藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
資生堂・サントリーの商品デザイン展
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もう一週間も前ですが5/12、上野の東京藝術大美術館陳列館で行われている「資生堂・サントリーの商品デザイン」展(6/1まで)の内覧会に行ってきました。

「デザインを見せたい」「時代の移り変わりとともにデザイナーが何を表現してきたかを見せたい」という意欲が伝わる展覧会でした。

キムタクの横に背丈を感じさせるものを置いてはいけない。たとえばかつてある雑誌でロゴの特集を担当したのですが、フランスのファッションブランドは石油会社のロゴと並ぶのがイヤだと言って掲載を拒否してきました。ブランドイメージに神経質になるとそういう判断も生まれてきます。しかし同展ではコンビニで売られているミネラルウォーターと高級な香水が隣り合っています。

両社の商品を時代順に並べられると、社会と会社の間でデザインがどんな役割をしてきたかが見えてきます。どちらか一社だけの展示だったら見えてこなかったでしょう。二つだから見えてきます。

大ざっぱに時代分けしてみましょう。僕の私的史観です。

1897年から1960年代前半までは「原型の時代」です。資生堂は山名文夫が活躍し、独自の唐草模様やロゴを生んでいきます。サントリーは角瓶やオールドのダルマが生まれます。当時は「舶来=高級品」で、そのイメージを踏襲しつつ、いかに日本オリジナリティを出すかがデザイナーの腕の見せ所でした。そうした努力の中から、その後の展開の基礎となる原型といえるデザインが生まれます。

1960年代後半から1980年代は「パッケージデザインの時代」です。大量消費社会が熟成期を迎えはじめ、二社は感度の高い消費者に向けた質の高いデザインを発信する先駆け的な存在として時代をリードしていきます。1969年の男性用化粧品「ブラバス」とウイスキー「リザーブ」は、そのデザインテイストが重なり合っています。パッケージデザインが即ブランディングになる時代でした。ですからブランディングがどうしたこうしたと喧々囂々しなくても、タクティクスやペンギンズバーのような、質の高いパッケージデザインを生み出すことに専念すればよかったわけです。

1990年代から現代は「ブランディングの時代」です。まずパッケージをデザインして、それがブランドのアイコンとなって、という順序でなく、先にブランドの世界観があって、それを表現する一つのツールとしてパッケージが生まれているようです。

化粧品のパッケージは、かつてのMG5やブラバスのように、瓶そのものを視覚的なシンボルにしてブランドを構築するのでなく、ブランドが醸し出す世界観を五感で体験するツールになっています。それゆえパッケージでは手触り感や光の微妙な変化などが重視されていきます。

缶コーヒーBOSSでは、ヒゲのオジサンが視覚言語化され、サングラスを持ってたりサックスを吹いていたり、さまざまなバリエーションの商品が展開されています。80年代CIブームの頃の視覚言語とは違います。

企業ロゴマークには指定色があって、周囲に必ず空白をつくるなど、CIのロゴがいじれない視覚言語だったのに対して、ヒゲのオジサンはいじって生きる視覚言語です。求心力のあるアイコンでなく、ブランドをひとつの物語のように展開させていく遠心力のあるアイコンといっていいかもしれません。ご当地キティなんかもその類です。

ブランドはロゴの展開例などを定めたCIマニュアルの中に書かれた世界観ではなく、お客さんとの接点に生まれる世界観です。一人ひとりの顧客の中に、企業の(もしくはブランドの)ブレないフィロソフィーが行き渡るときに生まれる、物語をつくる力が遠心力。それが現代のブランディングの要です。

そんなこんなを読み取れる、いい展覧会です。

他にもいろいろ勉強になります。
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資生堂のTSUBAKIの赤に歴史があること。
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サントリーのシズル表現の早さ。1967年。
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ペンギン缶の丸み。美しい! 1984年。
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SASUKE、好きだったな〜。1984年。

展示解説もしっかり書かれているので、じっくり見たらかなり時間がかかります。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2009-05-21 12:46 | Comments(10)
Commented by 佐々木直之 at 2009-05-22 02:27 x
「資生堂・サントリーの商品デザイン」展、面白そうですね。行ってみたいです。そしてSASUKE! うっすらと覚えています。ガラナみたいな味でしたっけ?

このエントリーを読んだだけでも、自分がいかに昔のことを覚えてないかが分かりました。人の記憶に残るブランディングをすることがいかに難しいかと考えさせられます。
Commented by cabanon at 2009-05-22 12:48
>佐々木さん
そう、ガラナみたいな味です。ドクターペッパーが好きなので、さらにそれを個性的な味にしたSAKUKEが好きでした。
http://densetusasuke.web.fc2.com/
を見ると、広告宣伝にはものすごいメンバーが参加していたのですね。

記憶に残るブランディングというのは、本当に難しいですね。
ウチの洗濯機などもう20年くらい使ってますが、
どこのメーカーのか、パッと思い出せない。
いくら時間を共有していても、記憶に残る体験を共有していないと
記憶に残るブランディングにはならない。

SASUKEはテレビCMもうっすら覚えてますが、
だんだん売れなくなって売っている店が減って
探して買った体験の方を覚えているから、懐かしかったんです。


Commented by asami at 2009-05-29 22:16 x
最初の週末に女同士で見に行きました。
唐草模様の頃はとても素敵で飾っておきたくなる高級感なのに、現代のは無機質で主張が無くてつまらないねー、昔はもっと贅沢品だったのかしら?はてなはてな?と見ていたのですが…
パッケージデザインの役割、を意識しながら、もう一度行きたくなりました。ありがとうございます。
…でもなぜ花椿マークがパッケージにつかなくなったのか。あのワンポイントで魅力5倍のように思うのですが疑問です。。

(「デザインするな」購読以降、ブログでも愛読させていただいています。)
Commented by cabanon at 2009-05-30 21:55
>asamiさん
装飾的なものって、時代時代の記憶にこびりついてしまうので、
本当に素敵なデザインでも、
古臭く見えてしまうことがあるんですよね。
唐草模様の化粧クリームのフタは、僕にとっては母親の化粧品で、
70年代後半や80年代くらいには
正直親の世代の古いものに見えてしまいました。
そういう色眼鏡を外して見れるようになって見ると
やっぱりイイですね。

それにしてもasamiさんのお名紋、すごく素敵です!!
リンクを辿って拝見したのですが、いろいろ見入ってしまいました。
Commented by Tsu at 2009-05-30 23:07 x
本日行って参りました。
期日が迫っているせいか、無料のせいか長蛇の列を作っていました。
でも中に入ると結構空いてるんですよね。
中の込み具合を観察すると、観ることに夢中になり過ぎて明らに列を留めているカップルがいたりして、ここら辺が原因かなと。
あと写真がOKだったせいか、
ひとつひとつの展示を携帯のカメラに納めている人も。
凄く勉強熱心だとは思うのですが、
携帯のカメラって結構シャッター音がうるさいんですよね。この人はさすがに係の人に注意されてましたけど・・・

展示の方ですが、
個人的には、資生堂のタコイル、イカスクリーンを見て、相当懐かしかったです!
ここに来ない限り開かれることがなかった、
記憶の引き出しが開いた感じです。
確かウッチャンナンチャンがCMしてたよなぁ・・・
周囲の声からも感じとれましたが、
デザインの善し悪しの他にも自分のあの頃の記憶と重ね合わせて観ていたひとが多かったようです。
Commented by SiZ at 2009-05-31 12:02 x
私も昨日、ギリギリのタイミングで見に行くことが出来ました。混んでいましたね。ただ、1Fの中盤以降、そして2Fへ行くと驚くほどにガラガラなのが印象的でした。なんともったいない!

最初の方は「こんな昔にこんなにすごいデザインが!?」と驚いて見入っている人が多いのですが、それがだんだん「このデザインはやりすぎかな…」「古いよね…」そして最終的には「あーこれあったね、懐かしいね、へー」となりさらっと通り過ぎられてしまうというこの流れ。
デザインや流行という物の難しさ、印象に残るということと愛される・美しいということの違い、今この時代を生きているデザインを評価することの困難さ、などなどなどなど…お客さんの反応から得ること・再確認することが多く、むしろお客さんこそがこの展示の最も大きな要素として機能していたように感じました。

正直言って、無料に釣られて見に行ったという面は否定できないのですが…。行ってみればとても無料とは思えない充実度で、本当にお腹いっぱいです。結局パンフレットも買ってしまいましたしね(苦笑)
Commented by asami at 2009-06-02 15:16 x
藤崎さん、ありがとうございます・・・
あんまり嬉しくて、コメントをキャプチャーしてしまいました。
「デザインするな」の前提には当てはまらない身ですが、でもやはり、伝えるべきイメージに向かって必死になることを肝に据えて、お名紋づくりをしています。それ以外の信念についても、ふと開いたページを再々読ませていただいています。

>装飾的なものって、時代時代の記憶にこびりついてしまうので、
なるほど。私の想像力不足でした。
時代時代のモノとしてある以上、その時代感は決してぬぐえないものですよね。あ〜安直でした。
Commented by cabanon at 2009-06-02 21:37
>Tsuさん
僕は資生堂のタコイルよりサントリーのタコハイの世代です。
樹氷タコハイは1984年。ペンギン缶と同じ年です。
気になって、Wikipediaを調べました。
「たこでーす」のたこ八郎が亡くなったのが1985年。
1985年のプラザ合意で日本はバブル経済に突入していきます。
1990年のタコイルはバブル全盛期。
イカ天が放映されたのが89〜90年
(いま思うと意外と短かったんですね)。
イカスクリーンは93年、日本のバブルは91年までとされてますが、
なんかバブルの余韻の商品です。
タコの警告を聞けば、失われた10年はなかったかも。
なんていろいろ思うと、ホントこの展覧会は面白かったです。
デザインは記憶を背負うものだと思います。


Commented by cabanon at 2009-06-02 22:05
>SiZさん
うんうんと頷きながら、SiZさんの展覧会の分析を読みました。

確かに、昔のものは「こんなにスゴイのがあったのか!」と見入ってしまってますね。現代のものは、こないだコンビニで見たって話になります。

「今」をどう見せるかがデザイン展の難しいところです。「今」を表現するのはデザイナーの重要な仕事だと思いますが、

展覧会では単に「今」を表現したプロダクトや広告を見せても、コンビニに置いてあるじゃん、雑誌で見たよ、セレクトショップにあった、ってことになります。

「今」を「過去」と「未来」につなげて、はじめて面白い展覧会になる。今回の展覧会は「未来」につながるものは感じられなかったですが、「過去」へのつながりはワクワクするほど面白かった。
そういうやり方もあり。
だから、見応えのある展覧会になったのだと思います。
Commented by cabanon at 2009-06-02 22:17
>asamiさん
キャプチャーとかそんな、、、
お恥ずかしい。

お名紋はホント素晴らしいと思います。
ハンコって人の人生を刻む仕事ですから。
文字の魔力がもろ出ます。
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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