人気ブログランキング | 話題のタグを見る

藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
遊び心(2)個を消して遊ぶ
新人だった頃。僕が『デザインの現場』に配属されて1年目、『流行通信』のエディトリアルデザインの取材を担当させてもらった。1987年当時の『流行通信』のデザインは、長友啓典さん率いるK2が担当していた。
遊び心(2)個を消して遊ぶ_d0039955_19103238.jpg
その時、長友さんから「遊び」の話を聞いた。酒や女の話ではない。長友さんが『デザインの現場』をパラパラめくって語った話は今も忘れられない。
「どのページも均等に情報が詰まっていてデザインもしっかりしている。だけど遊びがないだよね、キミのところの雑誌は。クルマのハンドルにも遊びがあるでしょ。もしハンドルに遊びがないと、(ドライバーの細かい動きにいちいち反応して)運転は難しい。『流行通信』も創刊の頃は遊びがなかった。若いカメラマンがファッションのことをよく勉強して、個性を出そうとして、みんなギンギラギン。デザインもページをめくるたびに、これでもかこれでもかと主張している。見るほうが疲れてしまう。最後まで読むのに体力がいる。メジャーになるには遊びがなくちゃ。マイナーはマイナーで大切なんだけど」

この言葉、僕にとっては座右の銘並みです。というか、ようやく最近ライター仕事で、長友さんの言う「遊び」を実践できるようになってきた。300字しかない原稿をどうまとめるか。以前は出来る限り情報を詰め込むことばかり考えていた。どうだ、オレこんなことまで知ってるぞ、調べたぞと。でも、今は300字の原稿なら270字のつもりで書く。あと30字で遊ぶ。

どの程度どんな遊びを入れるかはセンスと経験にかかってくる。ギャグを入れたりユルくすればいいってものではない。ハズすとイタイ。だから、心と時間に余裕のない時は遊ばない。書く媒体に合わせて遊び方は慎重に変える。遊ぶ前に十分伝えたいことを絞る。そんなことを心がけているがまだまだだ。「お兄さん、遊び方お上手ね」と言われるレベルに達しているとは思えない。

先ほどの長友さんの言葉を正確に思い出すために『デザインの現場』87年12月号を書庫から引っ張り出して、自分がまとめたインタビュー記事を読んでいたら、長友さんがこんなことも語っていた。
「基本的にはアートディレクションやデザインの仕事は、匂いとか個性を出す必要が。僕の仕事の仕方というのは、長友とかK2とかの匂いを消そう消そうとしているわけで、クレジットを入れているのは、責任において入れているだけだ」

“個を消して遊ぶ”ってわけだ。これが上手な遊び方ってやつではないのか。このスタンスは、田中一光さんや大貫卓也さんや深澤直人さんらのデザインにも通じるように思う。

個を消して遊ぶには、どうしたらいいのか。イームズ流に言えば真剣に遊んで(Take a pleasure seriously)、遊びの極意を探る覚悟が要りそうだ。

かといって真剣さが空回りすると、粋な遊びを熟知した(お姉様?)方たちに、「ったく、マジメな人ほどガツガツして遊びが下手なんだから……野暮っ」と言われかねない。

長友さんの「クルマのハンドルの遊び」の喩えは、極意を考えるヒントになる。クルマのハンドルの遊びとは緩衝地帯であり、クルマのメカニズムにとってシステムが機能しない余白だ。しかし操作する人が現れると、システムが機能しない部分が必要不可欠となる。機械を作動させるメカニズムシステムと、人と機械のインターフェイスのシステムは別物だ。人と機械をつなぐシステムにとって、機械を作動させるシステムの余白が大切な構成要素になっているのだ。機械の無意味がヒューマンインターフェイスの必要となった地点に「遊び」が生まれる。

余白の力を知らないグラフィックデザイナーはいないはずだ。白地に文字が書いてあるとする。白地には記号がない。言語による意味体系から外れた場所である。が、言語の外に意味を見つけるのもまた人間である。白地の白がどんな白か? 青みがかった白なのか、赤みがかった白なのか、純白か。白地の量は? 文字がびっしりなのかスカスカなのか。汚れて黄ばんだ白なら、そこに時の経過を感じるし、余白をたっぷりとったレイアウトには言葉ひとつひとつを噛みしめてゆっくり読んでほしいという編集者やデザイナーの意図を感じることができる。

余白といっても白地のことだけ指すのではない。ここで言う余白とは、人とモノ、人と空間、人とグラフィックをつなぐ、隠れたチャネルのことだ。無意味や無駄、表現やメッセージが限りなく希薄な地点、システムが働かない領域、構造の不在もしくは過剰を、人とモノ、人とグラフィックをつなぐヒューマンインターフェイスにとって重要なファクターに変えてしまう力こそ、デザインの力だと思う。

まだまだ続きます。

***************
参考リンク
深澤直人氏がデザインディレクターを務める±0のコンセプト
大貫卓也氏のインタビュー Future Life Magazine vol.2
text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2005-06-11 19:12
<< 遊び心(3)余白と空白 遊び心(1) >>


S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

Twitterもやってます!

*当ブログの奥座敷
KoKo Annex

ライフログ
以前の記事
カテゴリ
その他のジャンル
ブログジャンル
リンクについて
当サイトはリンクフリーです。
お気軽にリンクして下さい。

本ブログの記事と写真の
無断複写・転載を固く禁じます。




Copyright 2005-2019 Keiichiro Fujisaki All rights reserved
本ブログの記事と写真の無断複写・転載を固く禁じます。