品という言葉にハッとしたことがある。昨年末だったか、あるデザイナーに彼の著書に関する話を聞くという仕事の時のことだ。本では「品のある広告」「品格のあるデザイン」といった表現がキーワードのように使われていて、インタビューの際にも彼の口から「品」という言葉が何度も出てきた。

そう言えば品という言葉は他のデザイナーからはあまり聞かない。よくよく見ると3つの口が並んだ、実に奇妙な形をした漢字だ。この口は何かを語るのか。考えていくうちに品という言葉の不思議な力に引き寄せられていった。品とは、品質でもあり品物でもある。英語のQUALITYより意味の幅が広い。goo辞書で調べてみた。
ひん【品】
(1)人や物にそなわる性質のうち、自然と外にあらわれる、好ましい、洗練された様子。品格。風格。「—がよい」「—が悪い」「—がある」「—がない」 以下略。
しな【品】
(1)形があって、人の生活に何らかの役割を果たし、持ち運びのできる程度のもの。また、売買の対象とするもの。「記念の—を贈る」「よい—をそろえた店」「これはお勧めできる—です」
(2)質のよしあしなどで区別した、物の等級。内容などの違いによる、物の区別。種類。「あれとは—が違う」「—が落ちる」「手を変え—を変え」 以下略。 三省堂提供「大辞林 第二版」より
「ひん」と読むと、質の良し悪しを表す。品質、品格、品位、品性、品評、品行、気品、上品、下品。「しな」と読むと、品物、品数など、モノを指す意味合いが強くなる。
が、「しな」でも「品が違う」「品定め」のように質を言い表す場合もある。逆に「ひん」と読んでも、品目、物品、商品のようにモノを指す場合もある。読みはあくまでニュアンスの目安でしかない。

要は「品」が二面性を持っていることだ。「品」は質と物理的実体という全く違う次元を軽々と行き来する。これはもう量子力学的事態である。素粒子は「粒」と「波」の2つの顔があるとされる。電子や光子は一個一個独立した粒子であるが、水面の波紋のようにエネルギーを伝える波動でもある。
品物、商品、製品、品数という使われ方をしても、品はただ物理的な実体だけを指すのではない。
価値を交換するから「商品」である。名前が定められ、値段が決められ、価値が交換される。「品物」も「商品」もモノではあるが、意味や価値を持った記号としてモノというニュアンスが付随する。
「品数」とは商品の総数でなく、商品の種類のことだ。「品数」「品目」「品種」とは、モノを整理するために人が定めたひとつのまとまり、つまり概念上のグルーピングである。
「しな」を『広辞苑』を引くと、【品・科・階】とあり「層をなして重なったもの」というのが最初の語義として出てくる。階段、階層、地位、身分……。「何かの用途にあてる、形のある物。特に売買の対象になる商品」というのは2番目の語義だ。
この「品」は阿弥陀仏の地位を示す。九品仏浄真寺にて
「品がある」とは位の高いものが本来持っているものが、じわっと染み出し、人やモノを包み込み、オーラにまでなる状態のことだ。位が高いといっても社会階層だけを指すのではない。潜在能力や器量の大きさのようなものまで含まれる。
人なら、性格、知性などが滲み出る。モノなら質の良し悪し、価値や用途が染み出して品(ひん)となる。モノを定義し分類し項目づけするなど、モノを概念的に扱うときは、品(しな)という言葉が使われる。
言い換えると、本来あるべき概念が、形に重なり合ったとき、「品」という言葉が立ち上がる。概念上のグルーピングと物理的実体であるモノが重なれば商品や品物になり、人やモノが内に持っている優れた性質が外観や容姿と重なるとき、品は「しな」から「ひん」となる。
デザイナー向けに語るとこうなる──。
品(ひん)とは、優れたクオリティや志の高いコンセプトが、偽りのないデザインとして素直に表現された時に生まれるもの。デザインの上手下手とは「内にそなわる好ましい性質」をいかに品として自然に外へ滲み出させるかで決まる。
ただしデザイナーがどんなに苦労しても、商品や広告のコンセプトが曖昧であったり、クライアントが企業としての志を欠いていれば、品のあるデザインは生まれない。デザイナーは、企業文化を大切にし企業倫理に厳しい志の高い会社との出会いがないと、品格のあるデザインを生むことは難しい。もちろんデザイナーが企業の志を育てるという道もあるが、こちらの道は相当険しい。
ブランディング戦略も「品」の表出という言い換えることができる。製品やサービス、広告や店舗から、いかに「品」を滲み出すか。押しつけるのでなく受け手が自ずと気づくように。
品質、品格、品位、品性、気品……これほどブランドの高い価値を語るのにふさわしい言葉はない。製品に品あり、商品に品あり、である。

そうそう、冒頭のあるデザイナーとは細谷巖氏のことである。『細谷巖のデザインロード69』(白水社)が出版されて著者インタビューを『デザインの現場』に頼まれた。
一連のキユーピーの企業広告など細谷氏の仕事は、まさに「品」の真義の迫ったデザインだ。細谷氏はブランドやブランディングといった言葉を一切使わず、もっぱら品を黙々と表現することで、日本の広告デザイン史に残る優れた企業広告・商品広告をいくつも生み出してきた。品にこだわれば、自ずとデザイナーのなすべきブランディング戦略が見えてくる。細谷氏の仕事を振り返って、そんなことを強く感じた。
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