藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
アジサイとアンズ
6/26は、法政の公開対談の前、恵比寿のDRAFTにいました。

「ウチの庭を見て、気づくことないですか?」
とますます茶色にゴルフ焼けした、DRAFT代表、宮田識さんは言いました。

DRAFTの広い庭を二階の会議室から眺めました。ケヤキもアンズもユズもソテツも、プールも石灯籠もある。何か答えなくちゃいけない。分かんない。
「……」
「花がないでしょ」と宮田さん。
「えっ?」
「アジサイの花を植木屋が全部切っちゃったんだよ」
そう言われると、アジサイに花がない。いま一番きれいな季節なのに。
「いま花を切ったほうが元気になるって植木屋は言うだよ。それはないだろ、と思ってね。アジサイは花を咲かせたいわけだし、僕らはアジサイの花を見たい。植木屋は(植栽を元気に育てたいという)自分の仕事をしているんだけど、切る前にひと言ほしいよね。だからお茶も出さなかった。切られたアジサイの花は、昨日まで事務所中に飾ってました」

まさに「デザインするな」だなって思いました。

デザイナーはデザインをしたがる。植木屋は枝葉を切りたがる。アジサイが元気に育ってくれるに越したことはない。でも、庭を愛でる人の思いや、花を咲かせたいというアジサイの思いが見えていない。

『デザインするな』の最初の打ち合わせときはアンズの話を宮田さんから聞きました。1年前の話です。『デザインするな』のまえがきから引用します。
「ある年、庭のあんずが、狂い咲きしたんです」
(宮田が)指さした、あんずの木には青々と葉が茂っていた。
「しかも、花が咲いた後、いつもは葉っぱが出てくるのに、いっこうに出てこない。ヘンだなと思って、毎日観察してたんです。やっぱり、これはヤバイ、死ぬと思ってね。植木屋に看てもらった。もう木が老齢で、弱っていたらしい。それで、地面に注射を打ってもらったら、復活してね。葉っぱが一気に出てきた」(中略)
「デザインするには、もちろん最低限の技術が必要ですが、デザイナーになる人はみんなある程度の技術を持っているわけで、本当は、見ているか、見てないか、感じているか、感じてないかが大切なのです」

もし今年『デザインするな』を書き始めていたら、まえがきはアンズの話でなくアジサイの話になっていたかもしれません。この話はふたつ並べると、相補的な関係になります。アンズの話では植木屋の知見は「正」です。アジサイの話だと逆に「負」に作用します。道より仕事を優先させると、正のはずが負になります。

変化を捉える心は、正しき道を行う者に宿る。『易』の本をずっと読んでいて、そう思ってます。『デザインするな』の根本的なテーマでもあります。

では、何が正しい道か。明快な答えは示すことは難しいですが、答えは意外と身近なところにあるように感じています。『デザインするな』の中で僕が一番好きな話に、宮田さんに教えてもらったルールとマナーの話があります。ルールは変わっても、マナーは変わらないという話──。ズルをしないとか、他の人に心地よくなってもらおうという思いは、どこでもいつでも変わらない。僕自身、実践しようと心がけてますけど、まだまだ不十分。ぜひ読んでもらいたい話です。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2009-06-28 02:12 | デザインするな
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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