藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
iQですか、大賞は。
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iQがグッドデザイン大賞を獲ることと、プリウスがかつて大賞を獲ったこととは全く意味合いが違うと思います。

前者はダウンサイジングの技術。サイズを小さく燃費も少なくという技術が基本です。しかし引き算の発想だけだと、「軽」との比較になってきます。iQなどコンパクトカーの燃費は「軽」よりいい。iQは4人乗りといいつつ、実質3.5人乗り。しかも「軽」は維持費が安い。燃費で勝負したいけど、お得感ばかり強調すると利ざやの薄い商品になる。そこで、トヨタは「プレミアム感」ということを言い出します。数理曲線を使った理知的かつエモーショナルなるスタイリング──。黄色いナンバーに抵抗ある人たちが、愛着を持って乗れる精度を極めた造形性。そんな「プレミアム感」と「コンパクト&環境性能」という二律背反を1つの形に収めたパッケージング。それが評価されたのでしょう。

二律背反の調和は、日本的な発想だということで、トヨタはそれを「Jファクター」と呼んで、全社的なデザイン開発のコンセプトにしています。

しかし二律背反は、単に調和させればいいというものではありません。なにかしらの第三の道が見えてこないといけない。

僕は二項対立では第三項の概念が見えてきて初めて次のデザインの課題が見えると考えています。(弁証法との違いなど、詳しくは昔の記事「第三項」「二項対立」をお読み下さい)。たとえば第三項は、ノイズ(←秩序と混沌)、コモン(←プライベートとパブリック)となります。

2つのハッキリ領域のある項目の間に生まれる第三の道は「曖昧さ」です。曖昧さはそれ自体コンセプトになります。日本人はそうした曖昧さや、間(ま)、隙間、にじみ、余白に美を見ます。二律背反を不和でなく調和として捉え、伝統と先進性を和合させる新しい造形を試みること、それをトヨタはJファクターと呼んでいます。

iQには、第三の道が見えてきません。僕には、Jファクター自体が目的になっているように思えません。つまり、Jファクターという全社的なコンセプトに当てはめるため、ダウンサイジングの技術の対抗軸として「プレミアム」という言葉を持ち出してみた、という後付け感がある。矛盾する要件を融合させる方法論という「手段」を使って、未来へつながる第三のコンセプトを示すのが「目的」であるはずなのに、「手段」であるべき方法論が「目的」になってしまっているから、未来が見えてこない。

もし、iQが大ヒットして、他社も追随し、プレミアムコンパクトカーが街中に走るようになったからといって、新しいモビリティ社会のあり方が見えてくるでしょうか。

プレミアムとコンパクト+環境性能を調和させたからといって、第三の新しいコンセプトが生まれたとは思えません。

その点プリウスは、最初から環境性能を対立する他のさまざまなファクター(走り、価格、居住性など)との調和を図り、ハイブリッドカーという、未来のモビリティ社会への第三の道を示しました。

トヨタが最近宣伝している「エコ替え」が第三の道なのでしょうか。エコ替えの宣伝には、地デジ強制変換を契機に、部屋に合わないくらいの大きな画面フラットテレビを売りつける商法のような、非常に違和感を感じます。地デジは必ずしもハイビジョンテレビに見る必要はないのに、大きな高いテレビを買わないとダメみたいな意識にさせられている。

エコ替えにも同じような便乗商法的匂いが漂います。エコエコと良心をくすぐって買い替えを煽るより、好きな車を大事に乗るほうがずっとエコです。「プレミアム+環境性能」の道の背後には、「アイツよりオレのほうがエコのこと考えてるぞ」とクルマで主張する薄っぺらな良民意識と、クルマがもともと持っているステータス感の表出とを重ね合わせたいという意図が見え隠れします。だからエコ替えの宣伝は哀しい。

結局、iQには、高価なコンパクトカーを買ってもらうという市場の未来しか見えてきません。iQが売れても、レクサスはレクサスでちゃんと走っているでしょうし。

iQは優良な商品です。しかしグッドであってもグレートではない。それが今後エコ替えプレミアムコンパクトカー市場の主役となったとしても、グッドデザイン大賞というのは過大評価だと思います。

今年のグッドデザイン賞はタマ不足ということでしょうか。ふと、シュリンキング・フューチャーという言葉が浮かんできました。シュリンキング・シティ(収縮する都市)からの連想です。未来が縮まっている。現実的な解答、いや近視眼的な解決のほうに飛びついてしまう。トヨタの中だってもっと遠くを見て開発しているモビリティはあるのに。金融危機はいつまで続くのか。どこまで底なしなのか。実体経済へ及ぼす影響は? そんな先の見えない重たい不安が、大賞の投票に反映したのでしょうか。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2008-11-07 11:45 | Comments(0)
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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