藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
千鳥ヶ淵の赤い彗星
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どんなにヒドい赤なんだろう、と思って、野次馬気分で見に行きました。イタリア文化会館。「千鳥ヶ淵の緑や桜にそぐわない」と住民が署名を集め、小池環境相に提出し、大臣も理解を示したと3月15日のYOMIURI ONLINEが報じていました。このビルの設計をディレクションしたのは、駅舎を改修したオルセー美術館の設計で知られるイタリアの女性建築家、ガエ・アウレンティ。この赤は漆器の赤とのことです。

いや、別にぜんぜんヒドくなかったです。きれいです。青緑の透明ガラスとつや消しの赤の壁面の対比がえらく美しい。

千鳥ヶ淵の赤い彗星_d0039955_0233288.jpgただ反対する住民の気持ちはわかります。このビルの向かいに二松学舎大学があるのですが、教室の窓からこの狂おしい赤を見たら、そりゃ落ち着きません。しっとり国文学の授業をしていると、西日が反射してきて教室が赤色に染まったらハッハッしちゃいます。

でも「千鳥ヶ淵の緑や桜にそぐわない」というのを理由にしているのが気になりました。この赤は、ピンクやグリーン、それに空のブルーにマッチするはずです。問題はそこじゃない。隣のビルで仕事したり学んだり暮らしたりする人たちに、窓ごしに毎日見えるこの赤い壁面がどんな心理的影響を及ぼすかです。これはちゃんと考えなくちゃいけない。この問題を、皇居のほとりの日本の聖地で外国人が勝手に目立つことやっちゃイカンみたいな話にすり替えないでほしい。

隅田川沿いなら金のウンコもOKですが(僕はあれ好きですけど)、千鳥ヶ淵に面しているだけで「赤」は許されないようです。慰霊の地の桜の名所。靖国と皇居をつなぐ場所。この地の赤は漆の赤なんて呑気なものに見えないのでしょう。

鮮血です──。千鳥ヶ淵周辺には血に塗られた記憶がたくさんに張り付いています。日の丸も赤でしたね。この地の赤が幸福の赤に見えるようになればいいのですが、まだまだ時間がかかりそうです。

桜が咲いたらもう一回見に行きたいです。今度は午前中、東の光が当たるときに千鳥ヶ淵側から見てみたい。桜との相性を見てから賛成・反対を論議してもいいじゃないですか。エッフェル塔だって最初は大反対されたのだから。もしかしたら愛される建物になるかもしれません.
千鳥ヶ淵の赤い彗星_d0039955_1582683.jpg
つぼみはかなり膨らんでました。もうすぐです。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2006-03-18 00:28
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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