藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
2005年 09月 24日 ( 1 )
text & photo by Keiichiro Fujisaki

 
ディーター・ラムス@建仁寺
d0039955_181007.jpg京都へディーター・ラムスの講演会に行ってきました。

講演会は、9月23日〜10月23日、建仁寺で開催されている『ディーター・ラムス Less but better展』の初日に行われました。

京都の最古の禅寺で、今年73歳のドイツ現代デザインのマイスターがどんな展示インスタレーションを行うのか? どんな話をしてくれるのか? 期待は募るばかりです。
ラムスの仕事といえばブラウン社のプロダクトです。ラムスは1955年にブラウン社に入社して1997年退社するまでオーディオ、テレビ、調理器具、シェーバーなど数々の製品をデザインしました。現在も現役。最近はオフィス家具などのデザインをしています。脚が悪くて杖をついていたのですが、創造への意欲が体に漲っていました。その姿は導師です。
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建仁寺は日本に南宋の茶を伝え、禅を広めた栄西が開山した臨済宗建仁寺派大本山。祇園の花街に隣接。花見小路通りの南端に位置します。

三連休初日で、京都は人で賑わっていましたが、この寺まで来る観光客は少ない。修学旅行生もいません。広い境内は静寂が支配しています。僕は龍安寺や金閣寺を見てタクシーで建仁寺まで行ったのですが、運転手に「時間どれくらいかかりますか?」との質問すると「今日は競馬がないから、混まないな」との返答。意味不明です。行ってみて分かりました。場外馬券場が隣にあるのです。花街、WINS、禅寺。遊びの神髄、三役そろい踏みです。
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講演は建仁寺の大広間で行われました。禅の祖師の説法を聞く心地です。ラムスはデザイナーの社会的責任を語りました。先進工業国が自分たちの経済発展のためだけに競って地球資源を収奪し、市場へ製品を大量に送り出し、環境を汚染しつづけている世界の現状を憂い、デザイナーのなすべきことを力強く問いかけます。
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Less but better。より少なく、しかしより良く。──それがラムスのデザイン哲学です。
ミース・ファン・デル・ローエが語ったデザインの金言 Less is Moreと、響きは似ているが、意味は違うといいます。Less is Moreは「削れば削り込むほどより豊かなデザインを得ることができる」という意味です。一方、ラムスのLess but betterは意訳すると「より量は少なく、しかし品質のより良いもの!」となります。

Less is Moreはデザイン造形の秘法を説いた言葉ですが、Less but betterはデザイン倫理を問う言葉です。売れればいい。話題になればいい。みんなの欲しいものを作ればいい。人々の欲望を満たせばいい。いま自分たちだけ豊かになればいい。そんな思いだけでデザインされたものが世界に氾濫している。マーケットのニーズは本当の世界のニーズなのだろうか。「より少なく、しかしより良く」という言葉は、世界の現状から目を背け、甘い安寧の無関心の中でデザインをつづけるデザイナーの無責任な姿勢を糾弾する言葉なのです。
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ですからラムスは講演の最後、質疑応答の時間、「マーケティング優先は仕方ない」と語った質問者に対して、「マーケットの声を聞くことは確かに大切だが、今はただ、あまりに急速な消費のためのマーケティングになってしまっている。私たちが必要としているのはマーケティング戦略でなくビジョンだ」とガツンと切り返しました。
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講演の前半は原稿を読みながら進められたものでした。その原稿はこの展覧会のカタログに「Less but better」というタイトルで収録されています。東京に帰ってきて「あっ一字一句そのまんまじゃん」と気づいたのですが、やはり老師の口から発する言葉だったから、僕の脳に深く刻み込まれたのだと思います。いやぁ行ってよかった。
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ラムス自身による展示は、禅の思想や日本の美学をきちんと踏まえたもので好感が持てました。広間の真ん中に大きなテレビを置くようなことはなく、控えめで、暗がりを活かし、左右対称の配列をなるべく意識的に避けていました。

見た目がシンプルだから禅の空間と調和するという単純なものではありません。違和感もあります。風変わりでもあります。しかし、簡素の哲学が東西を近づけ、抑制の心が新旧を結びつけます。不完全な調和だからこそ、禅とモダンデザインの重なりが際立ち、未来へのビジョンが見えてくるのです。
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SK4 ブラウン社 1956年。ハンス・グジェロと共作。

ラジオ付きレコードプレイヤーSK4はやはり煌めいていました。ハンス・グジェロの代表作として知られますが、当時ブラウンに入ったばかりの若きラムスも共作者としてデザインに関わりました。ピュアで明晰です。完璧ですが息苦しさはありません。「白雪姫の棺」という愛称があります。機能を究めればメルヘンに至る──。機能主義の本当のあるべき姿がこの箱には眠っています。誰が美を呼び醒ますのか。優れたデザインは、機能が人を静かに誘い、デザインを愛する心が使い手を王子にします。

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※SK4の誕生話は『DesignNews』257号(2002年春号)「ハンス・グジェロ伝説」が詳しいです。Hans Gugelotの表記はグジュロー、ギュジュロ、ギュジョロと混乱あり。グゲロットは誤り。ここではグジェロにウルムで直接薫陶を受けた故・西沢健 GKデザイン機構 元社長が関わった『DesignNews』の上記の記事に表記を合わせます。

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スピーカーです。LE1 ブラウン社 1960年

【関連リンク】
建仁寺のホームページ。展覧会の場所・開館時間はここで確かめてください。

・東京ではブラウン展がアクシスギャラリーで現在開催中です(10月16日まで)。

・11月にも東京でラムス展があります。規模は小さめ。建仁寺のインスタレーションのパネル写真と、日本では紹介されることの少ないラムスの建築・インテリアの仕事を写真や図面で紹介。ラムス所有のプロダクトの実物も数点展示されるようです。ディーター・ラムスとドイツ新機能主義デザイン展。11月10日〜11月29日、リビングデザインセンターOZONE(6F リビングデザインギャラリー)にて。

でも京都に行くべきです。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2005-09-24 18:38


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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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