藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
2007年 06月 16日 ( 2 )
text & photo by Keiichiro Fujisaki

 
地下通路のギャラリーはむずかしい
happi Tokyo Station展(6/17まで)を見に東京駅へ。丸ビルと新丸ビルの間に新しくできた「行幸地下通路」が会場です。参加デザイナーは五十嵐久枝さん、榎本文夫さん、小泉誠さん、寺田尚樹さん、南雲勝志さん、藤森泰司さん、村澤一晃さん、若杉浩一さん(内田洋行)の8名。仕掛人は内田洋行のデザインチーム。8名のデザイナーが4つのチームに分かれ、JR東日本、日立製作所、日本サムスン、内田洋行と4つの企業がコラボレーションし、4つのプロジェクトが発表しています。テーマは「結びのデザイン」です。
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どれも丹念なリサーチから始まっているので、提案に説得力があります。南雲勝志さんと藤森泰司さんとJR東日本研究開発センターフロンティアサービス研究所のプロジェクト「鉄結」は、千葉県にあるJR東日本久留里線の馬木田駅を題材に、これからの無人駅のあり方を提案するものでした。ベンチやユニット化された駅舎、そして運行情報や地域情報を流す「ITかかし」。いずれも絵空事でなく、現実性をもった、骨太の提案です。メンバーたちの本気度はこのプロジェクトのウェブサイトを開設していることからも伝わってきます。

五十嵐久枝さんと大治将典さんと内田洋行が提案する子どものための折りたたみできるマットやパーティションなどの家具もとても楽しく、もうすでに幼稚園にあってもおかしくないようなクオリティの高い提案です。

ただ、ITに絡めようとした地点で、現実味が薄くなる提案が多々見受けられました。日立ヒューマンインタクラションラボと榎本文夫さんと寺田尚樹さんの提案する4つのオフィステーブルは自然に人がITと接し、さらに人のぬくもりや自然の変化につながっていく、というものでした。MITメディアラボの石井裕さんが提唱する「タンジブルビット」の考え方を受け継いで、実際にオフィスで使われる製品としてその世界観を実現していこうとするものです。

しかし、いささかITを過信しているところがあります。手を置くと映像で波紋が出て、他の人と波紋が重なり合うから、ゆるいつながりの意識を高めるという口上には、「な、わけないじゃん」と誰かがちゃんとツッコミを入れるべきでしょう。「もしかして、つながれるかも。つながれば幸せ」というデザイナーの希望的観測だけで提案されたインターフェースが輝きを放っていた時代はもう過ぎています。逆に榎本文夫さんがギャラリートークで語っていたように「テーブルを題材に選んだ時点で、すでに結びのデザインというテーマは満たしている」という認識の上に立って、あえて木の模型でパーティションをつくって、“ゆるい拒絶” をデザインするほうが、よっぽど現代的なアプローチです。

デジカメで撮った大切な記憶を保存したSDカードをしまってネックレスにする木の箱をつくるという提案もありましたが、商品として考えると全く現実性の欠ける提案です。デザイナーの思いだけが先行してしまっている。大切なデータを入れたSDカードを木の箱に入れて引き出しの中にしまうということはあるかもしれませんが、木のペンダント型ボックスに入れて首からさげて持ち歩くというのは、現実にはありえません。木工所に行ってつくっていくプロセスの中にいろいろな発見があったからいいじゃないか、というのなら、作品を公に発表する必要もなく、実習型勉強会で終わらせればいい。

ITがあれば、情報や記憶が共有できて、みんなつながって、便利で安全で楽しい世の中になる、というオプティミスティックな世界観に距離を置いて、ITを使いこなす発想が今求められているような気がします。

……と辛口に書きましたが、ほとんどの作品が提案で終わらせるべきではないほど、よく練り込まれたクオリティが高いものです。見る価値はあります。
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が、会場がいただけません。結局「地下通路」です。誰に向けて作品を発表するべきかを計算して会場選びをするべきです。新丸ビルに来る客が流れてくるわけでもなく、内輪の人脈に対して勉強会の成果を発表するというイベントになっていました。

しっかりした成果をつくったのだから、ちゃんと世に知らしめるべきです。秋の東京デザイナーズウィークあたりで、海外のジャーナリストも迎えられるフォトジェニックな会場を借りて、もう一度発表し直したほうがいいじゃないでしょうか。じゃないと、もったいないです。


で、その後、銀座のgggで「廣村正彰 2D⇔3D」展へ。サイン計画などが中心。サイン計画の写真展示を見てると実物を見たくなりました。横須賀美術館に行こぅ!
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-06-16 23:05 | Comments(2)
 
エイドリアン・フォーティー公開講義
昨日(6/15)東大へ『言葉と建築』『欲望のオブジェ』などの著書で知られるロンドン大学バートレット校教授エイドリアン・フォーティー氏の公開講義を聴きに行きました。講演のテーマはアーキテクチュラル・インパーフェクション(建築における不完全性)です。

フォーティー氏は、コンクリートは不完全なる素材と問題提起した上で、まず西洋における完全性・不完全性の系譜をサクッと説き明かします。自然と芸術を区別し、自然を不完全なものとし、そこに完全性をもたらすのが芸術としたアリストテレスから、人を圧倒する不完全性に崇高さを見出した偽ロンギヌスの『崇高論』へ、そしてゴシック建築のサベージネス(獰猛さ=行き当たりばったりが生んだ破調の美とでも言いましょうか)に美を見出したラスキンを語ります。

近代建築のコンクリートの不完全さの例として、二人の巨匠の例が挙がりました。ラ・トゥーレット修道院やユニテ・ダビタシオンに見られるコルビュジエのコンクリートの粗野さ。もうひとつはコンクリートの仕上げに非常にこだわったルイス・カーンのソーク研究所の壁面に現れるコンクリートのシミや小穴。フォーティー氏はそれを偶発的不完全性と語ります。

超訳的な解釈を交えて書きます。コルビュジエにしてもカーンにしてもその建築には建築全体をコントロールしようとする確固たる意思が存在します。しかしコンクリートはその素材の性格上、人の意思が届ききらない部分がある。名品にはそこに幸運の偶然(ハッピーアクシデント)が現れる。必然と偶然の接する境目に、コンクリートの本質を見るわけです。

さて、ここでという感じで、ビール缶の写真が出てきます。日用の工業製品は完全だというわけです。産業プロダクトはどれも機能的にも完全であることが求められる。もし新車を買って少しでも傷がついていたら、返品しますよね、と。大量生産の日用品との対比の中で、建築は工業的でありながら、完全に産業プロダクトになりきれず、むしろ工芸的な側面があることを、フォーティー氏は浮き彫りにしていきます。

さらに、不完全性に根ざした素材でありながらコンクリートを、現代の建築家がそれを完全な素材として扱おうとする努力する傾向を指摘し、その理由を分析していきます。そしてフランス人建築家ポール・ボッサールの仕事を例に、コンクリートの不完全性を利用するクリティカル(批評的な)使い方が産業社会への批評となることを語ります。

コンクリートをインパーフェクトマテリアル(不完全なる素材)というより、クリティカルマテリアルといったほうが、フォーティー氏の論点が分かりやすくなると思いました。完全性と不完全性を行き来できる素材であり、その自由さゆえ、そこに批評や時代精神が、時に意図的に、時に偶発的に現れる、というわけですから。

他にゴダールの映画を引用したり、ロン・アラッドのコンクリートステレオが出てきたり、フォーティー氏の話は知的な刺激に溢れるものでした。で、フォーティー氏の示す枠組みの中に、日本をどう位置づけていくか、考えながら聴いていて、僕はトヨタを思いました。

フォーティー氏は不完全性の一例として「楽焼」を挙げていました。言うまでもなく日本には、利休の茶道など不完全性に美を見出す伝統があります。しかし日本にはトヨタもある。機能の完全性を追求するインダストリーの究極の姿です。製品だけでなく製造工程まですべてのディテールがパーフェクト。日本って、もしかして完全性への意志においても不完全性への意志においても世界的に傑出した特異な国なのかもしれません。それはそれで西洋の系譜とは違った枠組みが描けそう。そんなこと講演の帰りに思いました。



* 公開講義で貴重な講演を聴く機会をつくっていただいた東京大学工学部建築学科の方々に感謝いたします。

**************
おまけ。東大工学部でテポドン発見。
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text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-06-16 11:26 | Comments(0)


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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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