藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
プレイ・アラウンド:答えの周辺
11/2、SoCa2008の、グラフィックデザイナー松下計さんのレクチャーを聴きに行きました。デザインの現状に対する危機感と、これからのデザイナーの立ち位置を考えさせる、熱い講演でした。

その中で松下さんが、プレイ・アラウンド(play around)という話をしてくれました。問われたことに対して、答えを見つけるでなく、答えの周辺を探っていくこと。イギリスのデザイン教育の視察に行ったとき、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で聞いた言葉だそうです。

ある課題を解決するために、町に出て写真をたくさん撮る。その写真が楽しければ、別に答えを出さなくてもOK。答えの周辺(アラウンド)で遊んじゃって(プレイ)しているわけです。従来のデザイン教育は、一人ひとりが問題を見つけて、自分独自の解決策を探し出していくことを重視してきました。課題に対して、期限までに無理をしても必ず必ずひとつ答えを出さないといけません。

プレイ・アラウンドは、答えをひとつに絞る必要がないのです。こんなのあってもいいし、こう広がるかもしれない。今は具体的になりそうもないけどこんなのありかも……。どんどん答えの周辺を膨らませる。優等生的な答えよりも、「答えの周辺」に未来へ繋がる想定以上のものが生まれてくるかもしれません。

問題を解決しようとして、ひとつの解答を選択する手前で立ち止まって、「答えの周辺」で遊んでみる。それってデザイナーならではの方法論だと思います。ふだんから問題解決型のクリエーションを実践しているわけですから。問題解決のためにリサーチをかけているうちに、創造力溢れるデザインナーは、リサーチに没頭し、答えを出すことをすっかり忘れて、「答えの周辺」に夢中になってしまう……。そして新しい創造の方法論を手に入れる。
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岡田栄造さんプロデュースした、清水久和さんの個展「日本史」を見て、僕はその「プレイ・アラウンド精神」を感じました。清水さんはキヤノンのインハウスデザイナーです。でも、個展には仕事とリンクするような作品はありません。出展されていたのは井伊直弼を題材にした鏡と、巨大なちょんまげの貯金箱の2点。
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井伊直弼は日本史の教科書に載っている。肖像画も載っている。安政の大獄や桜田門外の変のことは知ってても、はたしてどんな人物だったのか、善人なのか悪人なのか、よく分からない、微妙な立ち位置の人物です。日本史本流の人物ですが、その存在は隙間的です。井伊のイメージには輪郭があっても中身がない。それゆえ鏡なのでしょうか……。

髷(まげ)は、日本史→時代劇→チャンバラ→最後に髷がバサッと落ちる定番のシーンという連想から生まれたもの。日本史の大衆的イメージの隅っこにある強い光を放つディテールです。下の白い台はお城の石垣だとか。日本史というイメージをつくるには、なくてはならない影の主役です。
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日本史という岡田さんのお題に対して、清水さんは、正しい答えなど出すことなど最初からせず、答えを出す一歩手前で出てきた隙間や隅っこや背景の部分で、徹底的にしかも真剣に遊びまくって、鏡と貯金箱をつくってしまったわけです。まさにプレイ・アラウンド。ふだん企業で問題解決型のデザインに取り組んでいるデザイナーだからこそ、答えの周辺で遊ぶ極意を知っているわけです。

そのあたりの感覚は、もう一人のインハウスデザイナー界(そんなのあるのか)の奇才堀切和久さんのミニ盆栽なんかにも通じるんですよね。プレイ・アラウンドの手法自体は、Take your pleasure seriously(楽しいことは真剣に取り組め)と言ったチャールズ・イームズや、ブルーノ・ムナーリの仕事(たとえばフォークの本とか)にルーツを求めることができるかもしれません。

問題解決型クリエーションの専門家が、答えの一歩手前でプレイ・アラウンドしていると、たまたま現代アートに重なり合ってきたりします。「答えの手前」や「答えの周辺」では機能とか経済性などはシビアに問われることないわけですから。しかも市場分析などの詳細なリサーチを重ねて問題解決を図ることを生業としているデザイナーならではの方法論は、アート界では新鮮だったりします。それが今アートとデザインを近づけている理由かなとも思ったりします。

答えの手前で遊びまくれ!
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*「DEROLL Commisions Series 2:日本史」展はSPACE INTART(東京・北青山)にて10/28〜11/3に開催された。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2008-11-03 18:27 | お気に入りの過去記事
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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