藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
2007年 05月 31日 ( 2 )
text & photo by Keiichiro Fujisaki

 
Exit to Safety 展
アクシスギャラリーの佐野さんから、「Exit to Safety ─デザインにできること」展(6/3まで)へ「忌憚のないご感想などお聞かせください」というメールをいただきました。ブログで話題にしようと思ってて忙しくて書きそびれていた展覧会なので感想をこちらに書きます。

同展はプロダクト、グラフィック、ファッションなどのジャンルの違う7組のデザイナーが震災被災者へのヒヤリングやワークショップを通して、都市型大地震に備えて「デザインにできること」を考え、制作した作品が中心に展示されています。それに加えて「地震EXPO」で行われた防災グッズのコンペ入賞作品も出品されています。

僕が行ったのは初日(5/15)でした。その後、法政大学院の僕の講義の学生に見に行ってもらい、先週、おのおの感想を言ってもらい、それぞれに僕がコメントしました。

1人の学生がこんな意見を言いました。「大地震が来たら、レジ袋を三角巾にするとか、コートをつなぎ合わせてテントにするとかって言われても、それどころじゃないでしょう」。うん、たしかにそうだ。しかし違う。

大地震を3つの段階に考えてみるといい。(1)地震が来た瞬間。 (2)地震の直後。 (3)とりあえず命は助かったけど、周囲は壊滅状態、さてどうすんのという段階。

地震が来た瞬間。きっとデザインは無力です。もちろん免震構造の建物を作ったり、タンスを倒れないようにしたり、ある程度の備えはできる。でも、予想を超えた事態は必ず起こる。今まで長年かけてデザインされてきたものが瞬時に崩壊する。それがこの段階です。

第2の地震の直後の段階。揺れはおさまるが、火災が起こり、多くの人たちが逃げまどい、倒壊した建物の下から怪我人が救助を求める。ほとんどの人がパニック状態で、いま自分がどういう状況に置かれているかも判断できない。しかし、ここで何ができるかが、被害をできる限り抑えるために非常に重要になります。

この段階への備えは、国や地方自治体が綿密に長い時間をかけて準備していく必要があるでしょう。建物の不燃化を進めたり、避難所とその経路を整備したり、救助態勢を整えたり、防災訓練をしたり、日頃から住民の防災への意識を高めたり、などなど。災害に強い都市づくりを進めるには、行政の強いリーダーシップが必要になります。デザインという言葉をあえて使うなら「インフラとしての防災をデザインする」という観点。この段階で「デザインにできること」は、行政を母体にし組織だった防災計画を進めることが中心になります。
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都市型大地震を想定し「デザインの視点から安全への出口を探すクリエイティブな展覧会」という Exit to Safety 展は、一見この第2段階をテーマにしているように思えます。非常口のピクトグラムのような、この展覧会のロゴが、必死で逃げている被災者たちの状況を思い起こさせますから。しかし「デザインにできること」が一番多いのは、おそらく第3段階だと思います。

実際 Exit to Safety 展に出品された作品もこの段階をテーマにしているものが多かったようです。「それどころじゃないでしょう」という段階を過ぎると、長い避難生活が待っています。ライフラインが寸断された中でどう暮らすか。まずどこで水や食糧を手に入れるか。

トイレだって最初はそこらですればいいじゃないか、って状況でしょう。しかし2日経ち3日経ち1週間経つとトイレの問題は深刻になってきます。衛生面の問題が生じますし、トイレのないことに女性は強いストレスを感じる人が多いでしょう。化粧をしないで人前に出ることを苦痛に感じる人もいるでしょう。1週間経てば誰だってシャワーを浴びたくなります。

時間が経つにつれて、生きるか死ぬかの問題は徐々に遠のき、被災者の心を癒したり、ストレスを軽減する配慮が大きな問題となっていきます。横になって寝られない人もいるでしょう。温かいものが食べられない人もいるでしょう。家族が見つからず途方に暮れている人もいるでしょう。この段階で「デザインができること」はかなりあると思います。コートをつなぎ合わせてテントしたり(眞田岳彦さんが同じことを同じ会場でより先鋭的な形で先にやっていたと思いますが)、傘を雨水を貯めるために利用したり、ケータイの電池をコイン型にして財布にずっと入れておいたり、そうした細かいけれども、確実にあったらいいと思えるものを提案できる、デザイナーの知恵が生かせるのは、きっとこの生きのびてからの段階です。仮設住宅だって改良の余地はたくさんありそうです。

Exit to Safety 展は、ブランディングや商品の差別化といったビジネス以外で「デザインにできること」がたくさん存在することを世間一般に知らしめ、デザイナーやデザイン学生にはその責務を再確認してもらう契機となる、非常に意義のある試みです。

しかし地震に際して「安全をデザインする」ことがこの展覧会のテーマであるように思わせてしまうタイトルやロゴが、デザイナーがやるべきことを少しぼやけたものにしてしまった感があります。「安全」をテーマにして、ヘルメットや免震構造や不燃材を出品する展覧会ではなかったわけですから。

「デザインにできること」は、むしろこの展覧会のメインビジュアルに使われていた写真に象徴されていたと思いました。阪神淡路大震災で倒壊した建物の前で子どもたちが屈託のない笑顔を見せる写真。「さあ、生きるぞ」って力。

地上にあるすべてのものが一瞬のうちに崩壊しても、人はまた道具をつくり家をつくる。それこそデザインという行為の根源的な状況です。それは生きることそのものに他なりません。財産を失い、家族を失い、自分の肉体や精神に傷を負った人たちに、さあ、また生きるぞって力を取り戻してもらうため、デザインは何ができるのか? 小さなこと、細かいことでも、できることはたくさんある。

この展覧会は、「デザインにできること」の重心がどこにあるか、少しはっきりしない部分があったために、「それどころじゃないでしょう」という意見を呼んでしまったのでしょう。安全のためのデザインなのか。生きる力を呼び戻すためのデザインなのか。そのあたりが明快だったら、もっと伝わりやすかったのに──。というのが僕の正直な感想です。

でも、続けてください。続けることに意義があるテーマですから。「地震」という超強敵に真っ向から挑んだデザイナーとキュレーターの勇敢さは、賞賛に値します。
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text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-05-31 15:29
 
5月29日(火)ミッドタウンのデザインハブへ「モビリティデザインの未来」と題された奥山清行氏と GKデザイン機構の石山篤氏のトークを聴きに行きました。バイクのデザインの話です。奥山さんはフェラーリなどを手がけたカーデザイナーですが、バイクのデザインも手がけたことがあるそうです。というか、本人いわく「バイクに関してはデザイナーというよりマニア」。16台バイクを持っていて、アメリカではオフロードレースに出場していたそうです。

名車ヤマハV-MAXなどを手がけた石山さんと、奥山さんは、デザイナーとして見つめている方向がほぼ重なり合っていました。奥山さんは、ミニマリズムの無駄を削り取った線を探し出しながら、でもその線には艶もあり、遊びもある。石山さんは、部品そのものを見せる還元主義的なデザインを目指しながら、そのエレメントの集合体はセクシーでエモーショナル。そして曼荼羅のように根源的な生命力が迸る。

──僕に言わせればバイクこそ冗長美の典型です。機能美ではないのは、機能主義から逸脱しているからです。機能主義しか許さない社会だったら大型バイクは真っ先に要らないものになるはずですから。それが機能主義的な顔をしている。でも無駄を削り落とせば落とすほど、存在自体が機能主義から逸脱してる、その逸脱の魅力が現れてくる。そんな機械だと思います。

奥山さんが絵を描くことの大切さを語る話も興味深かったです。ドローイングでは二次元上ですべて自分がコントロールしている。絵で完成させて粘土は主に検討に使うのが奥山流だそうです。イタリアでは、原寸モデルは粘土を盛って形を定めていくのではなく、エポキシ樹脂のパテの塊を削ることで、モデルをつくっていたとか。削るのだからやり直しがきかない。その緊張感が大切だと。ミケランジェロが大理石を彫る感覚に似ています。

トークが終わった後、懇親会がありました。奥山さん(赤い矢印)に名刺交換やサインをお願いする人が列をなしていました。まさに「旬」の人です。
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text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-05-31 12:57


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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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