藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
遊び心(1)
「遊び心」という言葉が、デザインの世界のあちらこちらを飛び交っている。やわらかい語感の平易な言葉で、言い換えようにも他に代わる言葉がない。楽しいデザイン、ユーモラスなデザイン、機知のあるデザイン……、どれも「遊び心のあるデザイン」のひとつであるが、「遊び心のあるデザイン」という言葉が本当に意味するところを言い換えた言葉ではない。

濫用されると、「やさしい」という言葉と同じ運命をたどってしまうと危惧している。「環境にやさしいデザイン」「地球にやさしい」「人にやさしい」「子供にもお年寄りにもやさしい」などと頻繁に宣伝文句に使われるようになって、「〜にやさしい」という表現はいささか胡散臭いものになりつつある。「遊び心」もそうなりかねない。だからちゃんと「遊び心」を考えないといけない。

「遊び心があるデザイン」とは、どういう場合に使われるのだろうか。

エッと驚いたり、オヤッと不思議を感じたり、ハッと何かに気づいたり、ニヤッと笑ったり、ホッと癒されたり、意外な仕掛けにドキッとしたりフーンと感心したり、ワクワクしたり、ほのぼのしたり、そうしたものをひっくるめて「遊び心のあるデザイン」と呼ばれている。

デザインも人間もマジメすぎると窮屈で退屈だ。デザイナーは使い勝手やわかりやすさを心がけ、材料や構造の特質を生かし、製造のしやすさを考え、コストを抑え、リサイクルまで配慮する。でも、それだけで人の心を惹くデザインができるとは限らない。

そこで遊び心が必要となる。遊び心をひとさじ添えると、淡泊な優等生のデザインにコクやまろみやうまみが増す。奇抜さ狙いで使い勝手やわかりやすさを無視した乱暴なデザインや、単に商品を差別化するために派手な色づかいにしたり人気キャラクターに頼った安直なデザインを、「遊び心があるデザイン」とは決して言わない。根がマジメで正直だから、「遊び心がある」という表現が成り立つ。酒池肉林、放蕩三昧に明け暮れる人に、あの人は遊び心があるといってもリアリティはない。それは遊び人……。「根がマジメ」は「遊び心」の必要条件なのだ。

建築家アルヴァ・アアルトがこんなことを書いている。
「私達が正しい道へ向かうのは、建物の構造的な部分やそれらに由来する論理的な形態、経験的な知識が真の意味における〈遊びによる芸術〉に染められた時のみである。技術や経済は、常に人生を豊かにする魅力と組み合わされなければならない」(アルヴァ・アールト展セゾン美術館カタログ044頁より)。

遊びは人を正しい道に導くマジメな芸術、というわけだ。

チャールズ・イームズはしばしばこう言ったという。"Take a pleasure seriously." 「楽しいことは真剣に取り組もう」。

【本日のまとめ】
根がマジメで正直なデザインでないと、遊び心のあるデザインとは言えない。

明日に続きます。
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2005-06-10 02:53
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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