藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
スーパーノーマル展
1950〜80年代前半に活躍したイラストレーター、挿絵画家のプロフィールを書くというえらく面倒な仕事を引き受けて、資料探しに奔走しています。都立中央図書館で、南伸坊さんのことを調べていて、著書の『モンガイカンの美術館』(1983年 情報センター出版局)を読みました。

その本に収録されている「芸術はキチガイである」という、シュルレアリスムについて書いたエッセイを読んで、7月2日までAXISギャラリーで行われている「スーパーノーマル展」のことを考えました。エッセイの締めくくりの部分を引用します。(差別用語を含みますが、当時の思考をそのまま伝えたいので原文のまま書きます)

ところで「キチガイ」の人が何故モテルのかというのも、研究の結果、私はわかってしまった。そのワケは、「キチガイ」の人はフツーが身について、自分の奥底を忘れてしまった人より、正直に奥底が表に出ているので、「なつかしい」ような「永遠的」なような魅力を感じさせるからなのだ。(中略)シュルレアリスムの対象のアンドレ・ブルトンは精神病のお医者の卵だったので、こういう魅力に早めに気がついていたのではないだろうか。


時代が変わったようです。スーパーノーマル展、つまり超フツー展に出品されている展示物は、どれも「正直」なデザインです。深澤直人、ジャスパー・モリソン両氏がセレクトした200以上のプロダクトはいずれも、消費者やクライアントに媚びたり、奇をてらったり、インパクトだけで勝負したプロダクトではありません。

しかし南伸坊さんがこのエッセイを書いた70年代末では、「フツー」が身に付いた人は、自分の奥底が「正直に」出せない人たちなのです。むしろ「キ×ガイ」つまり「アブノーマル」こそ「正直」というわけです。

「なつかしい」ような「永遠的」なような魅力を持つものが、アブノーマルからスーパーノーマルへ変わってしまったのでしょうか。かつてダリのグニャリと曲がった時計に「永遠」を感じていた感性が、マックス・ビルがデザインした真円の時計に「永遠」を感じる感性に、いつの間にか入れ替わってしまったのでしょうか。

スーパーノーマル展は、「フツー」に徹することによって、現代の「フツー」の人たちが忘れている生活文化の奥底にある正直なモノのあり方を提示したものです。アブノーマルにならなくても、フツーであることを徹底的に実践すれば、フツーを越えられる。それがスーパーノーマルの境地だってわけでしょう。

ダリにもブルトンにも、ヘンリー・ダガーにもマルキ・ド・サドにもなるわけにはいかない人たちにとっては魅力的な方法論です。

「平常心是道」。これは南泉という中国・唐代の有名な禅僧が、仏心は平常心にある、と説いた言葉です。追い求めても悟りの道は開けない。ただただ平常心をもって日々の務めをこなすこと。スーパーノーマルという発想は「平常心是道」に通じます。

しかし、スーパーノーマル展は、フツーの極意に達せんがため、「フツー」を意識的に追い求め過ぎです。南泉の境地からむしろ遠ざかっている。一堂に会した204点の展示品すべてが「ノーマル、ノーマル」「平常心、平常心」と念仏を唱えているため、かえって平常心を忘れている。フツーに徹してフツーを越えるのは本当に難しい。その禅の公案のような逆説性まできちんと表現できないで、「ノーマル」に「スーパー」を冠するのはふさわしくない。僕はそう思います。

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あっ、でも、面白い展覧会でした、とフォローしておきます。「今」を知り、「デザイン」を語り合うために、見ておかないといけない展覧会です、ハイ。

それと余談をひとつ。この話を書こうと思って、昨日、南泉のことを調べたんです。するとその夜恵比寿の焼鳥屋で「南泉」という種子島の芋焼酎に遭遇。えらく美味かったです。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-06-21 17:51
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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