藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
頑張れ! スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー
昨日(月)、映画「スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー」を観ました。ヤバいです。

興味深い内容でした。けど観客は12人。少なすぎて数えちゃいました。渋谷・Bunkamura ル・シネマの単館上映。公開3日目。夕方17時30分の回。非常にいい映画なのに、あり得ない。学生らしき若い人がいない。宣伝不足でしょう。僕は六本木に貼ってあったポスターを観て公開日を知ったのですが、でも、建築系メディアなどへのプロモーションが足りないのかもしれません。

観に行きましょう! じゃないとあっと言う間に公開終了になってしまいそう。昨年、同じ渋谷で公開されたルイス・カーンの映画「マイ・アーキテクト」は、たくさん人が入っていたのに……。

「スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー」は、息子が父探しをする「マイ・アーキテクト」のような濃い人間ドラマではありません。正統派のドキュメンタリー映画です。5年間ゲーリーを追いかけ、ゲーリー本人や友人、批評家、クライアントなどの証言で、ゲーリーという建築家の創造の秘密に迫ります。迫った人は「トッツィー」や「愛と哀しみの果て」などで知られるシドニー・ポラック。時にポラックがハンディカメラを持ってゲーリーに直接インタビューします。ゲーリーとポラックは以前から友人だったようで、相手がポラックだからリラックスしてしゃべっているという感じが画面から伝わってきます。同時に、なんかちょっと歪んでるゲーリーが巧みに映し出されていきます。

ゲーリーは35年間サイコセラピーに通っているようです。ポラックは、ゲーリーの精神の遍歴と、建築家としての経歴を重ね合わせます。ゲーリーは神戸やバルセロナに巨大なサカナのオブジェをつくったり、サンタモニカに巨大双眼鏡をつくったり、トンデモ作品もたくさんつくっています。ラディカルさが評価された建築家でしたが、作家として不安定でトンデモに振れてしまうこともかなりあったのです。1989年60歳の時の、ヴィトラ家具博物館が転機となりました。不定形で曲線を多用する今のゲーリー建築が生まれます。そして1997年68歳の時に大爆発。建築界のみならず広く世間を驚かせたグッゲンハイム美術館ビルバオが竣工(開館は98年)します。以降作品は過激な形態のものが多いですが、作家としては安定期に入ります。で、今年78歳。こう考えるとゲーリーはかなり晩成の建築家です。

ポラックはゲーリーの心の中の歪みが消えていくとともに、建築が創造的な歪みが生まれていることを、浮き彫りにします。そして、その時期に、たまたま急速に進歩したコンピュータテクノロジーが現れる。つまり、創造的な歪みを現実化する手段をゲーリーは手に入れるのです。自分のイメージを建築構造として実現するために、本人がコンピュータを勉強したわけではない。作家としての転機に、ピタッとはまるかのように、偶然コンピュータで設計する環境が登場するのです。

ゲーリーは幸運な建築家です。僕は生物の進化のプロセスを思い起こしました。突然変異が起こった個体が種として生き延びるには、外部環境が変異した種に適していないといけない。外部環境の準備が整っていないければ、どんなに革新的な変異も後に残らない。泥沼にチーターが生まれても意味がないわけです。

ゲーリーのグッゲンハイム美術館ビルバオは、ゲーリーの建築家としての内的変異と、コンピュータによる構造解析や模型を3次元データとしてスキャニングする技術の発展、チームワークで仕事をするスタイルの熟成、美術館の世界戦略の始まり、建築家のブランド化、といった外的要因が偶然重なり合って実現した。そこが面白いわけです。で、その幸運を、本人がやや戸惑いながら受け止めているところがある。そこをポラックのカメラがしっかりと捕らえています。ビルバオができたときにゲーリーはどう思ったか、とかとても興味深いコメントを発しています(ネタバレになるから書きません)。

他にも見所満載です。模型でどうやってイメージを膨らませているのかとか、時に若いスタッフにズケズケ物を言われるゲーリーの表情とか。証言者のラインナップいいです。生前のフィリップ・ジョンソン、批評家チャールズ・ジェンクス、ゲーリーに家を建ててもらったデニス・ホッパー、画家のジュリアン・シュナーベルは白いバスローブにブランデーグラスという、狙ったとしか思えない格好で出てきます。指揮者界の貴公子エサ=ペッカ・サロネン、それになぜかボブ・ゲルドフ。

観客は少なかったですが、僕も、前方の2、3人も思わず身を乗り出してゲーリーの言葉を聞いていました。おすすめの映画です。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-06-05 13:14 | Comments(15)
Commented by はしば at 2007-06-05 16:35 x
シドニー・ポラックがねえ。建築家の映画ねえ。

ぼくが映画館で初めて観たアメリカ映画って、
ポラックの「ザ・ヤクザ」だったもので、
個人的には思い出深い監督です。最近はゲーリーには
ほとんど興味がないんだけど。
「そろそろ四角いのつくらせろ」って言ってるという噂、
ホントなんでしょうか。
Commented by hasey at 2007-06-05 17:11 x
はじめましてで良かったでしょうか?
いつも楽しく拝見させてもらってます。またリンクフリーとなっておりましたので何度かブログで紹介させてもらいました。
札幌では「マイ・アーキテクト」も上映されてませんし、多分「スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー」も上映されることはないでしょうからDVDを購入するしか見るすべはありません。レンタルもされていないようです。何とかして見てみたいのですが・・・
Commented by cabanon at 2007-06-05 17:16
>はしばさん

四角いゲーリー、ですか。どうなんでしょうね。
真っ白な立方体で、
でも、中に入ると、そこはぐねぐねというのなら、ありかもしれませんね。
僕は、ゲーリーには最後まで今の路線で突っ走ってもらいたいです。
Commented by cabanon at 2007-06-05 17:21
>haseyさん

紹介、ありがとうございます。

この映画、札幌でも夏に公開予定のようですよ。
シアターキノというところで。
映画の公式サイトhttp://sketch.cinemacafe.net/
に連絡先がのっています。
Commented by hasey at 2007-06-05 17:45 x
ありがとうございます。頭からないものと決め付けておりました。
Commented by onlyonea at 2007-06-07 21:27
12人は少ないですね。ゲーリーは魚の動的形態を建築表現
で試みています。cabanonさんは神戸のフィッシュダンス
はご覧になりましたか?一時ピンク色に塗られてゲーリーが激怒
したそうです。監修が安藤さんだというのも面白いです。
Commented by さっちん at 2007-06-07 21:51 x
こんばんは!
私は、月曜日の次の会の19:30で観ました!
やはり、10人いませんでした。。。
人気ないのかなと思いました。
Commented by hana at 2007-06-07 23:56 x
初めてコメントさせて頂きます。
いつもこのブログを楽しみに拝見しております。
私は建築好きの神戸在住のICです。
「マイ・アーキテクト」は去年見て、好きな映画の一つになりました。
「スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー」もぜひ観に行きたいと思います。
ついでに、魚のオブジェも改めて見に行きます。
Commented by cabanon at 2007-06-08 00:31
>onlyoneaさん
フィッシュダンス見ました。
21世紀の日本語で言う「ビミョー」ってやつですね。
ピンクというと、明石の鯛ってことですかね。

>さっちんさん
すれ違っていたかもしれませんね。
人気がないというより、宣伝費のお金のかけ方を間違ったのでしょう。
いい映画ですから。
まだ建築関係の人たちに広く知られていないのだと思います。
これから口コミで動員が増えるといいのですが……。

>hanaさん
サカナのオブジェ、将来が心配です。
どうせなら神戸にもうひとつ本格的なゲーリー建築をつくるとか。
で、セットで生き残りをはかる。
それくらいしないと、いつ取り壊されてもおかしくないですよね、あれ。
Commented by bkb at 2007-06-27 00:02 x
先週見に行きましたが観客は5人でした・・・
いわゆるリバースエンジニアリング的手法、要はデジタイザによるモデルのスキャニングが建築にも用いられているのを知ってビックリしました。
しかもかなり以前からなんですね。
車のデザイン現場では昔から当たり前の手法だったんですが、一般プロダクトを飛び越えて建築で応用されているとは・・・
これを知っただけでも見る価値アリでした。

ボブ・ゲルドフは唐突でした。
Commented by cabanon at 2007-06-27 21:15
> bkb さん
形を先に作っておいて、3次元スキャナでデジタル化して、
そのデータが実現するように、コンピュータで荷重を解析して
構造をきめていく。
構造がここまで出来るから(ここまでしか出来ないから)、
無駄を削った意匠は必然的にこの形になる。それがエレガント。
という世界とはまさに逆ですよね。
だからリバースエンジニアリングっていうのでしょうか。
そのあたり知識がないもので。

5人ですか…。
ゲーリーって日本の建築家たちにはあまり人気がないようですね。
「今のゲーリーはちょっとね」って話をしていた人いましたし。
今のゲーリーの方法論を認めてしまうと、
20世紀の建築界が育んだ形と構造、形と環境の緊張関係が崩れて、
何でもありになってしまうからかな。

名声を獲得していて、しかも、時代を先取りする仕事をしていても、
立ち位置が微妙な人。
ブロードエイカーシティーとかユーソニア住宅を提案していた頃の
フランク・ロイド・ライトにも似ているような。
そこのところもアメリカを代表する建築家ってことなのでしょうか。


Commented by CZ812CE at 2007-07-03 10:52 x
はじめまして。
藤崎さんのブログに影響を受けて渋谷Bunkamura~森美術館コルビュジエ展とハシゴしてまいりました。
7/1映画の日で日曜日ということで、家族連れや映画のハシゴをする人などなどで客席はまさかの満席!
中には寝ている人もいましたが(たくさん^^;)最初から最後まで目の離せないとても興味深い作品でした。
職業柄、建築を平面的な図面や画面で見たり、判断したり、イメージしたりする機会の多い私としては
ゲーリー建築の持つ迫力というか「うねり」に圧倒されました。
倒れない構造物として成り立っているだけではなく、廻りの町並みやすぐ隣の建築とも仲良く手を取り
合っているかのように共存している様や、建築の可能性の奥深さを思うとちょっとした目眩を覚えました。
この映画、廻りにどんどん勧めようと思っています。
すてきな作品を紹介していただき感謝しています。
Commented by cabanon at 2007-07-03 21:52
> CZ812CE さん
満席! 極端から極端に走るのもゲーリーさんのキャラのせいでしょうか。
78歳でうねりまくるのですから、しかもハニカミながら。
そこに惹かれます。
建築家はロックミュージシャン以上にBorn to runですよね。
変な方向に走り出してしまう巨匠もいますけど。
ゲーリーには100歳超えるまで作家として頑張って欲しいです。
Commented by pandemic at 2007-07-10 21:22
ご無沙汰しております。

事務所をするッと抜け出し、昼飯代わりに観てきました。

フィッシュダンスはもちろんのこと、13年前にバーゼルのヴィトラで受けた衝撃は今でも忘れません。

(休刊日にも関わらず、敷地内の管理人を捜しまわって無理矢理開けてもらい、無料でひとり貸切状態でした。(苦笑))

もちろんザハの完成前のファイヤーステーションもガッチリみしてもらいました。


去年はミシシッピー川沿いのミネソタ大学構内の美術館を観てきました。

サッシは木製でヒューマンな納まりをしていて、ディテールにはゲーリーの人々への変わらぬ愛情みたいなものを感じます。

外観の派手さに捕われがちですが、実はやっぱりシャイなんですよね。ある意味造形も面の構成の仕方など僕は勝手にシャイだと思っています。

映画を観ていてつくづく思いました。

コルビュジェ同様、建築家 否 芸術家?

はい、もちろんコルビュジェ展も観てきました。

比べるモンじゃないですけど、僕個人的にはゲーリー映画の方が興味深かったです。

とにかく羨ましく悩ましいお方ですよね。
Commented by cabanon at 2007-07-11 00:11
> pandemic さん

>サッシは木製でヒューマンな納まりをしていて、
>ディテールにはゲーリーの人々への変わらぬ愛情みたいなものを感じます。

ヒューマンなおさまり。
ディテールをじっくり観察したくなりました。

僕は、LAの自宅は外から眺めただけで、
やっちゃったな、でも、まあ、こんなのもありかも、って
印象しか受けませんでしたが、
映画で内部の様子が映ってましたよね。
木製サッシで、快適そうだった。
そうしたところのディテールをよく見ると、
pandemicさんの言うように人間への愛情が見えるのかもしれませんね。

あっでも、フィッシュダンスの内部は「?」でしたけどね(笑)。
内部は関わってないのかも。




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藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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