藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
未来でもない、過去でもない
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「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」を観た。とても仲良かったけど、卒業以来ぜんぜん連絡を取ってなかった友人に、久びさ会う感じがした。気恥ずかしい。とりあえずお互いあんまりしゃべらない。相手の様子を見て、変わったなとか、変わってないなとか。成長したなとか、声、昔のまんまだなとか。で、そのうちいろいろ思い出して熱くなる。

気恥ずかしいから、画面の隅の方ばかり見てました。シンジは12年前のままDATで音楽聴いてましたね。第3新東京市の建築は、可動式の未来の建築ですが、日用品のデザインは未来のものではありませんでした。ネルフのセキュリティゲートも磁気カード式だし、ケータイより緑の公衆電話のほうが目立っています。ケータイはシンジが圏外だと冒頭で言っていました。ミサトも持っていたけどほとんど使わない。電車の中でもケータイしている人はいなかったし。ケータイは映画制作者にとって使いにくい小道具です。あまりにデザインの移り変わりが速くて、時代を特定してしまいます。第1作で最先端の機種を出しても、4部作の最後の作品の頃にはえらく古めかしいデザインになっている可能性がありますから、出来るだけ登場させないという選択はありですね。

中学生は全員ノートパソコンを使って授業をしているけど、そのパソコンは5年くらい前のデザインの筐体でした。厚いし液晶画面も小さい。クルマは、ミサトのルノー・アルピーヌA310以外、車種を特定できないような描き方をしていました。街中のクルマは時代を感じさせてしまいますからね。ただ一瞬、街角に並ぶクルマの中に、オレンジ色のマーチを確認。ローソンやUCCみたいに、日産ルノーもスポンサーなのかな。相田くんはHDビデオカメラを使ってましたけど、手からはみ出す大きさで、ちょっと前の機種って感じがしました。

プロダクトデザインは「未来」を象徴する小道具ではありませんでした。この映画では、日用品のデザインは、生活感、記憶、既視感、喪失感など人間的なリアリティを感じさせる道具として使われています。

CGは素晴らしい。描画技術は確実に12年前より「未来」です。しかし、エヴァンゲリオンの世界自体が「未来」とは言いがたい。進んでいるのか、進んでいないのか。時が融けています。止まっているのか進んでいるのか、いや逆行しているのか。速いのか遅いのか。エヴァの世界は未来でも過去でもない、もちろん「今」でもありません。しかし、時が融けだしている感覚は、「今」の同時代人が共有する感覚ではないでしょうか。

リメイクですから、多くの観客には既視感があります。庵野さんはその既視感を、真っ直ぐに進まなくなった時の流れを実感させる小道具として、意識的に使っているような気がしました。

かつて20世紀の人々は、時間が未来へまっしぐらに突き進む世界にリアリティを感じていたのですが、どうやらエヴァ以降の世界で、時間へのリアリティの感じ方が変わってきているように思います。未来に向けて同一の速さで進んでいた時間が融けだして、渦巻き歪み加速化し澱む。そこに強いリアリティをある。エヴァ誕生は1995年、阪神淡路大震災やオウム事件の年です。日本では6年早く21世紀が到来したのだと、僕はそう思ってます。

12年の間に、未来へ進んでいた時間のどこかに、巨大ながらんどうができた。映画館の大画面で、ジオフロントの空洞を見て、そんなこと思いました。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-10-02 12:05 | お気に入りの過去記事 | Comments(0)
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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