藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
矛あっての盾。盾あっての矛。
「美しい矛盾」ということをずっと考えています。

矛盾の故事は、ご存じの通り「この矛はどんな盾でも貫く」「この盾はどんな矛でも防ぐ」といって矛を盾を売る者がいて、客に「ならばその矛でその盾を突いたら、どうなるのか」と問われて、返す言葉がなくなるという話です。

しかし、この商人はひどく愚かな人物です。もし機転の利く商人なら、矛と盾の対決で人を集めて見物料をとって儲けます。

ここで重要なのは「問い」を投げかける人がいることです。「問い」はチャンスです。商人が1人で「世界最強対決」と掲げて興行を打っても、見せ物小屋の刀を呑み込む男程度の集客力しかないでしょう。しかし衆人のもとで発せられた鋭い問いには、多くの人の関心を巻き込む力があります。

問いを投げかける人は、矛が強いか、盾が強いかを問うているのではありません。オマエの話はホントかウソかはっきり証明してみせろと言っているのです。どちらが勝っても、この商人は大恥をかくことになります。絶体絶命のピンチを商人に逃げ道はあるのか。観客はそこにスリルを感じ、恥をさらす愚者の姿(まさに謝罪会見)を見て、満足します。

問いを投げかける第三者の視点が、「矛と盾のどちらが強いか」という二項対立と同時に、「この商人は信用できるのか、できないのか」というもうひとつの二項対立を生じさせているのです。

中国のこの故事には、この客は真実を見抜く眼力を持つ賢者で、商人は人を騙す愚かな悪者という不可視の図式があるために、後者の二項対立は問題にされていません。

見物料をとってイベント化するというのは、商人がこの暗黙の了解を可視化させて疑問を投げかけようとする行為です。勇気のいる行為です。

やっぱり私はウソつきでしたと、最後に謝罪して、でも、興行としてはがっぽり儲ける自虐的商売の仕方もあるでしょう。問いを発する客を仕込んでおけば、各地で巡業ができます。

しかし、商人が問いを発した客以上の賢者だったら、商人は対決が終わった後に、見物人たちに向かってこう言うでしょう。

「あなたがたは歴史を見たのです。最強であることは最強のものを倒すことによってしか証明できない。だから最強の矛が、どんな盾でも突き抜くことができると宣言するのは正当であり、最強の盾がどんな矛を防ぐと宣言するのも正当です。最強の矛だけ売っている商人は、それをいつまで経っても最強であることを証明できないでしょう。矛あっての盾。盾あっての矛なのです」。

僕はこうした解決策を生むことがデザインだと思っています。

膠着関係となった二項対立に、衆人のもとで「問い」を投げかけて、多くの人を巻き込みながら第三の視点を生むこと。問いの行方をみなが注目していることが、最高のチャンスです。「問い」に対して沈黙してしまうのでなく、逃げるのでもなく、真っ向から立ち向かう。敵対し行き詰まった二項対立が、つながりあう柔軟な二項対立へ変えるのは、第三者の優れた問いです。矛と盾は、敵対関係でなく、共生の関係であることを示すには、優れた問いと、それを受けとめる勇気と知恵が必要です。

以前書いた「優れたデザインは矛盾を美しく見せる力を持っている」というのは、こういう意味です。デザインの「知」は、論理の世界とかたちの世界を自由に行き来します。「矛盾が美しい」とか「つながりあう柔軟な二項対立」(まさに太極図の世界です)という表現自体が矛盾していると考えるのは、論理の世界の思考であって、かたちの世界の思考は、それを可能してくれます。論理の世界と違って、かたちの世界は、矛盾をやさしく包み込んでくれるのです。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2008-01-22 14:25 | 二項対立
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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