藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
ミュージアム巡り
調べ物のため、8/6〜8の3日間で、東芝科学館、電気の史料館、サンヨーミュージアム、まほうびん記念館(象印)、松下歴史館、シャープ歴史・技術ホール天理、北名古屋市歴史民俗資料館を回りました。川崎から大阪、奈良、そして名古屋。それぞれが特長あるミュージアムで面白かったです。

目的は昭和家電の調査ですが、目的以外のものもいろいろ楽しめました。川崎の東芝科学館では、からくり人形「弓曳き童子」を見ることができました。
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複製です。実演はありません。しかしムービーはありました。弓を曳いて、矢を的に当てる信じがたいほど精巧なからくり人形。4本のうち1本わざと失敗します。失敗すると少し悔しそうな仕草をするというところまで動画では見られなかったけど、満足。

30〜40分くらい歩いて電気の史料館へ。企画展(11/3まで)でテルミンが体験できたこと。常設展示に以前から興味があった20世紀初頭の電気自動車が見られたこと。思いがけないものに出会えてここでも満足。
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東京電力の資料館で、電気づくりの歴史がメインの展示となっています。重厚な発電マシーンにはただだた圧倒されます。
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ひと通り史料館を見学した後、調べ物のため、併設されているライブラリー、電気の文書館へ。史料館の受付で利用したいと頼むと、セキュリティ厳重な研究棟の一室にあるため、わざわざスタッフが迎えに来て部屋まで案内してくれます。僕1人のために部屋を開けてくれ、しかも「これこれを探しに来た」と言ったら、スタッフの方に的確に本を探してくれました。感謝。

翌日は大阪へ。サンヨーミュージアムでは、ずっと見たいと思っていた人間洗濯機を眺め回しました。三洋電機が大阪万博に展示したもの。想像していたより小さかったです。
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三洋電機の主要プロダクトが並ぶ展示室では、同社の操作系のデザインが1960年代からずっと美しく独創的だったことを認識。テレビやステレオやラジオ、洗濯機などの、スイッチ、ボタン、ツマミ、ダイヤルの形や配列、配色……こういうディテールのデザインって本に載ってる写真じゃ分かんないですよね。実物を見る必要を強く感じます。デザインミュージアムってそういう意味でも必要です。
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守口の三洋から、天満橋の象印へ。まほうびん記念館は予約制。マンツーマンで解説をしていただきました。デザインのことを調べていると話すと、同社のデザイナーの方まで呼んでいただき、興味深いお話をうかがうことができました。こういう体験って企業ミュージアムならではですね。有り難うございました。
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象印のデザインは、コテコテの花柄から、マリオ・ベリーニや柴田文江さんのシンプル&合理的なものと両刀遣いで面白い。かつて土間にあった調理用品に花柄などありません。すべてがロングライフの合理的なデザインがなされていました。無彩色でシンプルなデザインこそ日本の調理器具の伝統です。今のステンレス炊飯器も、シンプルなかまどのイメージです。しかしそこに花柄が入り込みます。ここが面白い。花柄ブームが終わるとちょっと丸みの帯びたシンプルだけど、かわいい形態が入り込みます。コテコテの花柄は少なくなっても、どこかに「私だけのもの」を感じさせる「かわいさ」が丸みの帯びた形態がシンプルでミニマムな形態と両立して脈々と生き続ける。
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魔法瓶って「嗜好の鏡」なのかもしれません。家の好みを食卓の上で映し出したのが魔法瓶。電気製品や調理器具を購入する主体は、家から個人へ変わりました。主婦とひと口に言っても、家を代表する主婦か、あくまで個人である主婦かで事情は大きく変わります。1967年以降の花柄ブームというのは、家の主婦から個人の主婦へ変化した時期なのかもしれません。67年はツイッギー来日。ミニスカートブームの年ですし。

家の凋落/個人の台頭とともに、個人でなく家の好みを表す「嗜好の鏡」のプロダクトは本当に減りました。もう魔法瓶も個人の嗜好を映すプロダクトです。持ち運ぶ魔法瓶が流行っているそうです。

実際、僕の講義の受講生にも、1人暮らしで夜お茶を沸かして携帯魔法瓶で大学に持ってくる学生がいて感心しました。ジムに行くときとか、僕もやってみようと思います。魔法瓶は、日本文化の嗜好の鏡でありつづけています。

あっ話がそれました。象印でみっちり話を聞いて、京阪電車で再び守口・門真方面へ戻り、松下電器歴史館へ向かいました。見たかったのは木工家具調ステレオ「飛鳥」(1964年)。美しい。
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校倉造りをイメージしたデザインといわれています。昭和家電の中で、最も建築的な家電だと思います。

この歴史館は、同社のプロダクトの歴史を振り返ると同時に、松下幸之助の足跡を辿るものです。どちらかというと後者に重きが置かれているようです。夏休みの子どもたちに混じって、松下幸之助が自ら経営の心得などを説いたビデオを見に来ている同社の関係者を思われる人もチラホラ。松下幸之助の求心力の強さに実感しました。

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隣にある安藤忠雄さん設計の「さくら広場」ものぞいてきました。安藤さんが手がけた松下電器の「さくら広場」は全国に4か所。他に幕張、茅ヶ崎、豊中にもあります。残念なことにここ門真の広場の見晴台は立ち入り禁止になってました。現地でこっそり取材したところによると近隣の家のプライバシー保護のためとのことです。たしかによく見えます。春の桜を一望できるせっかくの見晴台ですから、目隠し用の大きな木を植えて活用してもらいたいです。

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淀屋橋の宿へ向かう途中、芝川ビルも見てきました。
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翌朝8時30分前、芝川ビルの外観を再撮影。大阪は東京より明らかに日傘を使う女性が多いです。

そして奈良・天理へ。シャープ歴史・技術ホールも予約制です。ソロバンと計算機が一体化した珍品「ソロカル」(1978年)に遭遇。
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そういえば半年くらい前だったか、居酒屋でソロバンで計算してから電卓で検算していた女将さんがいたことを思い出しました。ソロバンって頭の体操なんですよね、きっと。その時僕は、最初から電卓を叩かないことに、人間が人間である所以を感じたわけです。

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シャープからの帰り、タクシーで竹ノ内環濠集落へ寄ってから、近鉄特急で名古屋へ。そこから名鉄に乗り換え西春駅へ。天理でタクシー代を使いすぎ、さらに昨日たこ焼き18個とお好み焼き1枚食べたので減量を兼ねて駅から酷暑の中、25分歩きました。
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住宅と農地が入り交じり、ところどころイチジク畑があって甘い香りが漂います。

北名古屋市歴史民俗資料館は、昭和の生活資料を集めるミュージアムです。コレクションが非常に充実しています。ついつい目的を忘れ、食品パッケージなどをみて、「あったあった」「へぇ〜こんなのあったんだ」と楽しんでしまいました。
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車椅子の老人の団体さんが介護の方といっしょに来館していました。聞けば、高齢者の過去を回想したり、周りの人といっしょに記憶を思い出すことにより、高齢者の心理的ケアを行う「回想法」に資料館を利用しているとのこと。お見かけした老人たちももう何度かここに来ているそうです。
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「ああ、これ、こんなふうに使っていたわ」とかいろんな会話が生まれます。デザインミュージアムを全国に浸透させて行くには、こうした高齢者ケアと一体化した取り組みがキーポイントになるのかも、と思いました。福祉との連携をすることで、ただグッドデザインを集めるだけでない新しいデザインミュージアムのあり方見えてくるかもしれません。

それにしても今回巡った企業ミュージアムは、それぞれ個性があって面白かったです。まだつくってないメーカーもぜひ自社ミュージアムをつくっていただきたい。

見る側の勝手な言い分を言わせてもらうと、いろんな企業ミュージアムが一か所に集まっていると便利です。企業ミュージアム団地(テーマパークというべきか)を、国かどこかの地方自治体がつくってほしい。土地代は無料。税金優遇。ボランティアスタッフは国や自治体が用意するとか。もはや企業の歴史は一企業の歴史に止まらず、日本の歴史です。日本のものづくりの歴史や生活文化を次世代へ伝えること、世界へ発信することは、国家の義務だと思います。

今回の調べ物とは関係ないので行きませんでしたが、ソニー歴史資料館も興味深いんで、そのうち訪れたいと思ってます。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2008-08-09 13:43 | Comments(2)
Commented by 深川雅文 at 2008-08-12 13:27 x
デザイン&ミュージアム・リンクの深川です。デザイン・ミュージアム巡りを藤崎さんが集中的に行っていらっしゃるという報を耳にして来訪しました。ちょうど、次号の機関誌の特集が「日本のデザインとミュージアムのいみ」というテーマで、私たちもいろいろと巡っているところですので、とても参考になります。デザイン&ミュージアム・リンクのブログで、デザイン・ミュージアムについての試論を展開しているところですのでこちらのほうにもお寄りくださいませ。では。
Commented by D&ML Blogmaster at 2008-08-12 15:00 x
デザイン&ミュージアム・リンクのブログマスターです。藤崎さんのミュージアム巡りは、非常に丹念で驚きました。ぜひ、建築や大型・空間系プロダクトに関するミュージアムについても、調査結果、お考えなどをお伺いしたく存じます。
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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