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藤崎圭一郎のブログ。「デザインと言葉の関係」を考えます。

by cabanon
 
黒いたぬき
体調がすぐれないときは、おかゆを食べる。治りかけると、外に出て、たぬきうどんを食べる。
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関西人がキライな黒いつゆのうどんです。中学、高校の時は、広島県にいたので、白い出汁のうどんの旨さもわかっているつもりです。けれど体調が悪いときは、「黒いたぬき」が食べたくなります。中学生のときは特に黒いつゆのうどんが恋しかった。

小さな頃から馴染んでいた味なんです。横浜の実家の近所にソバ屋があって、たまに出前をとりました。僕はいつもたぬきうどん。店主のジイさんが歩いて運んできました。一度、ジイさんがウチに来る途中、出前のオカモチを担ぎながら立ち小便していたのに遭遇したこともありました。その光景が今でも脳裏に焼きつくほどのプチトラウマですが、それでもその店のうどんは大好物でした。

で、大学生になって関東に戻ってきて、たぬきうどんを食ったのですが、どこで食べても子どもの時の味と違いました。似てるけど何かが違う。

ずっと考えていて、やっと理由が分かりました。出前でジイさんが歩いている数分の間に、うどんに、つゆが染み入るのです。白いうどんがだいぶ黒くなる頃合いがうまい。天かすの油がつゆに混じり、つゆも天かすも甘くなる。よく甘辛タレの馴染んだみたらし団子のような風味になるのです。

それが分かってからは、たぬきうどんはテーブルに供されてすぐには食べないようにしています。1分待つ。もちろん出前の味にはなりません。ちょっとでも待ったほうが、気持ち、味がうどんに染みて、うまくなる。

キツネうどんは待ってもうまくなりません。キツネうどんは圧倒的に関西風のほうがうまいです。ソバだと味が染み入るまでに時間がかかるので、たぬきそばは頼みません。つゆが染み入ってうまいのは、黒いたぬきうどんに限るんです。

でも、先日、打ち合わせしながらの昼食で、店屋物の鴨南蛮そばを食べたときに、やはり同じような出前効果を味わいました。ソバはのびてしまってたけど、鴨の脂がソバと焼きネギに染み渡っていました。店で食べる鴨南蛮では味わったことのない味です。

麺はのびきってました。とても、人にうまいと薦められるものではありません。でも、うまい。

腰のないうどんもうまいんです。アルデンテでないスパゲッティもうまいんです。ナポリタンとかバター醤油で炒めたキノコのスパゲッティとか。

□□は××ではくてはいけないという絶対的な評価基準を使って、ものを評価するのは、批評家としては楽チンなことです。勇気がいるのは、□□はなんで××じゃいけないの?って別の視点を投げかけること。僕は、それが本来批評家の仕事だと思っています。世の中にすでにある評価基準の権威を強化させるしか能がない人たちは、批評家ともジャーナリストとも呼べません。

じゃあ、たぬきうどんの旨さを語るのが、批評かというと、そうも言い切れないわけです。

世の中には、批評とか議論とか評価とか、どうでもいいものってあるんです。いいじゃん、好きならってもの──。そうしたものをあえて語ることには危うさがあります。ちょうど日用品のデザイン批評と同じ危うさが。

たとえば、ウェブサイトや雑誌で、評論家が、△△さんがデザインした××ブランドの電気ケトルを使い倒して批評して、最も浮かび上がるのはことは、その製品の使い勝手の評価や総合的なデザインの評価ではなく、「△△さんがデザインした」「××ブランドの製品」という事実なのです。

「△△さんがつくった」たぬきうどん、「老舗××の」たぬきうどんに、何が意味があるだろうって思うのと同じくらい、「△△さんがデザインした」電気ケトルとか意味がないし、伝える必要が本来はないことで、そうしたものは語らない。語らないのもジャーナリストや批評家の役割です。

などなどと、うどんを食いながら、考えたわけで、ようやく体調が少し戻ってきたようです。
黒いたぬき_d0039955_531911.jpg

text & photo by Keiichiro Fujisaki

by cabanon | 2009-04-09 17:55
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Profile
藤崎圭一郎
Keiichiro Fujisaki
デザイン評論家。編集者。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」

著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』

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