藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
スキン+ボーンズ
「終了間近」印が激しく点滅しだしたので、本日は「スキン+ボーンズ-1980年代以降の建築とファッション」を見に、国立新美術館へ。13日(月)までです。ここって火曜休館なんですね。

建築とファッションを対等に見せているのですが、建築への斬新な視線が表明されているわけではなく、ファッションを1980年代以降の建築のボキャブラリーで読み解くところがミソの展覧会です。展覧会の構成に、ところどころ「?」と思うところがありましたが、ふだん見ることのできないファッションがたくさんあったので、楽しめました。特にベルギーものとか、僕はあまり詳しくないので勉強になりました。

特に「?」と思ったのは、1980年代以降をテーマにしながら、巧妙にポストモダンという言葉を避けていること。その一方で脱構築という言葉をかなり感覚的に拡大解釈して、コム デ ギャルソンファッションや山本耀司、ヴィヴィアン・ウェストウッドなどの1980年前後の仕事や、1990年代のマルタン・マルジェラらのベルギーファッションをまとめるキーワードとして使っている点でした。

おそらく、今回は、表層(スキン)と構造(ボーンズ)との関係を問う展覧会だから、表層と意味との関係を考えるのを避けたのでしょう。70年代〜80年代、建築の記号化がポストモダンを標榜する建築家たちの間で議論されますが、実践は思うようにはいきませんでした。しかし、皮肉なことに90年代になると、建築家の記号化が起こります。90年代後半から、建築家のブランド化が急速に進展し、消費社会の表層でファッションと建築が結びつける原動力となっています。メディアが、一部の建築家やデザイナーを特別な感性をもつ選ばれし者、もしくは行きすぎた経済効率主義に対する文化の守り人として繰り返し紹介することで、創造神話が絶え間なく生成され、高付加価値ビジネスを支えつづけています。

ファッションビジネスの舞台裏でもある、こうした状況まで考察すると、展覧会として話が広がりすぎます。ま、それはわかるのですが、だからといって「脱構築」を既成概念の転覆みたいな意味で使うのは、ひじょうに無理があります。脱構築を語るなら、表層と構造と意味の三者の関係をきちんと問うべきです。

もうひとつの大きな「?」は、身体性の言及が浅いこと。もちろん、身体性は最も今日的なテーマですから、それなりには触れられています。「シェルター」というテーマの中で、ファッションや建築が、人間の第二、第三のスキンであることが語られています。

しかし、ここに展示されていたハイファッションとっての身体は、すべてモデル体型のためのものでした。あまりにひとつの、しかも世間的に見れば奇異な体型に固執した表現なので、滑稽でさえあります。モデルという標準的身体との関わりばかりで、老人、幼児、肥満、ひとりで歩けない人などの身体との関係の言及はありません。まして欠損した身体のサイボーグ化といった21世紀的な問題には、一切触れられていません。

最も面白かったのは、ヴィクター&ロルフの「ロシアン・ドール」のビデオと実物。これだけでも見に行く価値があります。「身体能力の拡張」でなく、「身体拘束の拡大」というファッションのもうひとつの面を、モデルに次から次へと着せていくというパフォーマンスで、見事に浮き彫りにしていました。服自体も魅力的。僕はフランスのBD作家(コミック作家)のメビウスの世界を思い出しました。

お目当てのひとつだったフランク・ゲーリーのビデオはえらく冗漫。スタジオ風景と、作品のCADと映像は貴重だったのですが、ダラダラした構成で見たいシーンになかなか辿り着かない。僕は全部見たけど、ほとんどの客は15秒くらい見て、次へ。建築系のお客よりも、ファッション系の人たち(特に学生)が多かったようです。

で、夕刻の国立新美術館のロビーで一休み。西日がいいです。サントリー美術館の階段室の西日と双璧かも。
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text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-08-10 21:02
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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