藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
water展の34番
21_21デザインサイトへ「water」展(〜1/14まで)のオープニングに行ってきました。
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オープニングのように人がたくさんいてワサワサしている時に見る展覧会ではありませんでした。静かに「水」と向き合わないと、展覧会の味わいが半減します。

デザインの展覧会だと思って行かないほうがいいでしょう。佐藤卓さんのディレクションだからグラフィックデザインが見たいとか、最先端クリエーターによる服飾デザインやプロダクトデザインが見たいという人には薦めません。チョコレート展の時のようにデザイナーならではの遊び心を楽しむというのとも違います。

大きなインスタレーションだけを足早に見るだけだと、大味な現代美術展のように思えるでしょう。スパイスは小品にあります。作品と向き合うというより、作品を通して「水と向き合う」心の余裕がないと、この展覧会は楽しめないでしょう。個人的な趣味でいえば、石元泰博さんの写真がよかったなあ。

会場には35点の作品が展示されています。ひとつひとつ探すのがいいと思います。会場では作品解説のチラシが配られています。34番の作品には、こう書かれていました。「さて、これはどこに展示してあるのでしょうか? それは秘密です。偶然見つけても、ぜったい黙っていてください。」 

探しました。オープニング会場で必死に探していたのは、うちの夫婦だけだったような。で、見つけました。建物と水の関係を理詰めに考えて……。僕らが見つけたときは、誰も気づいていませんでした。あとでプレス担当の方に聞いたら、スタッフにも場所は教えられていないとのことでした。

水は、日本人にとって、汚れなく清らかで透明、生命の源で、聖なるものです。グローバルな視点に立ちながら、それが実感できる展覧会です。でも、それはそれでいいのですが、ひとつくらい「泥水」をテーマにした展示が欲しかった。

国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告書 2006—水危機神話を越えて:水資源をめぐる権力闘争と貧困、グローバルな課題—』にはこうあります。
「この池の水はよくない。水を汲むのはほかに選択の余地がないからだ。地域の人たちだけでなく、すべての動物もこの池の水を飲んでいる。この水のせいで、いろんな病気を患っている」ゼネベク・ジェメル(エチオピア、コバレ・メノ)

「ここの状態はひどい。いたるところに下水汚物があって、水を汚染している。たいていの人が、トイレの代わりにバケツやビニール袋を使っている。余りに不潔なせいで、子どもたちは、いつも下痢やいろんな病気に苦しんでいる」マリー・アキニ、 キベラ地区住民(ケニア、ナイロビ)

今日、開発途上国で生活をする約11億人が水を十分に利用することができず、26億人が基本的な衛生設備を欠いた中で暮らしている。
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text & photo by Keiichiro Fujisaki

# by cabanon | 2007-10-05 10:12
 
CEATECで気になったもの
幕張メッセへCEATEC JAPAN 2007(〜6日/土まで)を見に行きました。デッカいテレビはサクッと流して、センサーやインターフェースなどの最新技術をじっくり見てきました。
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ロームの開発した有機EL搭載のLSIです。画面が小さくて何チャンネルか区別がつきませんw
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レンズを通して見た画面。写真はピンぼけしてます。肉眼だともっと高精細に見えます。

アルプス電気のブースはいろんなセンサーがあって見てて飽きませんでしたが、中でもこの直接触れなくても静電を検出するシステムに可能性を感じました。
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手を前に傾ければヘリコプターが前に進み、傾ければ曲がります。黒い台にセンサーがあるのですが、通常の静電センサーは人体に直接触れないと感知しません。この技術では宙を浮いた手の静電容量を検出できます。加速度センサー内蔵のコントローラーを身につけなくても3次元の動きを検知し、体感ゲームが可能になるってわけです。

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コニカミノルタのホログラム技術を使ったメガネ型ディスプレイ。画面を見ながら実世界も見えるシースルーで、しかもレンズとディスプレイが一体化されています。重さは27グラム。画角を大きくしようとすると、レンズを厚くする必要があるので、画像のサイズは小さめです。でも、「電脳コイル」のメガネに一歩近づいたという感じです。

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ドコモの電子ペーパーを使ってキーの表示を変える技術。数字がアルファベットになったり仮名やカタカナになったします。僕のようなケータイメールにいつまで経っても慣れない人間にはウレシイ技術です。

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電子ペンがおもしろかったです。スウェーデンのアノト社の技術を使って、マクセルが製造しているデジタルペン「ペンイット」。(写真は山形大学工学部のブースで撮ったもので、ペンは最新型ではありません)。基本はボールペンです。絵や文字を書くとき、特別な電子機器を使っているという使用感はありません。が、その絵や文字がそのままがBluetoothでパソコンに送信されます。紙は専用紙を使います。紙に極小のドットが印刷されており、ペンの赤外線センサーがドットのパターンを読み取って、文字や絵の形をペンが記憶します。圧力センサーも入っていて筆圧も検知します。

マクセルのブースでは医者のカルテ用のシステムを、山形大のブースではeラーニングのシステムを提案していました。クイズ形式の講義とか、その場でスケッチを描かせて大人数で講評し合ったり、授業で使えると楽しいかも。

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キヤノンのビデオ型シースルー・ヘッドマウントディスプレイは、CGがリアルタイムで背景と一体となって現れます。マーカーが印刷されたこの白い立方体を手でディスプレイを持って眺めると、目の前の箱が下のようにコピー機に見えます。高精細と手軽さに驚きました。
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そのほか印象に残ったのは、NECの人の顔から年齢・性別を認識する技術。監視カメラを使って、リアルタイムに人の年齢がわかるので、マーケティングなどに利用できるとのことです。僕はピッタリ40代男性と当てられて、やや複雑。もう若く見えない…。でも、僕と同い年くらいの男性が20代女性とかなってましたけど。たまにそういうことがあるそうです。

INFOBAR2は一見の価値ならぬ、一触の価値があります。それと、ソニーのRollyは想像以上に小さかった。ウェブ上の写真だけ見て勝手にラグビーボールくらいだと思い込んでました。インターフェースは斬新です。踊りのデモを見るだけ通り過ぎてしまいそうですが、これから行かれる方は、インターフェース(操作方法)の説明までしてもらうことをおすすめします。
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で、帰りの京葉線の車内で見つけた広告。
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ザ☆モダニズム、、、、、、神父はコルビュジエのそっくりさん。支配人は微妙にミース似。ウェディングケーキは第三インターナショナル記念塔、、、、、だったりして。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

# by cabanon | 2007-10-04 12:13
 
未来でもない、過去でもない
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「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」を観た。とても仲良かったけど、卒業以来ぜんぜん連絡を取ってなかった友人に、久びさ会う感じがした。気恥ずかしい。とりあえずお互いあんまりしゃべらない。相手の様子を見て、変わったなとか、変わってないなとか。成長したなとか、声、昔のまんまだなとか。で、そのうちいろいろ思い出して熱くなる。

気恥ずかしいから、画面の隅の方ばかり見てました。シンジは12年前のままDATで音楽聴いてましたね。第3新東京市の建築は、可動式の未来の建築ですが、日用品のデザインは未来のものではありませんでした。ネルフのセキュリティゲートも磁気カード式だし、ケータイより緑の公衆電話のほうが目立っています。ケータイはシンジが圏外だと冒頭で言っていました。ミサトも持っていたけどほとんど使わない。電車の中でもケータイしている人はいなかったし。ケータイは映画制作者にとって使いにくい小道具です。あまりにデザインの移り変わりが速くて、時代を特定してしまいます。第1作で最先端の機種を出しても、4部作の最後の作品の頃にはえらく古めかしいデザインになっている可能性がありますから、出来るだけ登場させないという選択はありですね。

中学生は全員ノートパソコンを使って授業をしているけど、そのパソコンは5年くらい前のデザインの筐体でした。厚いし液晶画面も小さい。クルマは、ミサトのルノー・アルピーヌA310以外、車種を特定できないような描き方をしていました。街中のクルマは時代を感じさせてしまいますからね。ただ一瞬、街角に並ぶクルマの中に、オレンジ色のマーチを確認。ローソンやUCCみたいに、日産ルノーもスポンサーなのかな。相田くんはHDビデオカメラを使ってましたけど、手からはみ出す大きさで、ちょっと前の機種って感じがしました。

プロダクトデザインは「未来」を象徴する小道具ではありませんでした。この映画では、日用品のデザインは、生活感、記憶、既視感、喪失感など人間的なリアリティを感じさせる道具として使われています。

CGは素晴らしい。描画技術は確実に12年前より「未来」です。しかし、エヴァンゲリオンの世界自体が「未来」とは言いがたい。進んでいるのか、進んでいないのか。時が融けています。止まっているのか進んでいるのか、いや逆行しているのか。速いのか遅いのか。エヴァの世界は未来でも過去でもない、もちろん「今」でもありません。しかし、時が融けだしている感覚は、「今」の同時代人が共有する感覚ではないでしょうか。

リメイクですから、多くの観客には既視感があります。庵野さんはその既視感を、真っ直ぐに進まなくなった時の流れを実感させる小道具として、意識的に使っているような気がしました。

かつて20世紀の人々は、時間が未来へまっしぐらに突き進む世界にリアリティを感じていたのですが、どうやらエヴァ以降の世界で、時間へのリアリティの感じ方が変わってきているように思います。未来に向けて同一の速さで進んでいた時間が融けだして、渦巻き歪み加速化し澱む。そこに強いリアリティをある。エヴァ誕生は1995年、阪神淡路大震災やオウム事件の年です。日本では6年早く21世紀が到来したのだと、僕はそう思ってます。

12年の間に、未来へ進んでいた時間のどこかに、巨大ながらんどうができた。映画館の大画面で、ジオフロントの空洞を見て、そんなこと思いました。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

# by cabanon | 2007-10-02 12:05 | お気に入りの過去記事


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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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