八を渡り、多摩川の河岸段丘の坂を登ります。住宅街の中に緑が残り、都心より少しばかりゆったりした時間が流れています。

木造二階建ての住宅が「昭和のくらし博物館」です。館長は小泉和子さん。日本の家具、日用品研究の第一人者です。著書も多く、僕も何冊か持っています。あの小泉さんの博物館だというので、ぜひ行ってみたかったのです。

博物館は小泉さんが生まれ育った家です。1951年(昭和26年)に建てられたもので、設計は建築技師だった小泉さんの父によるものです。敷地が55坪、1階と2階を合わせた建坪面積は18坪。戦後復興期の庶民の生活を伝える私設ミュージアムとして1999年にオープンしました。

d0039955_3543963.jpg門をくぐると、左手に受付があります。誰もいないのでベルを鳴らして学芸員の方を呼び出す。そこで入場料500円を払い、まずは2階からご覧下さいなどと簡単な説明を受けて、家の中へ入ります。ガラガラって開ける玄関の曇りガラスの木枠の引き戸も絶滅危機種のひとつです。

二階の子ども部屋は文机やタンスの引き出しの中にまで展示品がいっぱい詰まっていて、全部見終わる頃には四帖半の部屋のスケール感に身体が馴染んできます。隣の部屋には衣服の展示がありました。こちらも資料がみっちりです。

下へ降りて、玄関から入ってすぐの書斎兼応接間へ。窓に向かって小泉さんの父が仕事をされていた机が置かれています。窓越しに人の出入りも知ることができたはずです。背中越しには、奥の茶の間にいる家人の様子も感じ取ることができたでしょう。

4帖半の洋間ですが、奥の茶の間への通路でもあるので、書斎部分はもっと狭く感じます。狭くても心地よいのは光と風通しのせいでしょう。しばし椅子に座ると時が経つのを忘れます。僕はどんな生活資料より、この部屋の風通しに惹かれました。往時は風だけでなく気配も流れていたでしょう。奥からNHKのAMラジオのニュースが流れていました。光と風と音と気配がこの家を巡るリズムに身を任せれば、きっと仕事にも集中できたでしょう。

奥へ入ると、卓袱台の置かれた茶の間。その脇の1帖半ばかりの台所には、氷冷蔵庫、釜など、さまざまな調理用具が置かれています。

道具は、実際そこで使われていた空間の中にあることによって、スケール感や存在感、使う人との関係性、そしてどんな使われ方をしていたかを、見る人に伝えてくれます。ガラスケースの中の展示ではそれを伝えるのは難しいし、鉄筋コンクリートの博物館内に再現された仮設のジオラマでも、光や風や音や気配といった身体全体で感じる重要な部分が欠落します。道具の記憶は空間の記憶とともにある。

懐かしさだけじゃない何かがある博物館です。人と道具と空間の関係に思いを馳せるのには絶好の場所だと思います。

【関連リンク】
昭和のくらし博物館のHP

博物館へ行く前に、下丸子駅の龍華という店でメンチカツ定食を食しました。どうです! 食品サンプルのような美しさ。ハレーション気味になってますが、レタスの下にキャベツが、その奥にパイナップルです。彩りが見事。で、美味かった。昭和っぽさ全開です。
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text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-06-05 04:03
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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