藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
講義を終えて
昨日のtakramの法政大学院公開特別講義。ご来場いただいた皆さま、どうもありがとうございました。

濃密かつ刺激的な話をうかがえて、引き出し役冥利に尽きました。プロトタイピングの話は特に面白かった。田川さんがiTunesとiPodあたりを引き合いに出しながら、これからあるべきプロダクトを時系列的に分析していた話など、その視点の鋭さに感服してしまいました。機能とサービスね。ふむふむと。

セミナーの聞き手役やシンポジウムのナビゲーターを何度かやってます。観客がいる場での引き出し役は、雑誌のインタビューとはかなり違う難しさがあります。

人の話を引き出す仕事では、公開だろうと非公開だろうと「あ〜あ脱線しちゃった」とか「次の質問どうしよう」と、展開のことをいつも考えています。話は聞いているのですが、相手の話が面白いか、面白くないか、を常に考えているので、内容自体は理解していないことがあります。あっこの話は記事にならないと判断した時点で、どのタイミングで話を本題に戻すかだけを見計らっているので、話自体は思いっきり聞いてないことがあります。

雑誌インタビューの場合は、録音をしているので、脱線してもとにかくしゃべってもらいます。気持ちよく話してもらうことが大切。あとで編集すればいいのですから。カラオケしてもらうんです。

話の腰を折られると、急にトーンダウンしてしまう人がけっこう多いんです。「でも、こうじゃないでしょうか」とか意見してしまうと、構えてしまって先に進めなくなる。そうなると結果的に面白い話が聞けなくなってしまいます。日本人から話を聞き出すときはディベートよりリラックス。カラオケ的な場をつくりだすようにしたほうが、大事なことをよくしゃべってくれます。

「カラオケ的」は一概に悪いことではありません。聞き手がどんなことを言ってくるかを待ち構えて、今日はどんな歌を歌えるか、今までにない歌を歌えるかも、といったことを楽しんでいる人がいます。受け身の達人──。そういう人へのインタビューは楽しいです。攻めの姿勢で異なった意見をぶつけあうディベートよりも、質問を楽しむ受け身から未知の自分を引き出す姿勢のほうが生産的かもしれません。最終的には自分の歌をちゃんと聞かせちゃうんですけれど。

やっぱり観客のいる場で、マイク独占のカラオケはよくありません。田原総一朗氏のようにバンバン仕切る必要があります。ダラダラしたな、面白くない、と思ったらすぐに話を切り替える。脱線した話をしはじめた人には、観客がいることを意識してもらうことを伝えます(ここが難しいけど)。気持ちいいのはあなた1人になってますよってニュアンスで。

観客のいる場で聞き出し役をやるときは、その作業に専念します。面白いか面白くないか、観客がついていっているかいかないか、説明をはっしょったから具体例を聞き出そうといったことをずっと考えているだけですから、話の深部は聞いてません。深部を聞くのは録音を聞き直した時です。だから、後で多くの人から面白かったと褒めてもらったセミナーでも、僕は相手の話を何も覚えていないということがあります。

しかし、takramは違いました。「面白い!」と約2時間ずっと思えて、「この後どうしよ」と心配する必要がなく、話しの内容をしっかり頭に入れることができました。カラオケ的講演にならず、聞き手の意見にも的確に対応してくれました。たまにあるんです、この感覚。青山ブックセンターで柴田文江さんと村田智明さんを迎えて引き出し役をやったとき以来です。takramさんに感謝です。

講演の内容は大学院の授業で、今制作中のフリーペーパーでお伝えできると思います。(どんなフリーペーパーかは、近々ここで発表します)。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2008-05-22 21:22
<< ふるまい チャールズ・イームズ写真展ギャ... >>


S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

Twitterもやってます!

*当ブログの奥座敷
KoKo Annex

ライフログ
以前の記事
カテゴリ
その他のジャンル
ブログジャンル
リンクについて
当サイトはリンクフリーです。
お気軽にリンクして下さい。

本ブログの記事と写真の
無断複写・転載を固く禁じます。




Copyright 2005-2019 Keiichiro Fujisaki All rights reserved
本ブログの記事と写真の無断複写・転載を固く禁じます。