藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
2005年 05月 17日 ( 1 )
text & photo by Keiichiro Fujisaki

 
主体の転換(4)バラが光る。
ベランダのミニバラが咲いた。
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バラつながりで、再び倉俣史朗の「ミス・ブランチ」の話をしようと思う。「主体の転換」によってどうミス・ブランチを語るか、という4つ前の投稿の続編です。
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まずは、ミス・ブランチの話でなく、バラの話から始める。

バラに主体を置いたときにどんな表現が可能になるかを考えてみる。
表現は2つに大別できる。「動詞」を使った表現と、「形容詞」を使った表現だ。

●動詞による表現●
【事実の描写──能動表現】
バラがある。バラが咲く。バラが散る。バラが枯れる。バラが育つ。バラが繁茂する。バラが薫る。バラが雨に濡れる。
【事実の描写──受動的表現】
バラが植えられる。バラが育てられる。バラが摘まれる。
【詩的描写──能動表現】
バラが誘う。バラが戯れる。バラが舞う。バラが浮かぶ。バラが囁く。バラが語りかける。バラが微笑む。バラが涙する。バラが見つめる、バラが裏切る。バラがうつろう。バラが輝く。バラが歓喜する。バラが歌う。バラが光る。

●形容詞による表現●
【一般的性質】
バラは美しい。バラは傷みやすい。
【個体の性質】
そのバラはきれい。そのバラは赤い。そのバラは黄色い。そのバラは小さい。そのバラは大きい。そのバラはかぐわしい。そのバラはあでやかだ。高貴だ。気品がある。奥ゆかしい。神々しい。眩い。エロティックだ。エロい。淫靡だ。奇妙だ。可憐だ。愛らしい。麗しい。優雅だ。エレガントだ。かよわい。やさしい。貧弱だ。醜い。冷酷だ。非情だ。


ここで分かるのは──
(1) 受動表現は詩的描写に向いていない。
(2)「形容詞による表現」は事実の描写も詩的描写も同時に可能にする。
(3) 詩的描写は、形容詞のほうが語彙のバリエーションは多いが、動詞を使った方が表現に大胆さが出て、想像力を広げられる。

デザインを言葉で表現するノウハウとしては、おそらく(3)が最も大切な項目だろう。形容詞の羅列は本来、物書きにとっては禁じ手だ。
ファッションジャーナリズムにしばしば見受けられる、「シンプルで美しくエレガントで気品があってナチュラルでオーセンティック」といった形容詞の羅列が、いかに空疎が考えればいい。シックだの、エレガント、オーセンティックといった言葉のニュアンスは、ファッション業界に通じ共通の感性を持つ人たちだけが「わかる、わかる」と理解できる。閉ざされた言葉なのである。

クルマのデザインの叙述でも形容詞の羅列がしばしば行われる。高級車なら「卓越した操作性がもたらす上質な走り。威風堂々とした佇まい。スタイリングはけれん味がなく、ディテールは繊細で洗練されている。まさにプレミアム」と言ってしまえばいい。こうした表現は、想像力と解き放つというより、想像力の飛び立つ範囲を限定してしまっているような気がするのだが……。

形容詞より動詞のほうが、広く多くの人の想像力を喚起する。 
動詞を使ったときに浮かび上がるのは、人との関係である。バラを微笑ませるのは人のイマジネーションである。微笑むバラは人の心を映し出したもの。つまり見る人や作り手の心情の鏡になっている。

鏡をデザインする。それが詩的デザイン表現の深奥のような気がする。
物や環境に主体を置いた詩的表現を丹念に洗い出していくことで、“鏡としてのプロダクトや空間”が作り手や見る人の何を映し出すかがはっきりと見えてくる。

その実証がミス・ブランチなのだ。

ミス・ブランチは、先に挙げたバラの「動詞による詩的描写」のほとんどすべてを表現している。ミス・ブランチのバラはこう歌う。

バラは、誘い、戯れ、舞う。
微笑み、囁き、謎をかけ沈黙する。
歓喜し、拒絶し、涙して光る。
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Miss Blanche 1988 Design by Shiro Kuramata 某所にて撮影

text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2005-05-17 17:10


Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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