藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
毒リンゴの映画
ディズニー映画「魔法にかけられて」を観ました。いや〜、驚愕の映画でした。鳥とか小動物とかとお話ししていた2次元のお姫様が魔女のたくらみによって、実写の現代NYに迷い込む。ディズニーのファンタジーに対して、ディズニー自身が「それはありえん」というツッコミを入れます。リスや小鳥など森の仲間たちと話していたお姫様は、NYでは都会に暮らすあの小動物やあの昆虫たちがお友達です。都会のお友達たちとのお掃除シーンはディズニー史に残るシーンでしょう。これもまたありえない世界です。

しかし最終的には、観客は「真実の愛」を謳うファンタジックなディズニーのリアリティへ引きずり込まれる。幻想が自己をパロディ化して幻想を強化している。つまり、現実的じゃないと一度現実から追放された幻想が、自己パロディをつくることで、再び現実の中に侵入し、再び人々を夢の世界に浸らせる力を強めているのです。

アメリカの今を映し出した映画だと思いました。イラクやアフガン……。「アメリカがやることはみな正義」という考えは、ディズニー映画同様のありえないファンタジーだと多くの人が思っていても、新聞が批判したり、識者が討論したり、テレビで政治家のパロディを繰り返すことで、幻想から抜け出すどころか、アメリカは特別だという幻想に縛られていく。自己批判や自分いじり、パロディ化は夢から醒めないための妙薬だったりします。

NYに現れたお姫様が映画の中でだんだんNY生活に馴染んでいくように、現実世界は幻想世界を表面上は馴化していきますが、実は幻想が現実に巧妙に侵入していく過程で、ついにはアリエナイ思い込みが現実化してしまう。戦争が起こったり、隣国を憎しみを抱いたり、世界で何が起こっているかが見えなくなったり。もちろんそうしたことは日本でも起こっている。

この映画は、ファンタジーの毒を暴露しながら、さらに毒を広めているところが面白い。万人向けの楽しい映画ですが、観ようによっては毒リンゴ的映画です。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2008-04-03 23:43
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藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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