藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
カスティリオーニ本
最新号の『AXIS』が送られてきました。

書評ページで『デザインするな』を紹介していただきました。取り上げてもらうだけで有り難いことです。が、でも、しかし、Amazonのぎこちない短い内容紹介文をきれいに整えただけのような文章で、ちょっと悲しくなりました。毎回、締め切りを守らず迷惑かけどおしですが、骨肉削る必死の思いで連載記事を書いているのだから、短くても、極小でも、オリジナルのコメントをしてもらいたかった。・・・カナシイ。

で、気をとりなおして、AXISが「jiku」というブログを始めたそうで覗きに行きました。7/1の記事に『アキッレ・カスティリオーニ 自由の探求としてのデザイン』(多木陽介著/アクシス刊)増刷のお知らせがありました。素晴らしい本です。

ということで、昨年『スタジオボイス』(休刊しちゃうんですね)に寄稿した書評をアップします。

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アキッレ・カスティリオーニ(1918〜2002)は、20世紀イタリアを代表するデザイナーである。本書は、イタリア在住の多木陽介がカスティリオーニのスタジオに通い詰め、その詩学と思想を見事に描き出したものである。なぜ見事なのか。それは本書のテクスト自体が、カスティリオーニの方法論の「見事な」写し絵になっているからだ。

多木はカスティリオーニの精神の働きを「好奇心→観察→分析→さらなる探求」と捉える。「好奇心」をもって日常生活の中の物に接し、それを使う人の身振りを「観察」し、機能との関係からその物がなぜそのフォルムになったのかを「分析」し、その物が社会に対してどのような価値を持つかを体系的に「探求」する。

多木は物を体系的に探求する姿勢を地図帖づくりに喩え、カスティリオーニを「マップメーカー」と呼ぶ。多木もまたカスティリーニを巡る地図を描き出す。詩的で明晰な透明感ある文体は、カスティリオーニを読み解くキーワードとして挙げられている「透明」と重なり合う。作家論が作家の方法論と同化して、優れた自己言及性を持つテクストになっているのだ。

多木は演出家、アーティスト、翻訳家であり、デザイナーでもデザイン史家でもない。カスティリオーニが健康上の理由からスタジオで来られなくなった後、娘からスタジオ内部を記録するビデオ撮影をたまたま依頼されたのが、本書執筆のそもそもの始まりだったという。

著者は異邦人である。創作ジャンルにおいても、国籍においても──。それゆえテクストは自己言及的な同化に向かいながらも、必然的に異化が生じる。多木は、デザイン史という既成の地図の上に、カスティリオーニの仕事を布置する作業はしない。彼の仕事を、異分野の演出家ピーター・ブルックや音楽家ジョン・ケージ、小説家イタロ・カルヴィーノなどの創造精神と響き合うものとして位置づけることで、新しい地図を描き出す。そこがこの作家論の最大の収穫だ。

しかしそれは本書の限界でもある。デザイン史的考察を避けたことで、身振り、ドラマとしての空間体験、アノニマス、トータルデザイン、使い手の創意などを重視するカスティリオーニの姿勢は彼の独創でなく、モダンデザインを牽引した各国デザイナーが共有していた姿勢であることが見えにくくなっている。もちろん、モダニズムの共有精神を最も純粋な形で生涯実践しつづけた稀有な創造者がカスティリオーニであったことに間違いはないが……。英雄譚として語られる自分に、天国の本人が苦笑しているのではないだろうか。なにはともあれ良書である。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2009-07-02 18:52
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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