藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
3Dプリンター
東京ビッグサイトへ産業用バーチャルリアリティ展(29日まで)を見に行きました。
d0039955_11503393.jpg
産総研の「フル体感型インターフェース」が面白かった。2年前に発表した手で握るサイズだった力覚提示装置ジャイロ キューブ センサスを一気に指先でつまむサイズにまで小型化したもの。つまんでいると前に引っ張られたり、後ろに押されたり、横に押されたりする感覚が指に伝わる。内部に備えられた回転体の動きを制御することで、人間に押されたり引っ張られたりする錯覚を与えるものです。

まだ手の動かせる範囲は制限されているものの、従来のアームやワイヤーを使ったハプティックインターフェース(力覚提示装置)より、手の動きの自由が利きます。指先につまんだ装置の位置をパソコンディスプレイの横に設置したセンサで読み取って、ポインティングデバイスとして使うことで、画面の中の水玉を触ったり、動かしたり、そんなデモを体験した。位置読み取りも内部の機構で行なえれば、面白くなりそう。長く持っていると回転体の振動で指の感覚がおかしくなってしまいそうですが、いろいろ改良してWiiのコントローラなどに応用できるといいかもしれません。

他にヘッドマウントディスプレイを使ってクルマの実物大CGを検証する装置などを体験しましたが、僕が興味を引かれたのは、同じ会場で開かれていた「設計・製造ソリューション展」に展示されていた3Dプリンターやラピッドプロトタイピングの機器の数々でした。コーヒーやコーラを紙コップで出してくれる自動販売機のような機械が、ABS樹脂の立体物を自動的につくってしまう。データを用意してクリックひとつで、というのがまさにプリンター感覚です。それらが300万円くらいで買えてしまう。大学のデザイン系の研究室にどんどん導入して学生が気軽に使えるようにすると新しい発想が生まれてきそうです。

立体物をつくるシステムは多岐に及んでいました。光造形の機器もあります。レーザーを金属粉末に当てて金属の立体物をつくったり、積層させた紙で立体をつくるものもあったり、モック用の合成木材を削ったり、インクジェットプリンターのカラーインクで着色しながら石膏で立体物をつくる3Dカラープリンターもありました。
d0039955_11514230.jpg
エンビジョンテック社(ドイツ)の高速光面造形装置による作例。
輸入元:シーケービー


形をつくるプロセスが大きな革命期が訪れているような気がしました。今まではこうです。手でつくった造形には手でしか出せない味がある。コンピュータによる造形はさまざまな複雑な面を可能にしたけれども、どこか面自体が3DCGっぽい。手は手、コンピュータはコンピュータだから、同じ滑らかな面でもブランクーシの面はコンピュータでは絶対発想できない。

しかし、手の造形とコンピュータの造形、一点物の面と量産品の面の間の境目が、どんどん消えつつあるようなのです。

手でまず自由に原型をつくり、非接触の3次元形状測定装置を使い、それを3Dデータ化する。本ブログのコメント欄でbkbさんが指摘していたようにフランク・ゲーリーもこうしたリバースエンジニアリングを建築に応用していました。3Dプリンターはさらにそれを押し進めます。画面の中でデータを修正して、もう一度画面の外に出してしまえる。モノとして再度、感触や面質を検討し、今度は手で削って修正できる。で、それをまた3次元形状測定装置で3Dデータ化する。その繰り返し……。

最近のいくつかのクルマの面に、彫刻的でも彫刻とは違うという不思議な印象を受けることがあります。たしかに人間の手から生まれた面だけが持つ表情をしているけれども、ノイズがまったくない。雑味がない官能性。それはきっと、こうしたプロセスから生まれた面なのでしょう。

まだまだこうしたプロセスは、主に金型づくりに使われたり、量産に適したフォルムを効率よく生むためのものです。時間やコストをなるべくかけずにノイズを消し、複雑な形を製造しやすい形に変換する技術です。しかし、逆に手が発するノイズをうまくすくい取る技術にもなりえる。スケッチを描き、それをもとに模型をつくり、といったプロセスの中に残る手の痕跡を、手づくりでは決して実現できない規模で形に変換する手段──。おそらくゲーリーはそういうことをしているんでしょうね(彼が使っているのは3次元形状測定器だけですが)。

限定生産や一点物(ワンオフ)などの効率優先を少しゆるめられる世界ならば、手のノイズをコンピュータで増幅した新しい造形が生まれるでしょう。形がリアルとバーチャル(現実ともうひとつの現実)の間を自由に何度も行き来するプロセスの中から、アーティストたちが新しい彫刻の概念を生むかもしれません。

d0039955_1154124.jpg
紙でできたモックです。
紙は触感の確認に向いているようです。
微妙なカーブの触感が倍加され伝わってくる気がしました。
d0039955_11571243.jpg
キラコーポレーションの紙積層装置 KATANAによる作例。

text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-06-29 11:46 | Comments(2)
Commented by まー at 2007-06-29 19:46 x
この機械欲しいですね。
3Dプリンターって言葉自体もすごいですよね。
とりあえず、判子屋は要らなくなりますね、笑。
時々、技術の進歩はそれを使う人間の進歩を超えてしまっている気がします。
もちろん、人が技術を開発しているので、そんなことは無いのでしょうが。
しかし、僕個人としては取り残されないようにがんばらなくては。

Commented by cabanon at 2007-06-29 20:44
>まーさん
一家に一台3Dプリンターはきっと必要ないでしょうが
町の写真館が、写真だけじゃなくて
3D形状測定器や3Dプリンターや
モーションキャプチャー装置を置いてくれるようになることを夢みています。
いろんな形で記憶を残せて、
若い頃の自分の体型とか、
赤ちゃんのハイハイの動作とか。

そう! 技術開発が先に行きすぎることがありますが、
開発しているのは人間ですよね。
ワクワクする使い方を提案するのも人間の知恵。
僕は、ワクワク感の創出・増幅は、デザインの仕事だと思っています。
<< 似顔絵の巨匠 くぼみ傘 >>


S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

Twitterもやってます!

*当ブログの奥座敷
KoKo Annex

ライフログ
最新のコメント
以前の記事
カテゴリ
ブログジャンル
リンクについて
当サイトはリンクフリーです。
お気軽にリンクして下さい。

本ブログの記事と写真の
無断複写・転載を固く禁じます。




Copyright 2005-2016 Keiichiro Fujisaki All rights reserved
本ブログの記事と写真の無断複写・転載を固く禁じます。