藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
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text & photo by Keiichiro Fujisaki

 
東工大のオープンキャンパス
秋晴れなんで、近所の東工大へ、工大祭&オープンキャンパスを見に行きました。こんなツアーに参加しました。
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ジョギングしてるとき外から見ていた施設の中にこんなものがあったとは! 興味深いツアーでした。
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陽子を加速してリチウムに当て中性子を発生させる機械です。1974年生まれですがしっかり現役です。
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沸騰した水で鉛ビスマスを循環させる熱流体の実験装置。高速増殖炉で使う技術だそうです。もんじゅなどで使われているナトリウムを使うものとは別の技術です。
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ふだんあまり関わる機会のない研究を中心に見に行きました。情報工学系の研究室ではバイオインフォマティクスの説明を聞きました。
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さすが東工大。模擬店も斬新です。建築系の学生が作ったとのこと。
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自動車部の駐車場にはスバル マイヤーK2/2型の1960年式がありました。フランス・マルセーユからモスクワまで走破したクルマだそうです。
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今年のグッドデザイン金賞の緑が丘1号館も見に行きました。耐震補強工事に併せて、風を呼び寄せながら陽射しを和らげるルーバーをつけ、エコロジーにも配慮。清新なファサードを生み出しています。
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背面を見ると元の状態がどんなだったか推察できます。古い何の変哲のない建物を、限られた予算の中で、強度、環境性能、外装デザインの面で再生されたもの。実際見ると金賞にしては地味ですが、渋谷駅のハチ公口もガラスのファサードでリノベーションしていたし、1960〜70年代に建てられたビル再生は今後の日本の大きな課題であり、その指針となる技術ということでしょう。

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近所の子供や、進路を考えている高校生がたくさん来ていました。半日ではぜんぜんすべての研究室を回りきれませんでした。来年も行こっ。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-10-29 00:58
 
リッチズさんの演奏機械
東大・駒場博物館で開催されている「機械じかけの音楽── Musica ex Machina」展(12/2まで)へ、ドイツ在住イギリス人アーティスト、マーティン・リッチズさんの作品を見に行きました。
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行ったのは初日の19日。アップするのが遅くなりました。展覧会は音楽と機械の関係の歴史をテーマにしたものですが、メインの展示としてリッチズさんの作品が7点(だったかな)展示されています。

機械のオルタナティブとでもいいましょうか。リッチズさんの作品は機械をテーマにしたものですが、いま私たちの身の回りにある機械とは違った種類の機械です。現代の機械の祖型でありながら、主流からは外れた機械たち──演奏機械、振り子時計、機械式計算機、黎明期のコンピュータ。自動機械づくりは、魔術的な行為であり、神の御業を人が真似ることでもありました。機械は日用品でなく、ミクロコスモスだったのです。リッチズさんは、いにしえから続く「ミクロコスモスとしての機械」の系譜を現代に受け継ぐ作業を、黙々とベルリンのアトリエにこもりながら続けています。

もともと、リッチズさんの作品に魅せられた東大のヘルマン・ゴチェフスキ准教授が、リッチズさんを日本に招聘して個展を行いたかったけれども、東大の博物館では「個人の展覧会」を行うことができず、それならと、話をさらに膨らませて「音楽文化における機械の役割とその歴史」に関する展覧会にしたものです。リッチズさんの展示以外にも興味深い資料が並びます。

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リッチズさんと作曲家三輪真弘さんとのコラボレーション作品。今回の展覧会のために制作。ゲームセンターのピンボールみたいに偶然が作用する機械のように見えますが、偶然の要素はなく、すべて蛇居拳算(じゃいけんざん)というアルゴリズムにコントロールされた自動演奏機械。蛇居拳算は、日本人の高橋jaiさんの開発したもの。グーとチョキなら、チョキの勝ちというのがふつうのジャンケン。蛇居拳算は勝ち負けでなく、2人がグーとチョキを出したら「パー」が答え。チョキとパーなら「グー」。つまり2人が違うものを出したら、それ以外のものが演算の答えとなります。2人が同じものを出したら同じものが答え。つまりパーとパーなら「パー」となります。このアルゴリズムを自動演奏機械に応用。三輪さんは蛇居拳算のアルゴリズムを使って作曲を行っており、そのシステムをリッチズさんに伝えて、この作品を完成させたとのことです。

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18世紀のセリネットは、カナリヤといっしょに演奏した手回しオルガンの一種。それを現代に蘇らせたもの。

作家がいなくても自動演奏する作品もありますが、リッチズさん本人に動かしてもらわないと音が鳴らないものがあります。リッチズさんは会期中ずっと日本にいて、大学の用事などがない限り、なるべく会場にいると話していました。会場で見かけたら、ぜひ演奏をリクエストしましょう。ひじょうに寡黙な人物なので、自分からハーイ、演奏しましょうかって声をかけてくることはないでしょう。時代を超えた音の体験ができるはずです。

東京大学駒場博物館は火曜日休館なのでご注意を。京王井の頭線・駒場東大前下車。開館10時〜18時。入館無料。12月1日18時から、記念コンサートあり。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-10-28 11:48
 
うわっ、×××様だ
都現美へ「SPACE F0R Y0UR FUTURE ア─トとデザインの遺伝子を組替える」展(1/20まで)のオープニングレセプションへ行ってきました。
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タナ力ノリユキさんは、エリ力様が100のキャラクターを演じた写真を大壁面いっぱいに展示していました。で、生エリ力様。左端で、あの人と同伴です。

建築家、石上純也さんの作品がおもしろかった。
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4階建て分の四角いアルミのバルーンがヘリウムガスで浮いてます。重さ1トンあるそうです。空飛ぶ巨大構造体──。どうやってこれを吹き抜け空間に入れたのでしょうか。併せて展示されていた石上さんの小品も良かった。来年のヴェネチア建築ビエンナーレの日本代表。今最もノッてる人ですね。

2階に展示されていた嶺脇美貴子さんの作品にも惹かれました。ガンプラや漆器や縦笛や水鉄砲が、ネックレスなどアクセサリーに変わっていました。小さな驚きがたくさんある。「あっこれiBookから出来てるんだ」とか、見る人の会話を生んでました。

図書室のD-BROSの植原亮輔さんと渡邉良重さんの、古書の上に蝶がのった作品もいい。標本箱のイメージと図書室のイメージが重なり合い、ここがアーカイブとしてのミュージアムでもあることを思い起こさせます。空間と対話するのは現代美術の展覧会では当たり前のことです。しかし他の多くの作品が空間の形や機能と対話していたのに対して、彼らの作品は空間のキャラクターと対話していました。3階のエルネスト・ネトの人間を包み込むソフトスカルプチャーも楽しいです。椅子か服か。ぜひご体験あれ。

誰が現代美術家か、誰がデザイナーか、いちいち考えないで作品を見てました。34組も出品していますから、ハズしてるなと思う作品もありました。空間を生かし切れないと展示スペースの広さだけが目立ってしまいます。

20世紀には、アートとデザインの間の境界に高い壁があって、それを飛び越えるのには力一杯ジャンプしなくちゃいけないと、多くの人が思ってました。デザイナーが画家として画業に専念するには、横尾忠則さんのように「アーティスト宣言」をする必要があった。既成のアートやデザインの枠組みから逃れてようと、若者たちがアートとデザインの国境周辺に集まりました。1980年代日グラ展などに出品する若いクリエーターたちをデザイン難民と呼んだりしました。アート難民という言い方もあります。国境管理が厳しいから、難民なんて言葉が使われたのです。

21世紀、自然体で壁の中をスッと通り抜けることのできる人たちが現れてきました。日常業務としてのデザインは、もちろんアートと違いますから、壁が崩れたわけではありません。が、壁は気合いを入れてジャンプしなくても、通り抜けられたのです。軽やかに行き来する人たちが増え、壁周辺の光景は大きく変わり、難民問題は過去のものになった。そのことが実感できる展覧会です。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-10-27 00:14
 
今年のグッドデザイン大賞は…
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これでした。
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三洋電機のエネループ・ユニバース・プロダクツ(eneloop universe products)。エネループは去年、金賞を受賞しています。去年は先進の環境技術にふさわしい、白と青の清潔感のある外装およびパッケージデザインに統一されたブランディングが評価されたのですが、今年は、きめの細かい配慮に基づいた製品企画力と、エコという基軸からブレることなく製品ラインナップを広げていくブランド展開力が支持されたようです。ガンバレSANYOというエールもずいぶん大賞の中に入っているような。

大賞授賞に異存はありません。ただ、欲しいかと問われれば、考えてしまいます。いいものだと分かっていても…。あっ絶対これ欲しい!と思わせる何かが少しばかり欠けている気がするけど。

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欲しいなって言ったらコレです。大賞授賞式会場に展示されていた、ホンダの小型ビジネスジェット機 HondaJetがかっこよかった。この模型は授賞式のために、アメリカからわざわざ持ってきたものだとか。昨年から受注が開始されていて、実機が購買者のもとに届くのは2010年。量産型が空をホントに飛ぶようになったら、もう1回エントリーしてもらいたいな。

ちなみに、Wikipediaによると、一号機は黒川紀章さんに渡される予定だったとか。

もうひとつ、ちなみに、一番上の写真の一番左は、プレゼンテーターの荻原健司さん。ノルディック複合の元王者は、いま経産省大臣政務官なんですね。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-10-26 01:31
 
危機管理産業展2007
10/19(金)東京ビッグサイトへ最終日だった「危機管理産業展2007」を見に行きました。
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おっ、まさに攻殻機動隊。


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今回の一番の収穫はこれでした。NTTコムウェアのタンジブル災害情報管理システムです。テーブル上の円形のパック(操作用駒)を使って操作します。パックを回すと地図が拡大・縮小します。アイコンの上に置くと、その場所の災害現場の様子を伝える映像が見られます。パックの中央のポッチを押すと、通信などさらなる操作のためのコマンドが現れます。複数のパックが用意されていて、同時に複数の人たちが操作可能です。
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映像を投影したテーブル上の「駒」で操作する直感的インターフェース。これはどこかで見たような…、しかもネーミングには「タンジブル」……。「もしや」と思って質問してみました。思ったとおり、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの石井裕教授との共同研究でした。NTTコムウェアの研究員がMITの石井さんのもとに留学して、開発に当たったそうです。災害救援部隊の位置を地図上で把握でき、連絡をとりたい救援部隊のアイコンにパックを置くと映像を交えた通信が可能。地図を見ながら移動の指示が行える。2000年ICCで石井さんの展覧会がありましたが、彼の提唱する「タンジブル・ビット」はその頃に比べて、「実用」に向けてますます進化しているようです。NTTコムウェアでは同じプラットフォームでビジネス用システムも開発しています。軍事演習などにも転用可能でしょう。

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閉鎖空間内高速走行探査群ロボット。東北大学田所研究室が開発するレスキューロボットです。ロボット本体(探査ロボットKenaf)は、千葉工業大学などが開発したものです。半自律で走行。進行方向やスピードを指示すると、後はロボットが自分で路面の形状を判断して進んでいく。電波の届かない地下街などで、複数のロボットを遠隔操作する技術がポイント。まず無線LANのアクセスポイントとなるケーブルをロボットが敷設し、そこから情報を送受信して複数のロボットが連携して、被災現場の情報収集に当たる実験を行っているとのことです。
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ニョロニョロと進んでいく「能動スコープカメラ」。東北大田所研究室が開発したものです。ケーブルにはタワシのようなケバケバがつき、等間隔につけられたバイブレーターによる振動によって、ケーブル自体がスキマへスキマへ進んでいきます。

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こちらは三菱電機特機システムから商品化された小型クローラ移動ロボット「FRIGO-M」。すっきりしたスタイリングにまとまっています。
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小回りの利く素速い動きが印象的でした。小型なので大きな瓦礫の走行は不得手そうですが、工場で有毒ガスが漏れた場合など、人に先だって情報収集したり、床下の点検、車底の感知などに使えるとこのことです。

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アメリカ陸軍が採用しているPackBot。iRobot社の製品。
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総代理店はいま何かと話題の山田洋行。イラクやアフガニスタンなどで1000台以上使われているそうです。地面に落としたドライバーを取って観客に手渡すパフォーマンスをやってました。
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遠隔操作するオジサンです。コントローラーはゲーム機のもの。カタログだとほぼPS2のコントローラー。今回の展示会では十字ボタンのない仕様のものが使われていました。戦争のゲーム化って本当ですね。

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災害時の仮設トイレ。ポイントは、し尿(大小便)をパウダーにしてしまう技術。パウダレットという商品です。
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バケツの中に薬品を入れてかき混ぜると、無臭の粉末になります。家族標準パック(台座・肘なしや混ぜる機構付きの本体と薬剤60袋など)で価格15万円は、いささか高いような気がします。大企業などは災害用の備品として予算を組んで大量に買えるでしょうが、一般家庭でももっと気軽に買える値段にして欲しいです。超高層マンションに住んでいる人など、水が止まって下へも降りれず孤立するといったことがありえますから。
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他にもダンボール製シェルターや避難所用の衝立など、震災対策の製品がいろいろ出品されていました。アクシスギャラリーでExit to Safty展が行われるなど、防災やセキュリティに対する「デザインにできること」への関心が高まりつつありますが、展示会に出品されている商品全般を見れば、まだまだたくさんデザインにできることがある、と感じました。この製品は頼れるなと思わせたり、心理的なストレスをやわらげるような、安心や信頼感のためのひと工夫をするのはデザイナーが得意とするところだと思いますから。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-10-22 10:56
 
同潤会三ノ輪アパート
1928年(昭和3年)に建築されたもの。79歳ですね。2007年10月4日に撮影。立ち入り禁止になっていました。
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たまたま通りかかりました。
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ネットで調べたら2006年解体予定だったようです。
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立体構成がモダニズムしています。壁面はボロボロです。
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写真が歪んでいるのでなく、壁が歪んでいます。
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ダストシュートがありました。心が痛くなるくらいの老兵の最期の姿です。
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周りには町工場がたくさんありました。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-10-19 11:42
 
店構え
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お墓参りの帰り、ぶらぶらと三重県松阪市を徘徊していたら、たまたま出会ったステキなお店。鍋やネジのアイコンにご注目ください。モダンですが、レトロです。このアイコンと伝統的な商家の佇まいが、レトロどうしでコントラストをなしている。文化遺産ですね。現役で商売しているというのも素晴らしい。郵便ポストが色彩的も存在感的もアクセントになっている。シースルーの看板、3桁の電話番号、魅せられました。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-10-15 22:37
 
地球温暖化について
アル・ゴアがノーベル平和賞を受賞しました。

『デザインの現場』8月号の、僕の小さな連載で「サステナブルデザイン」に関するコラムを書きました。800字という枠では、とても書ききれないことがありました。地球温暖化とは何が問題なのかという話の詳細です。ゴアのニュースを見て、書きたくなった。で、記事を大幅に改変してアップします。

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アル・ゴアの映画「不都合な真実」はよく出来た映画です。映画館を出ると、地球温暖化は深刻の問題だ、出来ることからなんとかしなくちゃ、と思うようになります。しかしこの問題をよく考えると、いったい何が危機に晒されているか、という問題に突き当たります。危機に瀕しているのは、地球なのか、生命なのか、人類なのか、現代世界の政治経済システムなのか。リチャード・フォーティ著の『生命40億年全史』を読むと、 気候変動は、46億年前の地球創成以来の日常茶飯事で、生命は寒冷化や温暖化の繰り返しの中で、しぶとく生き残ってきたことがよく分かります。

このまま現在の温暖化が続けば、砂漠化が進み、島が水没し、多くの人たちが生活の場を失うことになるでしょう。しかし人類はごく最近まで、今まで住んでいた土地に暮らせなくなると移住をしました。宗教的迫害や、土地が痩せたり天災に遭ったりといったさまざまな事情があったはずです。つい100年前でさえ、アメリカへ向けて多くの移民が海を渡ったのです。

もちろん移住には苦難が付きものだったでしょう。命を落とした人も多かったでしょう。闘いもあったでしょう。しかし、安住の地を自分たちの力で見つける権利がありました。

しかし、それが今できなくなっている。今まで暮らしていた土地を離れ、国境を越えようとする人たちは「難民」や「不法移民」のレッテルが貼られます。

現在の国境は、ふたつの異なる政治体制の境界を意味するだけではないのです。経済格差の境界線でもあります。富める国は、国境を越えて、貧しい国の人々が永住の地を求めて自国に流れ込んでくるのを極力避けようとしています。歓迎されるのは莫大な税金を支払うことのできる者たちだけです。

海外旅行がかなり自由にできるようになったので、私たちには移動の自由があると勘違いしがちです。実際には、何人たりとも国家の許可がない限り、国境を越えることはできません。EUにしても、富める国どうしがさらなる富を求めて国家どうしで契約して、移動の自由を保障しているにすぎません。

国境は柔軟さを失いつつあります。かつて国境は国家にとって辺境の地にあり、そこには、首都で権力を握る人々と違う民族が暮らしていることも多くあります。国境を挟んで同じ民族が暮らしていることもある。

しかし国境が厳格に管理されるようになると、人々の往来もままならなくなり、辺境の民族たちは分断される。そこで辺境の民族は、自分たちの新しい国家を求めて独立運動を興す。既存の国家はそれをテロと呼んで弾圧しようとする……。

地球温暖化の中心的な問題は、柔軟さを失った国境に囲われた近代国家が、気候変動に対して機能不全を起こしつつあることです。自由主義経済が地球規模に広がりグローバリゼーションが進めば進むほど、各国家は軍事力を増強させています。

自由な経済活動は世界中の人々の欲望を解放すると同時に、世界中の人々を際限なく富のあるところに富を集中させるシステムの中に組み入れてしまいます。経済強者が自由に国境を越えて活動するためには、欲望を解放された貧困層が自由に国境を越えたり、情報化された辺境の民が自由と独立を求めることに対して歯止めをかけて、システムを安定化させなければなりません。そのために軍事力が強化され、国境はますます強化されています。

地球温暖化は国境を不安定化させる重大な危険因子ですが、テロや独立運動のように軍事力や暴力で抑制することができません。ならば、どうやって国境を守るのか? こうした視点から見ると、地球温暖化はきわめて複雑な政治問題なのです。浮かび上がってくる本質的な問題は、経済成長のサステナビリティ(持続可能性)の背後にある、国境のサステナビリティ、近代国家のサステナビリティなのです。

テロリストたちだけが、アメリカの軍事的覇権を背景に全世界的に広まった自由主義経済(市場主義経済)を脅かすものではない。だから政治家ゴアが生涯を賭けて、地球温暖化問題に取り組んでいるのです。

アメリカをはじめ自由主義経済の恩恵を独占している国家が困るのは、気候変動によって国境が不安定なものとなり、民族が移動を始めて、「自由」が抑制不能のものとなり、グローバリズムと民族主義国家の危ういバランスを保っている世界のシステムが崩壊してしまうことなのです。

繰り返します。地球温暖化問題は政治問題です。危機に瀕しているのは、地球ではなく、国家です。急激な気候変動が起こると、近代国家のシステムではその被害に遭う人たちを救うことができず、現在、自由主義経済システムと危ういバランスを保ちながら、曲がりなりにも安定している世界の政治システムを揺るがしてしまうことになりかねないのです。

しかし映画「不都合な真実」は、地球や人類の危機といった抽象的な不安に言い換えて、近代国家の機能不全という本当の不都合な真実から、衆人の目をそらしている面があるように思います。それがあの映画の口当たりの良さとなっている。ゴアは政治家ですから──しかも世界の覇権を握る国家の大統領にもう少しで手の届いた人物ですから──、本当の不都合な真実を語るわけがありません。

同じような口当たりの良さは「サステナブルデザイン」という言葉にも感じます。誰にとってのサステナブルなのか。持続可能の経済成長の恩恵を受けるのは誰なのかを議論しないで、この言葉を喧伝する人たちは胡散臭い。

議論なきサステナブルデザインは、近代国家のあり方を問う根本的な政治問題を、「もっと皆さん地球のことを考えましょう」という善意の問題に巧みにすり替えてしまいます。企業や個人の自覚と努力と工夫で地球温暖化は抑えられる。やらないアナタが悪い。さあ、実行実行と──。「地球のためにできること」といったほうが「国家のためにできること」というよりも断然口当たりがいいわけです。

誤解しないでいただきたいのですが、僕は、地球温暖化の防止のために何もしないでいい、なんてことは思っていません。CO2排出削減は急務と考えます。急激な温暖化は一人ひとりの生活者が、企業が、地域コミュニティが、国家が知恵を出し合い、行動を起こすことで、抑えていかなければならない問題です。僕も電気をこまめに切ることやゴミを減らすことから努力していきたいし。

しかし、問題の本質を明らかにせず、不安を掻き立て、人々の善意でこの問題を解決しようとする動きには、抵抗を感じるのです。一般の人々が、国家のあり方に疑念を呈してもらっては困るからといって、「地球のために」と善意を呼びかけ対症療法だけ行っても、地球温暖化問題は解決しないでしょう。世界の政治システムの機能不全を論議しないサステナビリティは、問題の先送りでしかありません。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-10-14 18:22 | お気に入りの過去記事
 
熊野へ
熊野古道伊勢路の途中から旅を始めました。
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馬越峠を越えて尾鷲へ。石畳が美しい。けど、延々続くと足がガクガクになります。
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ユネスコ世界遺産指定への抗議の声もありました。林業関係の方のようです。八鬼山にて。
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賀田の港。ここで2泊目。
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曽根次郎坂・太郎坂にて。トレッキングシューズじゃなかったので、雨の石畳に足を滑らせているうちに、膝が壊れる。。この峠をなんとか下るものの、以降の峠の踏破は断念。電車で熊野市へ。
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熊野市の花の窟(いわや)神社。この高さ70mの岩がご神体。伊弉冉尊(いざなみのみこと)が、海を望むこの岩で葬られたと言われています。日の丸の扇子とか吊されています。ここから熊野。死者の国、蘇りの地です。平坦なら歩けるので、熊野速玉神社のある新宮へ、22キロ一気に歩きました。
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新宮で泊まり、翌朝、熊野三山のひとつ熊野速玉神社へ。
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熊野本宮大社へは新宮からバスで1時間半。ホント山奥でした。速玉の朱の社殿と対照的な檜皮(ひわだ)葺きの社殿。海と山の対比なのでしょうか。
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大斎原(おおゆのはら)。本宮大社から歩いて5分ほど。熊野川の中洲だったところにあり、明治22年の大洪水まで大社があったところです。凛とした空気に包まれた聖地です。
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大斎原の前には近年になって建造された巨大な鳥居がありました。
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大斎原のすぐ脇を流れる熊野川では投網をしている人がいました。
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大斎原の参道には烏がいました。まさに熊野。物の本には、古代日本では鳥葬が行われ、屍肉に群がり死者の魂を運ぶ烏への信仰から、八咫烏の伝説につながったとあります。東京の烏となんか違うような。
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新宮でもう一泊し、早朝電車で那智へ。膝もだいぶ良くなって、那智駅から2時間半歩きました。子どもの時から憧れていた滝に出会えて、ただただ感動。
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滝の前の祭壇。
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熊野は遠かったです。けど、峠からケータイで宿も予約できるし、人里には自動販売機があって飲み物は困らないし、尾鷲ではジャスコで雨具を買ったし、新宮ではリーバイスのジーンズを買ったし、どこも全然日本です。でも、東京に着いたら、外国出張から帰ったような気になりました。日本を旅して、こんな気分になったのは初めてです。山手線に乗っていた人たちの顔色がみんな青白く見えて、スーツ姿が黒装束のようで、どちらが死者の国かわからない。また行きます、熊野へ。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-10-12 19:17
 
レーモンド展&カバコフ展
神奈川県立近代美術館ツアーをしてきました。鎌倉でレーモンド展、葉山でイリヤ・カバコフ展。二館巡ると、一日がかりになってしまいますね。アントニン&ノエミ・レーモンド展(〜10/21まで)は、霊南坂の自邸の模型や、リーダーズダイジェスト東京支社の断面模型などをじっくり見ました。妻のノエミの家具やテキスタイルの仕事にもきちんとファーカスを当てているのはとてもいいことだと思いました。

レーモンドの良作はまだ残っているものが多いのでとにかく実作を見に行くことをおすすめしまます。笄町の自邸はもうありませんが、その設計を左右反転して公認コピーした井上房一郎邸(現・高崎哲学堂)は高崎の駅前にある。同じ高崎の群馬音楽センターは蛇腹の構造が実に斬新です。目黒のドレメの向かいの聖アンセルム教会は、素晴らしい空間です。あれここ東京だっけって思ってしまいます。東京女子大も一部取り壊されているけど、礼拝堂は美しく健在。星薬科大学、それに立教高校(ここは入るのに許可が要るけど)も……、ホントいい建物が残ってます。

レーモンド展へ行くのに先立ち、前日、自転車で世田谷の松陰神社の近くにある、東京聖十字教会へ行きました。こぢんまりした教会ですが、集成材の骨格で、箱舟を逆さにしたような大空間を作り出しています。外から見ると馬小屋をイメージしたようにも見える魅力的な建物です。
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葉山のイリヤ・カバコフ展は非常に良い展覧会でした。カバコフは巨大なインスタレーションで知られる現代美術作家ですが、今回は絵本原画展です。カバコフはソ連時代、.80年代末まで、挿絵画家として生計を立てていたのです。ソ連は厳しく芸術家たちの表現を統制しました。特に教育的な目的のある絵本の検閲は厳しく、カバコフにとって、ソ連時代の挿絵は、自分で描いたものだけれども、国家によって描かされたもの、という意識が強くあるようにです。イデオロギーから逃れられない内容であることは事実ですが、とにかくカバコフは絵がうまい! 

色彩感覚は絶品です。インクのモノクロ線画を見て、僕はレンブラントの銅版画を思い起こしました。どんな微細な線も生き生きしているのです。驚きでした。線が生きているというのは、どういうことか分かったような気がしました。跳ねているとか、エネルギッシュな線ということではないのです。どんなに描き込んだ絵でも、無駄な線が一本もない。線一本一本が全体を構成する重要な要素になっている。絵という生命(いのち)のために、線が生きているのです。

絵本やイラストレーションに携わる人、その世界に憧れる人は、必見の展覧会だと思います。もちろん現代美術作家、カバコフのルーツを知りたい人にも興味深い内容のはず。今日は土曜日なのに、会場はやや寂しかった。もっともっと人が入るべき展覧会だと思います。
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葉山の夕暮れの海に癒されました。波をかぶって足はビショビショになりましたが……。明日から熊野古道を歩きに行きます。更新はしばしお休みになります。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-10-06 23:54


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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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