藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
視認性
東北大学の粘菌ロボット取材が早めに終わったので、caslonの本店に行ってきました。ドラフトの本『デザインするな』は、もう僕の手を離れ、現在印刷・製本中ですが、本で数ページcaslonについて触れているので、やっぱり見に行こうと思い立って。仙台駅から地下鉄で15分、それからタクシー。この不況で収入が3分の1になったと生活保護より賃金が安いと嘆くタクシーの運転手の話を聞きながら15分くらいで到着。けっこう遠いです。帰りはバスで仙台駅まで1時間弱かかりましたし。
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caslonはドラフトが店づくりから手がけたベーカリー&レストラン・カフェです。99年オープン当時はD-BROSのプロダクトを売るショップも併設されていましたが、今は物販はありません。壁にはD-BROSの時計がありました。
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caslonの裏手には、原広司さん設計の宮城県図書館があります。
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林の奥のモコモコつるん。この建物が自体が小高い山の稜線のようです。原さんが出身地に設計した、飯田市美術博物館を思い出しました。あちらは明らかに南アルプスの起伏ある嶺々が連なる稜線が、屋根のモチーフになっているのがわかります。それに比べ、こちらはなだらかで、抽象的な曲線です。建築の形が景観と調和していることに気づくと、それまで何の変哲もないと風景だと思っていた小高い山に囲まれた風景がちょっと特別なものに見えてきます。ながらかなカーブは周囲の景観と同化します。しかし、抽象性や素材は、見たことのない宇宙船のように周囲と景観と異化します。同化と異化の両方の効果がバランスよく配合されているから、この特異な人工物の形態の視線をとめた人は、そのまま周囲の自然の形態美まで意識するようになるのです。気づきを誘う形なのです。
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もちろん中も見てきました。内部は、前々日通ってきた、京都駅を思い起こしました。京都駅のエントランスホールは、映画「ガメラ3」のクライマックスでガメラとイリスが闘う場になるほどの非人間的スケールです。SF的な空間に立つ気がして、好き嫌いでいえば個人的には好きなのですが、何か恐怖感を感じるスペースです。南アルプスの断崖という感じがして……。人を超えたスケール感が崇高さに繋がればいいのですが、駅はそういう場じゃないし。

その断崖の感じが、宮城のこの図書館の中にもあります。3階建てなので京都駅ほどのスケール感ではないのですが……。3階の閲覧室から眺望はいいのですが、全体に、本もしくは人が主役というより、空間が主役の図書館です。1階のロビーは何のためか分からないほど大きいですし。
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図書館萌えの僕は、図書館は親密空間であるべき、と思ってますから、こんなスケール感が図書館の中に必要なのだろうかって思います。アスプルンドのストックホルム市立図書館のように、本を主役にして、書棚のスケール感で圧倒するのだったら、まだ分かるのですが。

外観はスケール感があってもいいです。外は小高い山の連なりの中にはまり込み景観の中に溶け込んでいますから。でも、内部のスケール感は不必要だと思う。

といっても、京都駅は、外観のスケール感に関しても疑問符です。もともと分断されていた、町の南と北を完全に隔絶する壁のように屹立していますからね。こないだ駅の南をカメラ片手にブラブラ歩いたので、それをひしひし感じます。

話がそれました。宮城県図書館の話に戻ります。館内の時計を見て、おや?っと思いました。
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紙がセロハンテープで貼ってあります。時刻の部分は切り抜かれています。
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視認性の必要な場所というのがあります。夕方遅くなると20分に1本くらいのバスで帰らなくちゃいけないので、ここでは時計が大切です。caslonのようなカフェでお茶する人は、「もう5時過ぎだ、食事の支度しなくちゃ」とか。だいたい何時何分くらいが分かればいいのですけどね。必要な視認性は、場所によって違います。

で、この紙の時計……。ニーズがあるから、こうなっているのです。職員の方の工夫に頭が下がる思いがすると同時に、設計者は読める時計を寄贈すべきだと思いました。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2009-02-27 11:22 | Comments(2)
Commented by kk at 2009-02-28 23:57 x
はじめまして。法政で藤崎先生の授業を受けてから、読ませていただいています。
実は仙台出身で、宮城県図書館をよく利用していたので興奮してしまいました(笑)
今度仙台に帰った時には時計のこともふまえ、図書館に行ってみようと思います。
Commented by cabanon at 2009-03-01 11:25
>kkさん
僕の行った時も、高校生がたくさん勉強していました。あそこで勉強できるのはイイですね。建築のこととか意識しなくても、毎日そこで勉強しているだけで、空間への感受性が知らず知らずに変わると思います。

ラウンジがあって、いい景色を眺めながら、談話したり、お茶したりお弁当が食べれるのもイイですね。

もっと閲覧用の机があればいいのにとか、親密さが足りないとか、1階ロビーはデカすぎだろとか、いろいろ思うところがありましたが、図書館建築ってとても難しいみたいで、僕が知っている図書館はどれも一長一短があります。とにかく近くにあんな図書館があるというのは、うらやましい限りです。
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藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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