藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
イヌカンサツ
山椒は小粒でもぴりりと辛い、という展覧会でした。三軒茶屋の生活工房ギャラリーで行なわれている「犬の鑑札 リデザイン展」(26日まで)へ行きました。会場はとても小さい。最初、えっ作品、これしかないの、と思ってしまいました。植原亮輔さん、神山隆二さんら、クリエーターがデザインした犬鑑札が5点。それとすでに札幌もペットショップMOBBYが商品化している鑑札入れの6点です。
イヌカンサツ_d0039955_1041048.jpg
犬の鑑札のリデザインといっても、正確には、「鑑札入れ」のデザインです。犬を飼うと自治体から「犬鑑札」の金属プレートが渡されます。そのデザインは自治体によって違うのですが、自転車の防犯登録のプレートのように、愛想のないものがほとんどです。なかには「狂犬病予防注射済」と書かれていているものもあります。こうした「かわいくないプレート」をつけない飼い主がけっこういるそうです。しかし、こうした犬が何らかの理由で飼い主のもとから逃げ出したり、迷って家に帰れなくなって、保健所に保護されると、結局「鑑札をつけていない」という理由だけで処分されてしまう。全国の施設で致死処分される犬は、毎年13万頭いて、そのうち半分が鑑札をつけていない犬だそうです。

デザインがダサイから犬鑑札をつけないとか、かわいいからつける、というのも飼い主の意識としては、おかしな点がありますが、でも、犬をモノのように扱っているお役所的なデザインよりは、飼い主が愛犬に抱いているイメージを反映した、かわいいものや高級感のあるものほうがいいに決まっています。

展示されていた作品は、奇を衒ってあまり現実的でないものもありました。良かったのは、神山隆二さんとPORTERのコラボ。商品化すれば売れそうです。

それぞれの作品のレベルがどうのというより、この展覧会自体の芯の通った構成が素晴らしいと思いました。多くの人があまり意識していない問題を提起して、実際に解決策のサンプルを提示し、来場者一人ひとりがこの問題を考えるきっかけになる。クリエーターのお祭りで終わらず、小さな空間の中で、うまくメッセージ性のある内容を構成している。致死処分場写真が掛けられていましたが、しばし立ち尽くして、いろいろ考えました。

世田谷区では、深澤直人さんに犬鑑札のデザインを依頼したそうです。鑑札入れでなく、鑑札自体のデザインです(今回の展覧会では深澤さんの作品は見られません)。展覧会だけで終わらずに、思いが人の心をつなげ、現実を変えていく。素晴らしいことです。

【関連リンク】 深澤さんが犬鑑札デザインをすることを伝える毎日新聞の記事。どんなものができるか、楽しみですね。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-08-14 16:35
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藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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