藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
エイドリアン・フォーティー公開講義
昨日(6/15)東大へ『言葉と建築』『欲望のオブジェ』などの著書で知られるロンドン大学バートレット校教授エイドリアン・フォーティー氏の公開講義を聴きに行きました。講演のテーマはアーキテクチュラル・インパーフェクション(建築における不完全性)です。

フォーティー氏は、コンクリートは不完全なる素材と問題提起した上で、まず西洋における完全性・不完全性の系譜をサクッと説き明かします。自然と芸術を区別し、自然を不完全なものとし、そこに完全性をもたらすのが芸術としたアリストテレスから、人を圧倒する不完全性に崇高さを見出した偽ロンギヌスの『崇高論』へ、そしてゴシック建築のサベージネス(獰猛さ=行き当たりばったりが生んだ破調の美とでも言いましょうか)に美を見出したラスキンを語ります。

近代建築のコンクリートの不完全さの例として、二人の巨匠の例が挙がりました。ラ・トゥーレット修道院やユニテ・ダビタシオンに見られるコルビュジエのコンクリートの粗野さ。もうひとつはコンクリートの仕上げに非常にこだわったルイス・カーンのソーク研究所の壁面に現れるコンクリートのシミや小穴。フォーティー氏はそれを偶発的不完全性と語ります。

超訳的な解釈を交えて書きます。コルビュジエにしてもカーンにしてもその建築には建築全体をコントロールしようとする確固たる意思が存在します。しかしコンクリートはその素材の性格上、人の意思が届ききらない部分がある。名品にはそこに幸運の偶然(ハッピーアクシデント)が現れる。必然と偶然の接する境目に、コンクリートの本質を見るわけです。

さて、ここでという感じで、ビール缶の写真が出てきます。日用の工業製品は完全だというわけです。産業プロダクトはどれも機能的にも完全であることが求められる。もし新車を買って少しでも傷がついていたら、返品しますよね、と。大量生産の日用品との対比の中で、建築は工業的でありながら、完全に産業プロダクトになりきれず、むしろ工芸的な側面があることを、フォーティー氏は浮き彫りにしていきます。

さらに、不完全性に根ざした素材でありながらコンクリートを、現代の建築家がそれを完全な素材として扱おうとする努力する傾向を指摘し、その理由を分析していきます。そしてフランス人建築家ポール・ボッサールの仕事を例に、コンクリートの不完全性を利用するクリティカル(批評的な)使い方が産業社会への批評となることを語ります。

コンクリートをインパーフェクトマテリアル(不完全なる素材)というより、クリティカルマテリアルといったほうが、フォーティー氏の論点が分かりやすくなると思いました。完全性と不完全性を行き来できる素材であり、その自由さゆえ、そこに批評や時代精神が、時に意図的に、時に偶発的に現れる、というわけですから。

他にゴダールの映画を引用したり、ロン・アラッドのコンクリートステレオが出てきたり、フォーティー氏の話は知的な刺激に溢れるものでした。で、フォーティー氏の示す枠組みの中に、日本をどう位置づけていくか、考えながら聴いていて、僕はトヨタを思いました。

フォーティー氏は不完全性の一例として「楽焼」を挙げていました。言うまでもなく日本には、利休の茶道など不完全性に美を見出す伝統があります。しかし日本にはトヨタもある。機能の完全性を追求するインダストリーの究極の姿です。製品だけでなく製造工程まですべてのディテールがパーフェクト。日本って、もしかして完全性への意志においても不完全性への意志においても世界的に傑出した特異な国なのかもしれません。それはそれで西洋の系譜とは違った枠組みが描けそう。そんなこと講演の帰りに思いました。



* 公開講義で貴重な講演を聴く機会をつくっていただいた東京大学工学部建築学科の方々に感謝いたします。

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おまけ。東大工学部でテポドン発見。
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text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-06-16 11:26 | Comments(0)
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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