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藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
粟津潔展──さらしもの
12/1のことですが、金沢21世紀美術館の「荒野のグラフィズム:粟津潔展」(〜3/20まで)へ行きました。粟津さんのデビューから現在までを一望する大回顧展です。規模は昨年の川崎和男展と同じ。金沢でしか見られない展示というのも同じです。
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木の向こうに見える女性の肖像が阿部定


ポスターの部屋で圧倒されました。15分くらい立ちつくしていました。日宣美賞を受賞した実質的なデビュー作「海を返せ」(1955年)が唯一額装され、出口の上の特別な位置に配置され、その1点から粟津さんの世界が多様に増殖していったことが見て取れます。モナリザや阿部定の肖像にこだわるのも、「海を返せ」の老人が原点だったことがわかります。モチーフとしてアタマとテが執拗に繰り返される。

アタマとテをつなぐのがコトバです。コトバは文字だけではありません。視覚言語もある。海亀や花札の図像、男女の交わる姿など、象徴的意味を発するイメージが立ち現れます。文字も右から左へ客観的事実を伝える道具としてでなく、歴史と地域を越え、人々の集合無意識をつなぐ象徴性を帯びたものとして扱われています。頭でコトバを生み、手でコトバを文字やイメージとしてグラフィック作品として定着させる。印刷物なのに、油彩の筆遣いのような、作家の身体の痕跡を感じました。

写真もよかった。「めざわり」を感じるんです。目障りって意味じゃありません。眼触り。眼で触ったものを撮っているという感じ。

カタログを紐解き、粟津さんが70年代に書いた文章に眼を通しました。「複製時代のことをグラフィズムとよぶ」──。印刷物だけでなくテレビ、日用品、ファッションなど、日常生活が複製物に囲まれた、それが「自然」になった状態。表層の中に暮らし、その表層が内実が宿る世界。ヴァルター・ベンヤミンは複製技術がオリジナルの芸術品に宿ったアウラを急速に消失させたと指摘しましたが、粟津さんはグラフィズムにおいて「ベンヤミンの意見とは逆に」、複製物にアウラが宿ることを実証しようとします。その試みの表れがこの展覧会に頻出する「阿部定」のモチーフです。犯罪者の肖像を今更しつこくさらしてどうするんだ、と思いましたが、さらすこと、つまりexpose(露出する、陳列する)を主題にしているのだから、その批判はピントのずれたものでした。

作品の奥底から発するアウラでなく、さらすことで何かまとわりつき、それがアウラとして作品を覆う。まとわりつくのは社会の奥底に流れる欲望。これはウォーホルのマリリン・モンローと同じ構造です。粟津さんの作品は、スターのアウラと犯罪者のアウラは本質的に同じものだというのを気づかせてくれます。

違うのは、阿部定の図像の場合は、欲望というより業(ごう)といったほうがいいこと。マスメディアによって増殖する大衆の業の深さが、阿部定の業の深さと鏡のような関係となっている。対照であっても対称とはいえず、猟奇の美女の肖像にまとわりつく複製社会の業のほうが強烈で、阿部定の肖像自体は、性格も情念もはぎ取られ、整った顔立ちの女性ならもう誰の顔でもよく、ますます空疎なものになっている。それが痛々しい。

といってもミュージアムショップに売ってた阿部定Tシャツは買う気がしませんでした。さらすことの意味を問うのは美術館や映画館や小説の中だけにしとけばいい。街中にさらすのはどうかと。もう安らかに眠らせてあげるべきかなと。

いい展覧会です。戦後の日本デザインを語りたいなら、見ておくべきものです。

それと祖父江慎が装幀を担当したカタログがいいです。粟津さんへのオマージュともとれる斬新なタイポグラフィで粟津さんがかつて雑誌等に寄稿した文章を組んでいます。実験的だけど判読性がまったく損なわれていない。テキストを読み込んで大胆なことをやっているというのがよく分かる。一般書籍扱いなので、書店やAmazonでも購入できます。『粟津潔 荒野のグラフィズム』(フィルムアート社)

【関連リンク】粟津潔さんのオフィシャルHP
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2007-12-28 18:22
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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