藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
2006年 04月 04日 ( 1 )
text & photo by Keiichiro Fujisaki

 
メタフィジカルなアナロジー
4月1日(土曜日)の話です。

15時から六本木のアクシスで、秋田道夫さんと越山篤さんの対談を聞きに行きました──のはずだったが、途中急遽進行役を務めることに。12時頃から花見があり、少々アルコールが入ってました。うう、大丈夫だろうか? ──大丈夫でした。

ソニーの越山さんが開発された球形ロボット「Q.」の素晴らしさを出来るだけ多くの人に知ってもらいたいと思っているので、話の引き出し役としてお手伝いできてうれしかったです。

とにかくQ.の知名度と評価はAIBOに比べて低すぎます。
もちろんAIBOはビジネスとしてロボットを成立させたという意味で画期的です。素晴らしいです。しかしロボットデザインとしての意義は、はるかにQ.のほうが上だと僕は確信しています。「準安定」(安定と不安定の間を行ったり来たりすること)というコンセプトをメタフィジカルなアプローチで徹底的にデザインしているからです。

コンセプトをデザインする方法には2つのアナロジー(類推)の方法論があります。メタフィジカルな次元のアナロジーと、イメージの次元のアナロジーデザインです。

AIBOはイメージの類推の典型的デザインです。犬や猫といったペットをイメージしている。仕草や学習といったプログラミングも外装もペットらしさをいかに表現するかが大きなテーマになっています。愛玩動物らしさの表出というのは、桃の産地だから桃の形をイメージした体育館をつくりましたといったデザイン手法と変わりがありません。大人の男性にふさわしいラグジュアリー感覚を表現したインテリアですとか、ロハスっぽさを狙ったとか、そんな感じです。

「※※みたいなデザイン」「△△をイメージしたデザイン」「××らしさを表現したデザイン」というのは王道です。誰にでもわかりやすいものを作るときや、趣味のはっきりしたターゲットを狙うときは有効に働きます。言われているほど軽薄なデザイン手法だとは思いません。

イメージの類推は、トップダウンよりボトムアップ、メジャーよりインディーズ、大量生産より少量多品目生産の時にその創造性を炸裂させます。秋葉原に行けばわかるはずです。萌えキャラが一見みな似てるのは、成功したキャラに似せてみながさまざまなバリエーションを描いていくアナロジカルなデザインの連続から生まれてきたものです。昆虫の進化の過程に似ているかもしれません。ガレージキットのメッカ、アキバのラジオ会館なんて巨大な標本箱のようですし。ル・コルビュジエはブリーズ・ソレイユやモデュロール、オンデュラトワール、屋上庭園、ピロティといった彼ならではのメタフィジカルな「言語」を創出しますが、それらは本人や継承者によって、まるで萌えキャラの触角のような前髪や猫耳のように使われていきます。バリエーションがバリエーションを生んでいくのです。

話を「Q.」に戻します。「Q.」には「♯♯のような」という類推がありません。ペットのようでも、人の似姿でもありません。球体です。

「Q.」はセグウェイにも使われている倒立振子の理論で動きます。安定が崩れてもダルマは再び安定状態に戻ります。わざと安定を崩しまた安定に戻る。その動きの繰り返しで「Q.」は移動していきます。安定と不安定の間を行き来する「準安定」の状態は行動パターンやコミュニケーションにも設定されています。だから撫でてあげたら喜ぶけれども、どういう喜び方をするかはわからない。声をかけても無視されることもある。どんな反応をするのか分からないのです。つまり行動に振幅が設定されている。まさに振り子です。

ここでは、振り子システムが、感情生成システムや運動システムなどに適用されています。どれも振り子みたいなシステムになっているのです。

「Q.」は、振り子のアナロジーをメタフィジカルな次元でどんどん広げていった結果生まれたのです。マリモみたいなとか、ダルマみたいなとか、ガンダムの「ハロ」みたいな(越山さんが否定してます)といった思考から、あの丸い形とユラユラとした動きが生まれたわけではないのです。

上位概念における類推だから、明確に「準安定」というコンセプトが定められ、それが形やプログラミングやインターフェースなど細部に行き渡る。

「Q.」の振り子は確定性と不確定性の間を揺れます。ある程度の予測はできるが、何が起こるか分からない。それは科学の本質にもつながります。

科学もテクノロジーも完璧であることは不可能です。宇宙の起源も地球の内部も人の脳もつねに「う〜ん結局わかんないじゃん」という部分から逃れることができない。絶対に墜落しない飛行機は作ることはできない。

しかしその不完全さは、倒壊の予兆ではありません。絶え間なく完全さを追求しつづける意思の表れです。欠けているから完璧なものを求めるのです。意思ある欠落には負のエントロピーが生じます。

未来を時計仕掛けの装置のように予測する不可能さを知り、完全さを諦めながら、一方で、完全さを追い求めること。そこに大きな振幅が生ずる。だから振り子なのです。諦念と執念の間の往復から人の豊かさが生まれます。振り子の原理が持つメタフィジカルな意味を表現することは、世界の豊穣さを示すことに他なりません。

「Q.」は、不完全と完全の間の揺れをゆるくてあいまいで危なっかしい行動で表現します。人の体温や声を感知したり、床の柔らかさによって動きを変えたり、机の上を落っこちそうで落ちなかったり……。「Q.」はつねに10点満点の演技を楽しむロボットではありません。おいコイツ大丈夫かよと思いながら、ついつい引きこまれていく存在が「Q.」なのです。

いつも完全さを求められる産業用ロボットは物悲しい存在です。ロボットは人間のためにいつも性能を余すことなく使うことを絶えず要求されているのだから。「使える=仕える」と人に思われているロボットは不幸です。ホンダのASIMOって博士号をとってて受付嬢しかやらせてもらえない人のようです。

セミナーでも言いましたが、「スターウォーズ」の第1話でルーク・スカイウォーカーがR2D2の記憶を解析すれば、物語は1話で済んでしまいます。あっ、あの黒いやつが俺のオヤジか、面倒なことになったなとか、レイアは妹、似てないじゃんとか……。ま、エピソード3のラストシーンでR2D2の記憶は消されていましたが、どこかにログが残っていても不思議じゃありません。

スターウォーズを2,3度見ると、R2D2がすべてを知ってて物語を展開させているように思えてきます。それはロボットのあるべき姿だと思います。主人のために短絡的に「役に立つ」のでなく、さらに大局的な見地に立っている。ルークはそのおかげでグレずに成長するわけで、最後は宇宙平和をもたらします。主人のプライドを汚さずに事の成り行きを巧みにナビゲートしてくれる。奴隷のように働いてくれるロボットも大切ですが、そんなのばかりだと強欲な人々に利用されるのは目に見えてます。

20世紀、プロダクトデザインは人に仕える道具しかデザインしませんでした。だから機能性が大事されたのです。しかし21世紀、テクノロジーが進み、人と対等な道具をデザインする時代になりつつあります。奴隷や愛玩動物としてのロボットでなく、パートナーをデザインする時代なのです。

その点では建築デザインは一歩も二歩も先に行ってます。人と対等、いやそれ以上の空間というものがあります。たとえば聖なるものと対峙する空間や、デモクラシーを体現した空間──たとえば、ル・コルビュジエのロンシャン礼拝堂とかルイス・カーンのバングラデシュ国会議事堂など。

そこでは人間以上に空間が知性を持っています。アクロポリスもピラミッドも、もし人類が地球上からいなくても、聖なるものとしてずっとその地に存在しつづけるはずです。

それが概念を形にする、メタフィジカルな次元でのデザインの力です。

「Q.」がアクロポリスに相応する、とまでは言いません。が、リファインを重ねれば、その可能性は広がります。そんなこんな、新しいデザインの可能性を僕は「Q.」に見ているのです。

「やさしさ」もきっとメタフィジカルな次元でデザインできるんです、きっと。

***************

この原稿は、2006年11月26日に大幅に書き換えています。
最初に書いていたのは、メタフィジカルとアナロジカルの対称性。
しかし、それは現象の次元のアナロジー、メタな次元でのアナロジーの対称性というべきものでした。目に見えない部分の機構や物の成り立ちの部分に類似を見つける思考は、発明の源です。それでタイトルから書き換えています。


【リンク】Q.については以前投稿したこちらの記事を読んで下さい。図版もあります。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-04-04 23:33 | Comments(0)


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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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