藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
地下通路のギャラリーはむずかしい
happi Tokyo Station展(6/17まで)を見に東京駅へ。丸ビルと新丸ビルの間に新しくできた「行幸地下通路」が会場です。参加デザイナーは五十嵐久枝さん、榎本文夫さん、小泉誠さん、寺田尚樹さん、南雲勝志さん、藤森泰司さん、村澤一晃さん、若杉浩一さん(内田洋行)の8名。仕掛人は内田洋行のデザインチーム。8名のデザイナーが4つのチームに分かれ、JR東日本、日立製作所、日本サムスン、内田洋行と4つの企業がコラボレーションし、4つのプロジェクトが発表しています。テーマは「結びのデザイン」です。
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どれも丹念なリサーチから始まっているので、提案に説得力があります。南雲勝志さんと藤森泰司さんとJR東日本研究開発センターフロンティアサービス研究所のプロジェクト「鉄結」は、千葉県にあるJR東日本久留里線の馬木田駅を題材に、これからの無人駅のあり方を提案するものでした。ベンチやユニット化された駅舎、そして運行情報や地域情報を流す「ITかかし」。いずれも絵空事でなく、現実性をもった、骨太の提案です。メンバーたちの本気度はこのプロジェクトのウェブサイトを開設していることからも伝わってきます。

五十嵐久枝さんと大治将典さんと内田洋行が提案する子どものための折りたたみできるマットやパーティションなどの家具もとても楽しく、もうすでに幼稚園にあってもおかしくないようなクオリティの高い提案です。

ただ、ITに絡めようとした地点で、現実味が薄くなる提案が多々見受けられました。日立ヒューマンインタクラションラボと榎本文夫さんと寺田尚樹さんの提案する4つのオフィステーブルは自然に人がITと接し、さらに人のぬくもりや自然の変化につながっていく、というものでした。MITメディアラボの石井裕さんが提唱する「タンジブルビット」の考え方を受け継いで、実際にオフィスで使われる製品としてその世界観を実現していこうとするものです。

しかし、いささかITを過信しているところがあります。手を置くと映像で波紋が出て、他の人と波紋が重なり合うから、ゆるいつながりの意識を高めるという口上には、「な、わけないじゃん」と誰かがちゃんとツッコミを入れるべきでしょう。「もしかして、つながれるかも。つながれば幸せ」というデザイナーの希望的観測だけで提案されたインターフェースが輝きを放っていた時代はもう過ぎています。逆に榎本文夫さんがギャラリートークで語っていたように「テーブルを題材に選んだ時点で、すでに結びのデザインというテーマは満たしている」という認識の上に立って、あえて木の模型でパーティションをつくって、“ゆるい拒絶” をデザインするほうが、よっぽど現代的なアプローチです。

デジカメで撮った大切な記憶を保存したSDカードをしまってネックレスにする木の箱をつくるという提案もありましたが、商品として考えると全く現実性の欠ける提案です。デザイナーの思いだけが先行してしまっている。大切なデータを入れたSDカードを木の箱に入れて引き出しの中にしまうということはあるかもしれませんが、木のペンダント型ボックスに入れて首からさげて持ち歩くというのは、現実にはありえません。木工所に行ってつくっていくプロセスの中にいろいろな発見があったからいいじゃないか、というのなら、作品を公に発表する必要もなく、実習型勉強会で終わらせればいい。

ITがあれば、情報や記憶が共有できて、みんなつながって、便利で安全で楽しい世の中になる、というオプティミスティックな世界観に距離を置いて、ITを使いこなす発想が今求められているような気がします。

……と辛口に書きましたが、ほとんどの作品が提案で終わらせるべきではないほど、よく練り込まれたクオリティが高いものです。見る価値はあります。
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が、会場がいただけません。結局「地下通路」です。誰に向けて作品を発表するべきかを計算して会場選びをするべきです。新丸ビルに来る客が流れてくるわけでもなく、内輪の人脈に対して勉強会の成果を発表するというイベントになっていました。

しっかりした成果をつくったのだから、ちゃんと世に知らしめるべきです。秋の東京デザイナーズウィークあたりで、海外のジャーナリストも迎えられるフォトジェニックな会場を借りて、もう一度発表し直したほうがいいじゃないでしょうか。じゃないと、もったいないです。


で、その後、銀座のgggで「廣村正彰 2D⇔3D」展へ。サイン計画などが中心。サイン計画の写真展示を見てると実物を見たくなりました。横須賀美術館に行こぅ!
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-06-16 23:05 | Comments(2)
Commented by 若杉浩一 at 2007-06-18 17:46 x
的確な評論ありがとうございます。これから普通になる技術をデザイナーと技術者、企業と、どう結びついて結果を出していくのか。結びつきの度合いが成果を決めていると思います。そう考えるとデザイナーである前に人が問われる。
今回の企画で僕自身も色々な事を学びました。一度是非僕らのオフィスに来ませんか? 色々な悪巧みをお見せできると思います。 ありがとうございました。
Commented by cabanon at 2007-06-18 22:33
>若杉さん
試みること。それが今デザインにとってとても大切なことだと思っています。
既成のデザインの枠組みから離れ、さまざまな職能の人と交わり、
何ができるかを問うこと。
happi展はそうしたデザインを外に投げかける「試み」を
きちんと成し遂げていたと思います。

前に本ブログで取り上げたチョコレート展もExit to Safety展も
そうした試みだったから言葉で応えたいと思ったんです。
「試み」ですから、「えっそれは?」というのもあります。
ですが、「試み」だから言葉を投げかけて、「次」へ期待したくなるのです。

最近いろいろ取材をしていると、デザイナーがふつうに
「今、デザインの意味が広がってきているじゃないですか」って語ります。
確かにデザインの意味や役割が変わり、
「デザインにできること」が広がってきています。

でも、将来どこへどう広がるかは、
まだ見えない部分がたくさんあるような気がします。
だから「試みて」欲しい。

悪巧み、楽しみです。
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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