藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
ふじようちえんは、こどもリンゴット、あるいはプレイドーナッツ
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ふじようちえんに行ってきました。訪れたのは4月20日。いや〜よかったです。僕もここに通いたかった。
立川駅からタクシーで10分くらい。外から園児が屋上で走り回っているのが見えました。何はともあれ、まず屋上に上がりました。
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ウッドデッキの屋根は想像以上に広い。外周183mの楕円形。子どもにとってはリンゴットですね。リンゴットというのはトリノにある屋上にテストコースのあるフィアットの工場のことです。屋上で青空教室もやっているとのこと。屋上の方が子どもたちの集中力が高まるのだそうです。

約560人の園児がいるマンモス幼稚園ですが、ぜんぜん「マンモス感」がありません。たしかに幼稚園としては大きい。でも、空間に均質感がない。だからマンモス団地とかマンモス校といった高度経済成長期に使われた「マンモス」という言葉を冠するには雰囲気ではありません。なんか建物のあちこちに「ヒミツ」がいっぱい隠れてそうな空間なんです。といっても「秘密基地」って感じじゃない。外周部も内周部も全面ガラス戸で非常に開放的だからです。
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昨年AXISギャラリーで行なわれた講演で佐藤可士和氏は園舎のコンセプトを「巨大な遊具」と語っていました。実物を見ると「まさに」と大きく頷かされます。イサムノグチが追い求めたプレイマウンテンやプレイグラウンドのことを思い出しました。プレイドーナッツと勝手に名付けさせてください。
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園舎の老朽化と少子化社会での生き残り。建て替えを決意して佐藤氏に相談した園長先生は「いや〜、ここは木と土しかないんですよ」と言ったそうです。佐藤氏はその短所と思っていることを逆に長所と考えて、木と土と風を最大限に生かす幼稚園にすることを考えた──そう講演では語っていました。設計は「屋根の家」を見て佐藤氏が惚れ込んでいた手塚貴晴氏+手塚由比氏に依頼しました。手塚建築研究所側から40案くらいの建築案が示され、楕円形の建物案へまとまります。

構造設計は池田昌弘氏(クレジットでは共同設計者です)。壁のない内部空間を支えるのは丸い鉄柱です。柱は細く白く塗られているため、パッと見ほとんど目立ちません。建物を貫くケヤキが屋根を支えているような錯覚を受けてしまいます。
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みんなでいっしょに洗える手洗い場や、家具など、ひとつひとつ細部にわたって作り込まれています。大きな戸も子どもが指を挟まないように、戸と戸の間に大きなゴムが取り付けられています。
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トイレも開放的。学校のトイレって僕にとってトラウマなんです。小学校のとき用を足していると同級生がやってきて「学校でウンコしてる。や〜い、ウンコし〜」とののしられ、壁越しにバケツで水をぶっかけられた。暗くて陰気なトイレだったからいじめられたんだと思います。こうやってガラスでトイレを明るく開放的にすれば、トイレに行くことが普通なことで、抵抗感が減るような気がします。
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佐藤可士和氏デザインのTシャツがいいです。制服じゃないし、まだTシャツの季節でもなかったので全員着ているわけではないのですが、赤、白、ピンク、パープルとあって、園内が華やぎます。大人用もあって、僕もおみやげに買って帰ってきました。ロゴは色紙を切って作ったものだとか。佐藤氏の出世作HONDAステップワゴンの広告を彷彿とさせる、ワクワク感いっぱいの楽しいロゴです。
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玄関マットもカレンダーもオリジナル。箱物をつくっておしまい、という姿勢でなく、建築もグラフィックも細部にこだわり、デザインが学校と子どもたちとともに育っているという感じがする点に、非常に好感が持てました。
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いっしょに行ったのは、僕の幼稚園&小学校の同級生(現在ロンドン在住)でした。いっしょに行ったというよりは、イギリスの雑誌にこの建築を紹介するという建築ジャーナリストの彼女に付いていった、というのが正確なところです。僕と彼女の母校の小学校には円形校舎があります。円形校舎もドーナッツのように教室が並び、中心に広場があります。広場は有効に機能していました。他のクラスとつながる場で、箱形校舎にいるときよりも、学年どうしの交流が多かったように記憶しています。

だけど、円形校舎の広場は室内広場でしたから暗かった。でも、ふじようちえんの広場の天井は青空です。外国人教師がいて、子どもたちがなんかとってもフツウに語りかけていました。
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給食だ〜!
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英語を話す先生もいます。

境目のない空間に、どこまでも続く空。遊ぶ心が学びを育み、国境とか格差とか関係なく人と人をつなげて、どこまでも人の可能性を伸ばせていける社会──。そんな理想が「かたち」になっていました。優れたアートディレクターと建築家と園長先生との見事なコラボーレション。やっぱりこれが僕の今年のグッドデザイン大賞本命です。
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パイロンまでふじようちん色です
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帰りのタクシーの運転手さんが「孫がここに今年入園できてね」って自慢していました。電話で呼んで、来てもらってから5分くらい待たせてしまったのですが、運転手さんは「孫がいないか中を眺めていたから気にならなかったよ」って。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-05-05 20:32
<< 水辺の光景 夕張に魅せられました。 >>


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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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