藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
空間へ
東京国際家具見本市(IFFT/〜25日)を、ビッグサイトに見に行きました。
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nendoの展示が、素晴らしかったです。濃いめのグレイの床に、15種の新作デザインが置かれています。作品には強烈なスポットが当たり、長い影が……。いや、待てよ。ビッグサイトの天井はえらく高い。上から当てて、こんな長い影が出るだろうか。ふつう出ません。
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どこに照明があるのだろうと、天井を見上げる人がいました。照明会社の人も、「この照明、どうなってるの?」と聞いてきたそうです。
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実は、影が床に描かれているのです。

展示は、家具と雑貨の新ブランド「one percent products」の初お披露目でした。nendoが自らプロデュースとデザインを手がけているので、その製品も100点限定。買った人が全体の100分の1を所有することになるから、「one percent products」です。

100個限定だと、金型を作らなくても砂型で量産できるとか、製品としていろいろな試みができるとのこと。100個というスケールには、1点制作にも、大量生産にもできない、プロダクトデザインの大きな可能性をあるようです。ブランドのネーミングもお見事です。

今、プロダクトデザイナーには、空間デザインの才能が問われているように思います。金沢21世紀美術館の川崎和男展では、川崎さんの空間デザインの才覚に舌を巻きました。空間が、展示された150点に通底する、ある世界観を語っていました。(どんな世界観か?は次号のAXISに寄稿します)。

「プロダクトデザインは店で売ってるもんやろ。展覧会に行って何が面白いんや」
この夏、世界的建築家××さんが取材の帰りに同乗した車でそう語っていました。いっしょにいた編集者も大きく頷いていた。僕は反論したかったけれど、しませんでした。生産中止の滅多にお目にかかれないデザインに出会えるし、実現しなかったコンセプトモデルとかスケッチは展覧会でしか見られないから──、そんな反論はよく考えれば、かなりマニアックな視点です。同業者やマニア以外の人の心を動かす展示をするには、確かにレアだからといった理由以外の何かが必要です。

1人のデザイナーや、ブランドの世界観は、やはりその作品が集合して立ち上がる空間全体に表現されます。空間への意識のないプロダクトデザインのプレゼンテーションは、ショップの商品棚程度にしか見えないと言われても仕方ありません。先ほどの発言を「空間がデザインされていないプロダクトデザインの展覧会は何が面白いんや」と受け取れば、やはり頷かざるを得ません。

インハウスデザイナーの功罪はいろいろと語られていますが、罪の部分の最たるもののひとつが、プロダクトデザイナーが製品だけをデザインすればよくなったことだと思います。

本来、空間構成力は、プロダクトデザイナーの大切な素養です。ほら、イタリアでは多くの工業デザイナーが建築家だったり建築の勉強をしていた人だったりしますし。

nendoの佐藤オオキさんは早稲田の建築出身です。西堀晋さんは製品だけでなくe-fishという空間で世界観を表現していました。吉岡徳仁さんの世界もプロダクトと空間を切り離して語ることは出来ません。無印良品は、杉本貴志さんの青山店に始まる店舗デザインでブランドとして顔をはっきり持つようになりました。

ひとつの製品で世界観を見事に表現する人たちが、空間で世界観を表現できないはずがありません。nendoの展示と川崎さんの展覧会を見て、そんなこと思いました。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-11-25 21:22
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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