藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
種を蒔く人
13年前はインターネットの時代でなく、マルチメディアの時代でした。
1993年ピーター・ガブリエルが《Xplora1》(エクスプラーロ1)というCD-ROMを発売しました。音楽と映像をインタラクティブに楽しめるマルチメディアタイトルの傑作として当時大いに話題になりました。
翌94年2月、『BRUTUS』の編集者からプロモーションのために来日するピーター・ガブリエルを明日(!)取材しないかと電話がかかってきて、30分弱だったかインタビューをすることができました。学生時代からずっとファンだったんです。なんたる幸運。そして、大天使ガブリエルは僕にインスピレーションを授けてくださいます──。

「私の姉(妹)が科学の先生をやっていてね。科学の授業を楽しいものにするのは大変だという話を聞いていた。人が何か学ぼうとするときには、本来それを動機が必要なものだ。しかし学校では強制されること多い。自然な好奇心の種を蒔くこと。教育のプログラムの大半は、教師と生徒との関係に依存している。例えば、1対1で良い教師と5分間向かい合うことができれば、40人のクラスで1週間かかること以上のことを学べる。コンピュータテクノロジーに可能性があるとすれば、そういった良い教師の役割だと思う。適切な例は思い浮かばないけれども、ひとつ挙げるとすれば数学かな。一番苦手でね。とても良い教師がいたんだ。その先生は、私が十分に理解したことが証明できるようになるまで、次の課題に移ろうとしなかった。こういったプロセスにこそ、教師の本領が発揮される。コンピュータにはそれができると思う。1対1のパーソナル・コンタクトが可能になるからね」



マルチメディアへの熱に浮かされてた時代は過ぎました。コンピュータが、面と向かって良い教師と対話する体験の代わりになるとは決して思いません。しかし、うまく使えば、種を蒔く有効な補助道具にはなるでしょう。この時初めて「体験デザイン」(エクスペリアンス・デザイン)という考え方があることを彼の口から聞きました。

好奇心の種を蒔くために、デザインという知恵が何ができるか?  いや、いろいろできそうだ。もっとインタラクティブにならないと。もっとテクノロジーの最先端へ。体験へ。

あの時そんなことを考えたのが、僕の今の書き仕事の「原点」になっています。12年前、たった30分間、良い教師と1対1で向かい合った体験が、僕に道を示してくれたのです。

あまりに空疎な週末を送ったので、古いデータを読み返してちょっと原点回帰してみました。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-08-07 11:40 | Comments(2)
Commented by ぴこ at 2006-08-08 02:53 x
うわああ・・・・。
いいお話ですねえ。私もPGのファンです。

ほんの5分でも10分でも、出会いはかけがえのない宝物ですね。
私もそんな素晴らしい出会いをいくつか経験して、現在の自分が
あります。
Commented by cabanon at 2006-08-08 11:20
>ぴこ さん
いや〜、ホント、この取材がなければ、フリーライターなど長く続けず、どこかに就職してたと思います。まだ31歳だったし。
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藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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