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藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
自分らしさ(2) そのカラクリ
「じぶん、新発見。」とは糸井重里の1980年の西武百貨店の広告コピーである。美術館もあったし、アールヴィヴァンもあったし、昔の西武はたしかに新しい自分を発見できるような気にさせてくれた。青い鳥のように自分らしさを探し、シンデレラのようなまだ見ぬ理想の自分に憧れる。そんな物語は今も広告の世界で語られ続けている。

「自分らしさ」探しは広告だけの話じゃない。「ひとりひとりの個性を生かし、自己実現の力を育む」となれば教育の話だし、「適材適所で、やる気を刺激し、持ち味を発揮させる」となれば会社の人事の話にもなるし、野球の監督の談話にもなる。

「持ち味」という言葉は、日本で一番教育的な意味合いの強いスポーツ、高校野球で頻繁に使われている。このスポーツの観戦のポイントは「高校生らしさ」と「自分らしさ」が重なり合う姿を見ることになる。坊主頭でユニホームを着た個性を消された選手たちが、チームのために日頃鍛えた「持ち味」を発揮する。炎天下、大声援と応援歌の際限ないリフレインの中、テレビカメラが向けられる。非日常的な祝祭空間の中に放り出された高校生たちは、チームプレイに徹しようと努力するほど、自分の感情を素直に出した生き生きした表情をする。ミスをした悔しさ。勝利の瞬間の喜び。そこをカメラは捉え、新聞は記事にする。

「自分らしさの発見」を謳うエステやコスメは「女性らしさ」を売っている。「自分らしい精悍なスタイリング」と謳う高級車の宣伝コピーは、地位と所得に見合った「らしさ」を買うことを勧めている。昇進したんだからそろそろヴィッツは卒業しろと。

個性としての「らしさ」を謳いながら、社会が求める「らしさ」の枠組みに収まるように仕向けるのが教育や広告の役割である。組織の規律を破ってまで個性を発揮することを誰も期待していない。セグメント化できなくなるまで消費者が個性に目覚めてもらっては困る。広告は常に「時代から外れるな」「空気を読め」と叫び続ける。教育者は言う。自分らしさと自分勝手は違うんだと。

そもそも「自分らしさ」とはきわめて道徳的な言葉だ。自分らしくとは自分に正直に生きることであり、その根底には「正直であること」は「善」という揺るぎない倫理観が存在する。

自分らしさ探しに熱心な人ほど道徳的になる。社会のコード(規範、価値体系)に組み込まれていく。これがカラクリだ。西武セゾンは文化コードを発信して、自分らしさを素直に求める消費者の心を捉えようとした。西武セゾンはすっかり解体してしまったが、流通が生んだブランドとしてセゾンが生んだ最大の成功、無印良品は「良品」という道徳的な側面をアピールしつづけているから、自分に正直に生きたい個性を大切にする消費者に「文化」として受け入れられるのだ。

人をコード化する「自分らしさ探しの二重性」を教育も広告もひた隠しにしているから、自分らしさ探しに行き詰まる人が増える。社会の規範に根本的な懐疑を感じる人に対して、この社会は自分らしさの拠り所をほとんど用意していないのだから。

本来、革新的な人間は自分らしさなど求めない。転がる石に自分らしさを考える余裕はない。さまざまものを巻き込んで突き進むだけ。自分も時代も突き抜けないと新しい表現など生まれない。ラディカルに新しい表現を求める人を「自分らしい、個性的な人」と呼ぶ時に欺瞞は始まる。システムは抜け目なく規範を守り続ける。個性神話とはそういうものだ。


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次世代の「自分らしさ」を書こうと思っていたら、筆が進んで、自分らしさのウソの話になってしまった。次こそこの話の本題、自分らしさ=記憶という話をします。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-01-08 16:21
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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