藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
The Nature of Design
d0039955_22314455.gif『デザインとはどういうものか』(デーヴィッド・パイ著 美術出版社)をようやく完読した。翻訳のせいなのか、原文のせいなのか、こちらの集中力をブチブチ断ち切る回りくどい表現の悪文が多くて読むのに苦労した。特に後半は読みづらい。
原題は“The Nature of Design”。「デザインの性質」「デザインの本質」という意味。1964年にイギリスで出版されている。
2つ前の投稿で「デザインの本質」という言葉の濫用について書いたが、この本のような、デザインとは何か、に真っ向から取り組んだ本は、デザインの本質とタイトルを付ける権利がある。
機能主義批判の本だ。60年代、おそらく多くのデザイナーに盲信されていた「形態は機能に従う」という有名なテーゼを再考するため、機能とは? デザインの必要条件とは? 発明とデザインの違いとは?といった根本の根本に立ち返ることから、慎重に論考が展開されている。
船でも工作機械でも、ある装置が作用するは、つまるところエネルギーの変換だ、という地点まで著者は立ち返る。「デザインとは、意図する結果を多少なりとも得るために既知のシステムを適応する仕事であり、そうしておいてエネルギーをそのシステムに注意深く投入させるものである」。今ここでこの引用文の意味を理解する必要はない。ただ著者がここまでデザインを解体して定義し直していることを知ってもらいたい。
機能によって決定されていると思われているデザインが、実は経済によって決定されていること。意図する結果を得るために「これしかない形態」など存在しないこと。無用は無価値でないこと──レンガの壁を平らにしようと職人がこだわれば、それは功利的な判断から言えば、無用の仕事だが、この無用は無駄でも無価値でもない。むしろ必然的であることを著者は明らかにする。そして、形態は全く機能によって決定されていない、ということを丹念にえぐり出す。
ネタばれで申し訳ないが、著者は本の最後で、機能はデザインを理解するための「驚くべき障害」といい、「機能は死語になる」とまで言い切っている。しかし、実際にはそうなっていない。機能美という言葉はいまだに頻繁に使われている。「椅子の機能は?」と問えば、誰もが「座ること」と答えるだろう。デザインを学ぶ人に問うても「その質問には意味がない」と答える人はまずいないだろう。
現代社会は「機能」という言葉を欲している。僕はそう思う。40年前、ここまで明快に「機能」批判が行われているのに、それが今も「機能」という言葉が絶大な力を持つのは、機能とはもはや理性の問題でないからだ。欲望の問題なのだ。機能美とは肉体美と同等のエロチックで、人を誘惑する言葉である。
いま僕らがしなければならないのは「機能」批判ではない。「機能」がなぜ人を誘惑するのかを考えなくてはならない。コストの問題や無用の仕事が実際のデザインを決定していても、それを機能美と言わなければならない理由が、この社会にはあるのだ。それを分析する必要がある。この本自体を批判的に精読すれば、発見は数多くある。とにかく21世紀のThe Nature of Designを僕らは考えなくちゃいけない。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2005-05-20 22:52 | Comments(0)
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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